帰ってきたのは昼過ぎだったので、夕方頃まで軽く鍛冶仕事をした。まだチートに頼っているのと帝国で剣の修理はしていたのもあってか、大きな衰えは感じなかった。これなら明日からまた仕事しても大丈夫そうだな。
一仕事終えてゆっくり片付けをしていると、カランコロンと鍛冶場の鳴子が鳴る。こっちが鳴ったと言うことは、多分ディアナとヘレンが外から戻ってきたのだろう。
住居のほうがにわかに騒がしくなって、やがて繋がる扉がバーンと勢いよく開いた。
「ありゃ、もう終わってたのか」
扉を開けたのはヘレンである。
「ああ。もう日が沈むし、そもそも
「ううん、リケ達に聞いたらこっちにいるって言うから、ちょっと見ようかと思っただけ」
少し残念そうな口調でヘレンが言う。俺は明るめの声で返した。
「明日はお前に手伝ってもらうことがあるから、思う存分見られるぞ」
「え、そうなのか?」
「うむ。あの時約束しただろ?」
ヘレンを助け出すときに俺が言った言葉。もしかすると覚えていないかもしれないな、と思ったが、
「あ、うん。ありがとう」
ちゃんと覚えていたようで、ヘレンは少し俯きながら御礼の言葉を述べる。
「それは完成してからでいい」
俺はそんなヘレンの肩を軽く叩くと(彼女のほうが身長が高いのでやや不格好にはなったが)、住居の方に戻った。
翌朝、日課の水汲みをクルルと一緒にする。久しぶりに一緒に水汲みが出来て嬉しそう……なんだと思う。走竜の表情がわかるわけじゃないから、希望的観測も込みではあるが。
「俺がいない間はディアナがやってくれてたのか?」
「クルー」
水汲みのついでに体を洗ってやりながら、クルルに聞いてみる。返事が返ってきても詳細は理解できないのだが、なんとなく「そうだ」と言っているように思えて、朝から心が和む。
「それじゃ帰るか」
「クルルルル」
”いつも”のとおり、俺は肩に、クルルは首から水瓶を下げて家に戻るのだった。
その後、朝食やら洗濯やらをすませて、朝の打ち合わせである。
「俺は今日はヘレンの剣を作るよ」
「私たちはいつもどおりで良いですか?」
「うん。今日は俺の作業を見学しつつ、合間で板金を作っておいてくれ」
俺がそう言うと、5人の返事が返ってきた。さあ、今日の仕事の始まりだ。
火床と炉に魔法で火を入れる。魔法を使うための原理は俺はよく分かってはいないが、特に長い詠唱などが必要なわけではない。
なんとなく力の塊のようなものを引っ掴んでギュッとすると温度が上がって火が点く、みたいなイメージである。断熱圧縮にイメージが近い。シリンダーに綿を入れてピストンで一気に圧縮するとポンといって燃えるアレである。
これがなければ炭の
魔法をライターぐらいにしか思ってない魔法使いが、この世界で何人いるのかは疑問だが。
火床に火が回ってきたら、板金を火床に入れて加熱していく。やがて加工するのに適した温度になったところを見計らって、金床に置いて鎚で叩く。
最初にヘレンの剣を打ったときは魔力についてよく分かっていなかったが、今はその辺りを理解している。
なので、キッチリと魔力が篭もるようにと、丁寧に板金を叩いていった。