俺は言葉を続ける。
「まぁ、最初だから5本も売れればいいか、とは思うけどな」
「で、どこに売るの?」
「街の衛兵隊。正しくはその上、つまり君の兄さんだな」
衛兵隊の人たちは今、短槍を使っている。そして、それを与えたあの街の領主は、誰あろうエイムール家なのだ。マリウスがエイムール家の三男坊だった頃、衛兵として赴任していたのも単純に言えばそれが理由である。衛兵隊長でなかったのは七光り呼ばわりが嫌だったとかなんだろう。
そして、マリウスはおそらく自分が衛兵だったときから、もう少し良いものが欲しいとは思っていたに違いない。でなければ、わざわざ俺から剣を買って私物だ、と言い張る必要はないからな。半ばは父親や兄に対する遠慮もあったとは思うが。
なので、今回ハルバードを作って街の衛兵隊向けにエイムール家に買わないか交渉すれば、売れる見込みはあると俺は推測している。売れなくてもカミロに買わないか聞いてみればいい。それでも売れなかったら、まぁその時だ。立場をフル活用してしまっているが、それに見合う出来のハルバードは作るし。別途訓練がいるかも知れないが、それはまぁ……マリウスに考えてもらうとしよう。
「なるほどねぇ。兄さんなら買うかも」
「だろ。それじゃあ、リケと皆は一般モデルの製作頼むな」
「はい、親方。じゃあ、今日はショートソード作ろっか、サーミャ、ディアナ」
「おう」
「ええ」
そしてみんな自分の作業を始める。
俺は板金を熱して、まずは槍部分の穂先を作る。普通の槍の場合はある程度"斬る"機能も必要になってくるが、ハルバードなので「突く」に特化した、三角錐に形を整えていく。「斬る」は斧部分にお任せだ。穂先が細いと耐久性に難が出るかも知れないので、太く短めで作る。後で組み合わせるため、根元は加工せずに少し残してある。
その形ができたら、別の板金で斧と
これで2つのパーツが完成する。槍部分と斧・鈎部分だ。槍部分の根元と、斧・鈎部分の真ん中を、それぞれ細い円錐を縦に割った形に広げて接合したら、仕上げの作業だ。
焼入れ、焼戻しと斧部分の研ぎをして、頭部分の仕上げが完了する。この辺りは完全に"チート"の能力だよりで温度や叩き方、品質を制御した。折角なので今回のはそこそこ集中して、"高級モデル"の品質で製作してある。
この後、柄に頭と石突き(少し尖ったスパイク状にしてある)を固定して、やっとこさハルバードが完成する。柄にするための木材は外なので、また後日だな……。作成はそれぞれの武器の組み合わせのようなものではあるが、頭に柄を繋ぐための袋状の加工なんかは、チートがないとこの短時間では無理だったな。
短時間、とは言ったが、ここまでチートとインストールに頼っても、手探り半分だったのでかなりの時間が経過してしまった。明日からはもう少し早く作れるようになるだろう。
ちょっとだけまとまった時間が空いたので、その時間でエイムール家の騒ぎの時に潰してしまった俺の護身用ナイフの代わりを作る。これは特注モデルなので板金を叩いて延ばすときからチートフルパワーの完全集中だ。じっと見定めて、鋼の成分のようなものが均等になるように、そして輝きのようなものが出るように叩いていく。
やがて全体が綺麗になったら、形を作り、仕上げ加工をする。この辺はもう何度もやっている作業だ。違うのはどこまで集中して作業するかだけである。完成したナイフは、やはり強い輝きのようなものが出ている。都で打った時にこれが出なかったのはなんだったのだろう。とりあえずちゃんと良いものができてよかった。今はそれで良しとしよう。
気がつけば、俺が打ったナイフを、リケたち3人も真剣に見ていた。
「はぁ、やっぱり親方が本気を出した作品は、美しさが違いますねぇ」
陶然とした面持ちでリケが言う。こういうときのリケはちょっと怖い。
「リケほどはわからないけど、本当に綺麗ねぇ」
「アタシもよくわかんないけど、凄いものだってのはよく分かるぜ」
ディアナとサーミャも褒めそやしてくる。
「3人共ありがとう。でも、これが都ではできなかったんだよなぁ」
「そうなんですか?」
「うん。それで仕方なく俺の護身用のナイフを混ぜて打ったら、なんとか上手く行った」
「ああ、それで今日特注品を作ってらしたんですね」
「そうだ。で、ここで作るといつもの品質で作れたから、ここになんかあるんだろうな……」
俺の言葉で他の三人も考え込むが、思い当たることはなかったようだ。
「つっても、これで困ることと言ったら今はここ以外に移り住めない、ってだけで、そもそもそのつもりもないから、実質何もないのと変わらないな」
俺はそう言ってハッハッハと笑う。だが、なにかでここを放棄しないといけない場面が来ないとも限らない。
その時のために、なぜ都ではできなかったのかは、合間を見つけて探っていく必要があるだろう。今の俺たちでわからないということは、俺達の知っていること(インストールも含め)以外の何かしらの専門知識を持った人の助けがいるとは思うのだが、そもそも、それが何の専門知識なのか、まずはそこからだ。
「さて、ちょうどいい時間だ、仕事は上がってメシにしようや」
俺がそう言うと、「ヒャッホウ」とサーミャが喜び、リケにたしなめられるのだった。