翌日は立てた柱に筋交い、根太や棟木や垂木を張っていく作業だ。
柱の具合を見てみると、結構固まっていてグラグラはしない。元々硬い土だし、穴に柱を入れるときに突き固めたのもあるだろう。
一応、もう一度上から適当な丸太で柱の周りを叩いて固めておいた。なるべく空気を抜いて腐食が進みにくいようにする意味もある。ハンバーグのタネみたいには行かないだろうが、まぁ気休めだ。
テラスだし、壁板は貼らないので筋交いは柱の根元だけにする。地震の時には脆いだろうが、テラスだからということで、その辺は目をつぶることにした。
そもそも、そんなに大きな地震もここ数百年はないと聞く。そう聞いていたら何度か大きな地震があったのが、前の世界で俺が経験したことではあるのだが。起きたらその時はその時だ。
根太や板を作るのはサーミャとヘレンに任せることにした。俺たちはそれらを組み付けていく係だ。
「エイゾウが本気で作った特製の大鋸だからな、メチャクチャ切れるぞ」
「へぇ……うわ、ホントだ。ワハハ、なんだこれ」
「だろ、切れすぎて笑っちゃうよな。アタシも最初そうなった」
俺の製品に対する評価がいささかおかしいようだが、楽しく作業できるならそれで良いか。
残っていた板などから使えそうなものを見繕ったりもしながらみんなで作業していく。
意外と身軽なリケとディアナ(木登りは得意、らしい。貴族のお嬢様がなぜ得意なのかは聞かない方が良いだろう)が屋根の仕事、俺とリディで床の仕事だ。材木を引き上げるのは普通は大変なのだが、クルルがいるおかげで随分とスムーズだ。
「落ちないように気をつけろよ」
「はーい」
足場もあるにはあるが簡単なものしか作ってない。それでも身体能力によるものか、リケとディアナは危なっかしいこともなく作業をこなしていく。
クルルが棟木や垂木を上げ、リケとディアナが設置していく。その間に床の方の作業もこなす。
作り置きしておいた和釘で柱と柱の間に筋交いを張る。ホゾ穴を切って凝った作りにしても良かったのだが、今回はそれもなしである。その筋交いの上に根太を渡していった。
この日は屋根板が貼られてない屋根と、床板が貼られていない床が完成したところで終わった。家の方とマッチしているが、足場がなかったら建築途中ではなく、崩壊した離れみたいに見えなくもない。
後からテラスを作りつける家ってのもそうそうないだろうしなぁ。それでも思ったより早く作業が進んでいる。これなら明日には出来るかな……。
そして翌日。サーミャとヘレンが前日のうちに板の切り出しも終えていたので、2人にも加わってもらって屋根板と床板を打ち付ける。
小気味よいリズムで音があたりに響いている。いつもの鍛冶仕事とはまた違う音で、これはこれで面白いな。
「いてて」
小気味よい音の代わりに、床板を打ち付けていたヘレンが顰めっ面をした。どうやら自分の指を打ち付けてしまったらしい。
「大丈夫か?」
「うん、そんなに強くは打ってないから平気だよ」
「見せてみろ」
俺はヘレンの手をとって見てみた。申告の通り、特に赤くなっていたりもしない。これなら平気そうだ。
「痛みだしたら言えよ」
「わ、分かった……」
小さい声でそう返すヘレン。俺は本当は痛かったのかなと思いながら、自分の作業に戻った。
「よーし、これで終わりだ!」
俺は床板を止める最後の釘を打ち終わって、大声で言う。
他の皆がパチパチと拍手をして、クルルが外から首を入れて「クー」と鳴き、ルーシーはあたりを走り回っている。
テラスの完成である。壁なんかを作る必要がなかった分、楽と言えば楽だった。それでもうちの家族総出で3日かかっているわけだから、おいそれと作れるものでもないな。
こういう施設はそうそう増やすものでもないが……。
「これで雨が続いてもちょっとは外の空気が吸えるな」
「洗濯物も出来るね」
「そのうちベンチでも置こうかしら」
「雨に弱い子もここで育てていいですか?」
「おー、風が気持ちいいな」
「わんわん!」
家族の皆がワイワイと出来上がったばかりのテラスについて話し合っている。
俺は「よしよし。お前も頑張ったな」とクルルを撫でながら、ここでのんびりと過ごすことも、家族の「いつも」に加わると嬉しいんだが、とそう思った。