天然のアーケードをくぐって家まで辿り着いた。家の周りには木が生えていないので、霧雨が舞うように降っている。
荷物がなるべく濡れないよう、クルルを荷車から離したら急いで運び込みを済ませた。
それでもそれなりに湿ってしまっている(調味料、香辛料のたぐいは瓶に入れて蓋をしていたので平気だった)が、使う頃には乾いているだろう。
俺たちの体も濡れているが、先にクルルとルーシーを小屋に入れる。その間にディアナが家からタオルを持ってきてくれて、皆で2人(匹?)の体を拭いてやった。
「雨が止むまで、あんまり外に出ちゃダメだぞ」
「クルル」
「わん!」
俺が声をかけると、分かったのか元気よく返事をしたので、いいこいいこと撫でてやる。クルルは俺の顔を舐め、ルーシーは尻尾をパタパタと振った。
”子どもたち”の世話が終わったら自分たちだ。家に戻って自分の部屋に戻ったら、服を脱いで体を拭いた。
こう言うときに風呂があれば体を温められていいのだろうが、家にはまだないので、薄めのミント茶を淹れることにした。
「せっかくだから、どーんと雨水を溜める設備も作ったほうがいいのかな」
ミント茶を飲みながら俺は言った。飲用水にはできない(湖の水も沸かしてから飲んでいる)だろうが、生活用水にはできるだろうし、大層な設備でもないから今回のついでで作るのはありなように思う。
「色々使えそうですけど、長く溜めたままだと腐りませんか?」
答えたのはリディだ。農作業に関連しそうだからだろう。
「飲み水にはしないつもりだが、腐ってしまうと良くないか」
俺が言うと、リディはコクリと頷いた。
「そこから病の風が出たりしますから」
なるほど、病原菌がその水槽で増えたりして、うっかり何かの拍子に体内に入るとマズいのは確かだな。殺菌もなにもしない雨水だしなぁ……。
「じゃあ、2~3日で使える程度の大きさにして、なおかつ排水が出来るようにしておくのがいい、と」
「そうですね」
再びリディが頷いた。持て余すほどの水を貯めても仕方ないし、水を汲んでくる回数を減らせる、くらいの規模で留めておくのが吉か。
「あとは屋根付きのテラスを作らないとな」
「いよいよ森の中にあるのが不思議な家になってくるわね」
次はディアナが混ぜっ返す。元々森の中にあるにしては変な家だが、テラスまであるとなるとそこに拍車がかかるな。
「洗濯物を考えたら、作らないのも不便だろう?」
「鍛冶場で干してたら乾かないですかね」
今度はリケだ。鍛冶場は火を扱うから室温が高い上に乾燥している。そのおかげなのか、肉なんかは乾燥するのが早い……気がする。
「まぁ、乾くには乾くが……肉なんかと違ってなんかの拍子に一気に引火しかねないのがちょっと怖いな」
肉も脂に引火することはあるだろうが、その前にジュウジュウと焼けるから気がつくだろう。服の生地もいきなりボッと火がつくわけでもないとは思うが、火のつきやすさは生肉とは段違いだと思う。
それに、肉はまた取ってくればいいが、服はなかなかの貴重品だ。布生地自体が前の世界と違って豊富に用意できるものでもないし。
「最悪の場合、1ヶ月以上換えも下着もなしは厳しくないか?」
そう言うことに無頓着な俺でも流石にそれはキツい。そう言うと、
「まぁ、そうねぇ……」
「換えはともかく、下着はなぁ……」
ディアナとヘレンが同意した。ヘレンは傭兵稼業で服の換えができないときはあるので、多少の期間は耐えられるようだが、長期となるとさすがのヘレンでも厳しいらしい。
「うーん、アタイもちょっとやだな」
サーミャも生活スタイルからあまり気にしない方ではあったようなのだが、この数ヶ月、特にリケやディアナと一緒に暮らすようになってからは快適さに目覚めてしまったらしい。
シャワー付きトイレの快適さが分かったら戻れないみたいなもんか。
「じゃ、最優先はテラス、ついで雨水を貯める水槽だな」
夕食を前に、明日からの予定を決めてしまう。忙しくなるが、また家が充実するかと思うと、俺はワクワクした気持ちを感じずにはいられなかった。
明日からが楽しみだな。