再び人でごった返す街路を6人で行く。
さっきみたいな事がまたあるといけないので警戒はしているが、ディアナに聞いても「ああいうことはあまり聞かない」らしい(街中の犯罪行為が貴族の娘の耳にどれくらい届くかはともかくとして)し、さっきの連中が失敗したことが分かれば、他の連中も手控えるだろう。その分は若干気楽ではある。
思ったよりも早く用事が済んでしまった。まだ家に帰るには早い時間なのだが、早くエイムール邸に戻るべきか、それとも少し街の様子を見ていくべきか。
エイムール邸に戻るように動いてはいるが、せっかく都に来たのだし、他の店を覗いてみるのもいいだろう。
「考え事?」
どうしようか迷っていると、ディアナが声をかけてきた。彼女は都に来てからテンションが高めだ。1月に1回とか来るのも良いかもなぁ。そのたびにエイムール邸に世話になるのか、という問題はあるが。
「考え事ってほどのもんでもないよ。せっかくだから、他の店を覗いていこうかどうしようか迷ってただけだ」
「なるほどねぇ。いいんじゃない?」
エイムール邸にはクルルとルーシーを預けっぱなしだし、戻る選択肢もありだと思う。都は魔力が薄いから、クルルの腹具合も気になる。彼女は食事の代わりに魔力を摂取する。
逆に言えば魔力が薄いところではその分を食事で補う必要があるわけだ。あまり長いこと魔力の薄いところにいると、腹がどんどん減っていくはずなのである。
だが、とりあえず
「そう言えばリディは平気か?頭痛とかはないか?」
「ええ。これくらいの時間ならなんともないです」
リディは微笑んだ。エルフである彼女も魔力の定期的な供給が必要だが、数日くらいなら無くても耐えられるらしい。クルルのように腹が減るのかどうかは怖いので聞いてない。
魔力が必要な理由は「そういうものだから」ではあるが、エルフが長命である理由は魔力の摂取が大きな要因らしい。細胞の老化を魔力で抑えてるとか、そんな感じなんだろうな。
数日平気とは言っても、頭痛がするとか体調に影響があるならさっさと帰るところだが、そうでも無いらしい。
じゃあ、他の皆に異存がなければちょっと露店でも冷やかしていくか。
「他の皆も大丈夫か?もう目的は果たしてるから、人に酔ったとかあるなら帰ろう」
「大丈夫だよ」
「私も大丈夫ですよ」
「アタイもへーき」
みんな大丈夫なようである。じゃあ、せっかくだから回るか。
「じゃ、ちょっと露店を見ていこう。欲しいものがあれば買うから言ってくれよ」
俺の言葉にそれぞれ了解の声が返ってきて、俺達は足を露店の多い方へ向けた。
露店が多い、ということは当然ながら人が多い。その分警戒も強めないといけないわけだが、今のところ怪しいやつはいない。
巨人族やリザードマンなどの珍しい種族も数多くいる。とは言え、一等珍しいのはエルフのリディなのだが。
そんなわけでやはりそれなりの注目を集めつつ、いろんな露店を見て回る。
思ったよりも食べ物の露店は少ない。甘い感じのパンみたいなやつを売ってる店でそれを買いつつ聞いてみたところ、
「都の露店で温かい食べ物を売るのは、かまどの準備やらが大変なので少ない」
ということだった。そう言えばこの店も、もう焼いたものを並べているだけである。朝イチでパン屋のかまどが空いたら、そこを借りて焼いて持ってきているのだそうだ。
情報料ということでお釣りを遠慮すると、にこやかに色々教えてくれた。こういう情報はディアナも知らないので、直接集めるに限る。
人々の間をすり抜けつつ、時折俺に突き刺さる視線に「もしかして、女を侍らしている男に見えてるのでは」と若干の冷や汗を流しながらまわっていると、珍しく紙を扱っている露店を見つけた。
そこの店主と、背の低い女性が話し込んでいる。
「もう少し安くならないのです?」
「お上に納められないやつを持ってきてるから、安くはしてるんだけどこれがギリギリだねぇ」
女性は紙が欲しいが、少し高いようだ。見てみると、なるほど品質はなかなか良さそうに見える。それだとまぁ、値切るのは難しいだろうな。
「じゃ、私が出しますよ」
俺は後ろから口を挟んだ。女性はびっくりしてこちらを振り返り、さらにびっくりした顔になる。
「エイゾウさん!」
「どうも、お久しぶりです。フレデリカさん」