「私を弟子にしてください!」
土下座のまま俺に頼み込むディアナ。えーと、これはどうしたもんかな。ちらっと見ると、サーミャもリケも2人共ニヤニヤしている。覚えとけよ。
「……1日1回、仕事が終わってから稽古をつける、ってのでいいなら」
「いいの!?」
「ただし、ちゃんとした剣術を学んだわけじゃないし、教えるのは苦手だから、稽古では見て学べよ」
「わかった! ありがとう!」
ディアナはやたらはしゃいでいる。うーん、こういうことではしゃぐってことは、これ実家では相当お転婆だったのでは……。幼少期のマリウス氏の苦労が偲ばれるな。ともかく、これで俺の日課が一つ増えることになった。大した時間でもないだろうから全然いいけど、成長してきて時間かかるようなら再考しよう。
「ああ、それと……」
「なに?」
「俺を師匠と呼んだり、畏まったりするのは禁止な」
先に言っておかないと、リケみたいに固定化されるからな。
「うん、わかった」
こうして俺に2人目の弟子(鍛冶屋のほうじゃないけど)ができたのだった。
翌日。弟子ができたことはともかくとして、今日も剣を打たなければいけないことに変わりはない。今日まではショートソードとロングソードの生産を続ける。これまた昨日までと変わらない人員、作業内容である。サーミャとディアナが型と鋳込み、バリ取りまでをやって、俺とリケが仕上げていく。今日も俺は高級モデル、リケは一般モデルを作って、昨日と同じくらいの数ができた。
その後は稽古だが、昨日と同じように刃引きしてあるとは言え、鉄剣でやるのは危ないので、木材を“よく切れる“ナイフでパパっと加工して木剣を2本作る。こういうのにもちょっとチートが働く(生産系だし武器なので)から、パパっと作ってもそれなりの物ができるのがちょっと面白い。
昨日と同じように、剣を合わせて一礼する。俺は今日は昨日とは逆に、ディアナの攻撃をひたすら捌くことにした。ディアナの攻撃は鋭いし速い。ちゃんとした剣術を習っているからだろう。
しかし、俺の自己流のほうが絶対的に強い、と言うつもりは全く無い。ちゃんとした剣術は、そこまでの命のやり取りの上にできたものだと、俺は思っている。であれば、当然その積み重ねがない俺の自己流は、あくまでも俺にだけ使えるものであって、才能やらの大小はあるにせよ、修練を積めば誰でも強くなれるちゃんとした剣術、武術のほうが強い。俺とディアナの稽古も1対1だから圧倒できているが、極端な話、100人対俺、だとどう考えても勝てない。対処できないし、その100人が俺には作れないからな。
だが、ディアナにしてやれることはある。そのちゃんとした剣術にプラスして強くさせることはできる……と思う。うまく行けばディアナが発展をもさせられるかも知れない。まぁ、そこまでディアナがうちにいるかどうかも分からないのだが、できる限りは付き合ってやろう。
昨日のこともあってか、今日のディアナは色々と試している。どうやれば俺の体勢を崩せるか。俺の注意を本当に打ち込みたいところから逸らすにはどうすればいいか。今のところ、その試みは俺のチートがうまく検知して上手くいってないが、やることとしては間違ってないように思う。
一つ困るのは、ディアナが世間から見て、どれくらいの強さなのか全くわからないことだ。俺も俺自身の強さがよく分かっていない。これが鍛冶の話であれば、出来上がりの品があるし、試し切りやらインストールなんかでどれくらいの品物なのかはわかるが、サンプルが少ないと、ディアナがそこらの兵士くらいの強さなのか、それとも稀代の剣士と呼べる強さなのかが分からない。どうもチートとインストールから受ける感覚だと並よりは上っぽいのだが、いまいち判然としなくて、どこまで鍛えれば良いのかが掴みにくい。これについては、今後の課題にするしかないか。
四半時より少し長いくらいの時間打ち合って、今日はそこで終わりにする。
「どうだ? なにか掴めたか?」
「ううん。今日はあんまり。色々試しちゃったから。ああ、でもどれをどうしたら駄目なのか、どう返されちゃうのかは分かったから、掴めたとは言えるのかな?」
「そうか。まぁ、ゆっくりやろう」
俺がそう言うと、ディアナは一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに
「うん!」
と笑顔で返事を返してくれた。
翌日からはナイフの作成だ。サーミャは途中までできるようにはなったのだが、ディアナもいるし、木の実とかの採取をお願いした。まぁ、あの二人なら大丈夫だろう。念の為、人の気配が少しでもしたら、直ちに戻ってくるようには言ってある。
俺とリケで板金を伸ばし、整形し、仕上げる。やや効率は落ちるが、クオリティは当然維持されている。手伝いがいないので、俺は最初から高級モデル、リケは一般モデルだ。それと、今回は俺が高級モデルを打つところを何本分かは、リケに見学と言うか、手伝ってもらって技術を盗んでもらう。
「どうだ?」
「うーん、まだまだ私で追いつける気がしません」
「そりゃあ、俺は師匠なんだから、1ヶ月やそこらで追いつかれても困る」
俺は笑いながら言う。リケは少しむくれながら返してくる。
「でも、早く上達したいんです」
「じゃあ、明日もリケに手伝ってもらうか」
「いいんですか?」
「もちろん。でなきゃ、弟子入りした意味がないだろう?」
「まぁ、それはそうなんですけどね……」
リケは困ったような顔で笑いながらそう言う。
「前に言ったかも知れないが、お前はやればかなりのところまで行けると俺は思ってる。気長に、と言うわけにもいかないんだろうが、焦らずしっかり伸ばしていこう」
俺がそう言うと、リケは
「はい! 親方!」
今度は晴れやかな笑顔で返すのだった。