ルーシーがいち早く食べ終わって辺りを走りたそうにしていたので、例によって「見える範囲でな」と言うと、元気よく返事して走り始める。
うたた寝をしていたクルルもそれを察したらしく、のそりと起きてゆっくりと後を追い始めた。
ルーシーもちゃんと言いつけを守って、俺たちの視界からは離れないようにしている。本人(本狼?)も俺たちの見えないところに行ったら危ないのはなんとなく理解してるんだろうな。
そうやって走り回る姿を見ながらの飯はなかなか楽しいものになった。
そうやってのんびりした昼食を終えて、俺とサーミャが横になる。他のみんなは座ったままで、なんだか外国の公園でのんびりしている家族みたいだ。
「ルーシーの小屋どうするかなぁ」
俺はつぶやいた。別に家かクルルの小屋でも十分な気はするんだが、専用の犬小屋ならぬ狼小屋があっても良いかも知れないな。DIYの基本って感じもある。
いや、もう部屋の増築とか走竜の小屋まで建てておいて、DIYの基本もなにもないのも確かではあるが。
「いらないんじゃない?」
そう言ったのはディアナである。
あれは多分、家に居させれば良いとか思ってるな。
「貴族が狩猟犬を飼うときは、家に入れるのか?」
「いいえ?うちでは飼ってなかったけど、飼ってる家は1頭や2頭じゃきかないから、専用の建物と管理人を置いてるわよ」
「そりゃそうか」
貴族様の狩りともなれば、広大な野山なんかでやるんだろうしなあ。1頭や2頭じゃカバーできないだろう。
そんな数になったら専門家でもいなければ管理しきれないのは自明だ。その分の管理費もかさむだろうし、貴族様と言うのも大変だ。
「獣人は……飼うとしてもねぐらに一緒か」
「アタシたちはねぐらを時々変えるからな」
「だな」
サーミャ……と言うか獣人たちはねぐらを変える。時々変えるなら、そのたびに小屋を作ったりはしていられないだろう。
であれば、飼うなら基本的にねぐらで一緒に生活することになるはずだ。
「ドワーフは?」
「犬を飼ってる工房はありましたけど、基本番犬なので、小屋を作って外ですね」
「ドワーフだとちゃちゃっと作りそうだ」
「それもあります」
リケたちドワーフはドワーフで思った感じの答えだ。家の増築なんかもやるってくらいであれば、チャッチャと犬小屋くらいは作ってしまうのは分かる。
「エルフは……」
「私たちは村の共有財産みたいになりますね。森に集落があるので。なので、小屋のようなものもなく、犬や狼の気の向いたところにいるというか、共存しているというか……」
「なるほど」
リディはやや食い気味に答えた。エルフの場合は単に犬や狼が村に居着くみたいな感じになるのか。前の世界から引きずっていたエルフ観に合致する感じの情報が久々に来たな。
「傭兵生活してると、犬飼う手間はかけられないか」
「飼ってるやつはほとんどいなかったなぁ。たまにいたけど、宿に入れないから、ずっと野宿で平気なやつでないと無理だ」
逆に言えば、犬のために野宿で我慢しているやつがどこかにいるかも知れないと言うことである。人間のペットに対する愛情は底が知れないな。
その後も色々話したが、結局、小屋は作らないことと特にどこかにつないだりはしないことに決まった。
まだ子狼なのだから、つなぐだけはしておいた方が良いのではないか、とディアナが言ったし俺もそう思ったが、今走り回っている様子を見ていてもクルルが誘導したりするまでもなく、俺たちの視界の外に出ないように……つまり、ルーシーからも俺たちが見える範囲でしか走り回ってないので、平気だろうと言う判断である。
あとはクルルと同じく、万が一の場合はここを放棄して逃げてくれるようにだ。
それに、もしルーシーが野性に戻りたくなったなら、ディアナは反対するかも知れないが、俺はそれでもいいと思っている。その時に自由に帰っていってくれてかまわない。
なんとなくではあるが、そうはしないだろうと言う予感はある。しかし、どうするのかは成長した彼女に任せたい。狼だけど。
「俺の武器を作る必要があるかもなぁ……」
のんびりとした空気が流れ、ルーシーが電池が切れたように突然クルルに寄りかかって寝た(俺の肩のHPが減った)ところで、その様子を見ながら俺は言う。
ヘレン救出作戦のときは潜入だったから目立つ武器を持っていこうとは思ってなかったが、カミロに頼んで持ち込もうと思えば持ち込めた。
それに今回のような場合にも役に立つような武器が1つあったほうが良いようには思うのだ。
「リーチ重視ですかね」
リケがワクワクした声で聞いてくる。武器の話だしな。
「あんまり長いと持って行きにくいだろうから、長柄武器は無しだな」
「とするとロングソードですか?」
「うーん……」
俺は首をひねった。長さや使い勝手で言えばそれぐらいなのかも知れないが、なにかピンとこない。
「あの魔族に作ってあげてたのは?」
俺とリケでうんうん唸っていると、ディアナが何気なく言った。
「それだ!」「それです!」
俺とリケは揃って賛同した。その手があったな。
こうして、俺は二振目の刀を打つことに決めたのだった。