板金を熱して叩いて剣の形にしていく。普通のショートソードなら鋳造した本体を整えるのだが、今回は特注なので最初から鍛造だ。
鍛造の方が鋳造よりも質が良い……とは限らない。それぞれに特性が違うだけの話だ。
俺が鍛造を選んだのは、単にそっちのほうが魔力をより多くこめられるからに過ぎない。
鎚で叩けば叩くほど板金は形を変え、魔力が籠もっていく。熱された鉄の赤と魔力のキラキラでなかなか幻想的な雰囲気を醸し出している。
「1週間とちょっとぶりですが、やっぱり親方は鮮やかですね」
リケがほうっと息を吐いてうっとりしながら言う。そう言うリケも、魔力をこめるという点についてはなかなかのものになっている。
ドワーフの鍛冶の能力とエルフの魔力の扱いの両方を学んでいるから、将来はとんでもない鍛冶師になってしまいそうに思う。
実際、前回納入した剣はショートソードもロングソードもかなりの質だった。うちの高級モデルを名乗っていいくらいだ。
「リケもちょっと見ない間に腕を上げてたじゃないか。俺もうかうかしてられんな」
「いえ、そんな。まだまだです」
俺は笑って返したが、俺の場合はチートでまかなってしまっている。腕を上げるには新しいことをして習熟を深めていく他ない。
その意味で言えば、リケのほうが伸びしろも限界も上なのではなかろうか。
まぁでも、伝説の鍛冶師の師匠、と言うのも悪くないな。俺は思わずフフッと笑い、鎚を板金に振り下ろした。
いつものショートソードなら鍔や握りも鋳造一体成型なので手間なしだが、鍛造でそれをしようとすると当然やたらと手間になる。
握りと刀身は一体にしておいたが、鍔は別の板金を割って、別部品として作る。当然こちらも魔力マシマシの特別な一品だ。
組み合わせたときにちょうどいい塩梅になるよう、チートの感覚で長さを決める。
握り側から刀身の付け根辺りへと鍔を差し込んで、叩いてカシメれば、形は完成だ。
俺はそばでずっと見学していたヘレンに出来かけのショートソードを渡した。
「まだ握りに革巻きもしてないが、ちょっと振ってみてくれ」
「おう」
商談スペースあたりのちょっと広くなっているところで、ヘレンがショートソードを最初はおずおずと、やがてビュンビュンと音がするほど振る。
その様子はさながら舞っているかのようだ。世界が世界なら、ダンサーとしても活躍できたんじゃないだろうか。スラッとしてて背も高いし。
俺以外のみんなも手を止めてその様子を見ている。ディアナの表情はかなり真剣だ。あそこから学び取れるものが無いかを見ているのだろう。
今日の稽古はいつもより真剣にやりそうだな。
「どうだ?」
いつまでも見ているわけにもいかないので、俺は声をかけた。ピタリとヘレンが動きを止める。ちょうどショートソードを突き出した格好だ。
「すげぇよ!!」
空気がビリビリと振動しているかのように思えるほどの大音量でヘレンが叫んだ。ヘレン以外のみんながびっくりして
外からガサゴソと音が聞こえた。多分クルルもビックリしたんだな。気がついたディアナが鍛冶場の扉から外に出ていった。
「振った感じ前のと変わらないじゃん!!」
「そりゃそう作ったからな」
飛びついて来そうな勢いで俺に迫ってくる。決して俺に剣先が向かないようにしているのは、無意識なんだろうがさすがプロと言うべきか。
「耐久性は前より少し上がっているはずだが、今は試せないな」
と言うより、うちにいる限りはそうそう試す機会はないだろう。
「じゃあ、本当に前と同じなのか。すごいな」
「ああ」
ヘレンの言葉に俺は頷いた。だが、同じだと言うのが引っかかる。そう作ったのだから当たり前は当たり前なのだが、俺のチート向上のためにも何か……。
「そうだ!」
俺は思わず叫んでしまう。さっきのヘレンのときと負けず劣らず、みんながビックリしている。
「ヘレン、すまんがそいつは打ち直しだ」
「え、こんなに良いものなのに?」
「ああ」
俺はニヤッと笑った、そうだ、俺にはアレがあったじゃないか。
「アポイタカラと鋼を合わせて作り直す」