完成したショートソード2本を持って、ヘレンは叫んだ。鍛冶場の扉がゴンゴンと叩かれる。多分びっくりしたクルルだろう。
「クルルを宥めるついでに外で試すか?」
「良いのか!?」
「もちろん」
今後は装飾用の刀剣を打ってくれと頼まれる可能性もなくはないが、少なくとも今回のこの剣についてはガチガチの実用のつもりで打ったものだ。
……わざわざアポイタカラを使ったのには装飾的意味が無いとも言わないが。
ともかく、特定の個人に使ってもらうための剣なのだ、その使用者が試すことに何の問題があろうか。
俺は立ち上がって、扉のかんぬきを外して、ゆっくりと扉をあける。意に違わず、そこにはクルルが心配そうに佇んでいた。
「よしよし、ヘレンおねえちゃんがちょっと喜んだだけだから、大丈夫だぞ」
みんなが通れるだけの幅を空けて、クルルの首筋を撫でてやる。
「クルルルルル」
クルルは一声鳴くと、落ち着きをやや取り戻した。”やや”止まりなのは俺に続いてみんな家から出てきたからである。遊んでもらえると思っているのかも知れない。
その役目をリケとリディに任せて(クルルのお気に入りは
「まだ刃をつけてないから、斬れないのだけ気をつけてくれよ」
俺がそう言うと、ヘレンはひらひらと手を振って応え、そのまま庭の中央まで進んでいく。
俺たちから十分距離をとったことを確認すると、ヘレンが剣を最初は軽く、やがてヒュンヒュンと音がするほど早く手元で回転させ始めた。さながら新体操競技のようでもある。
身長が高くてスラッとしたヘレンがやると、なおさらそんな感じを受ける。素早く2本の剣を振り回していると、時折1本の武器のようにも見えてくる。さっき持ったばかりの剣なのに、何年も扱ってきたかのようだ。
しばらく手元での具合を確認した後、今度は全身を使って剣を振り始めた。一振り一振りの動作がとんでもなく素早い。俺もきっかけの動作はなんとか追えるが、次の瞬間には動作をほとんど終えている。
「いつ来るか分かるか?」
俺はディアナとサーミャのどちらともなく尋ねていた。
「いいえ、あれから毎日稽古で見てるけど、全然分からないわ」
俺の問いに答えたのはディアナだ。彼女は数日とは言っても、夕方の稽古でヘレンとやりあっているにも関わらず、全く追いつけないらしい。ヘレンの動きの速さがよく分かる話だな。
全身を使った動きを見ていると、今度は踊りのようだ。少しずつ動く範囲を増やしていき、時には流れる水のように、時には荒れ狂う嵐のように動く。
その軌跡をアポイタカラの青い光が追いかけて、雷を纏った積乱雲かのようだ。前の世界の定番ネタで言えば「竜の巣だ……」ってところか。
動く範囲、動く速度、その両方が頂点に達した瞬間
「ハァッ!!」
ほの青い光が二条空中を数メートルも
あれだと刃がついているとかいないとか関係無しに、岩を綺麗に真っ二つにできそうに見える。
ヘレンは剣を振り切った格好で、息を切らせていた。気温が気温なら身体から湯気でも上がっていそうだ。
「どうだ?」
ヘレンがやや落ち着いたところで声をかけた。さっきまでの様子を見ていれば、少なくとも標準より下ということはあるまいが、念の為だ。
彼女はもう少しだけ息を整えたあと、こっちにぐるっと向き直る。なんだか気迫が凄い。俺もサーミャも、そしてディアナも身体を少し仰け反らせた。
そしてそのままこちらに向けて足を踏み出……そうとして、一旦剣を両方共そっと地面に置く。自分の両脇に1本ずつだ。
置いた次の瞬間、ものすごい勢いでこちらに駆け出した。剣を置いた格好がちょうどクラウチングスタートみたいだったから、走り出しやすかったに違いない。
ビックリした俺が動けないでいると、ヘレンはそのまま押し倒さんばかりの勢いで俺を抱きすくめた。身長差もあってちょうど胸のあたりがギュウと締め付けられている。
「最高だよ!やっぱすげぇなエイゾウ!!」
「いててて!ちょっとは加減しろ!!」
全く身動き出来ないまま、俺は抗議の声をあげた。あ、マジで呼吸がしにくいぞコレ。
「ヘレンが迅雷って呼ばれる理由、よく分かった気がするぜ」
そんな様子をよそに、サーミャがしみじみと感想を述べ、ディアナが慌てて引き剥がしにかかるのだった。