昨日は魚釣りを大いに楽しんだ。俺もなんとか1匹は釣り上げてギリギリでメンツを保てたしな。今日は休暇の2日目だ。昨日とやることが同じでは芸がない……し、今日釣れなかったら立ち直れない。俺はなるべくリスクは回避したいのだ。かと言って、折角の休みに仕事をしてしまっては、ワーカホリック一直線だ。そこで仕事でもなく、かと言って遊びでもないことと言えば……。
「今日は畑を作ります」
俺は部屋を作る時に組み替えたクワを、元のクワの形に戻して、新しい部屋の廊下の外――部屋が増えたら中庭になるところに来ていた。
「はい」
鎌を持ったリケが答える。
「いや、それは良いんだけどなんで畑なんだ?」
そう尋ねるのは同じく鎌を持ったサーミャだ。
「今、野菜の
多分、原種みたいなものは、そこらに生えてるんだとは思うが、この世界でもそれなりに食える野菜は別にあると思う。実際人参ぽいやつはハツカニンジンよりも俺の知っている人参に近い。なのでその辺りを生産すればいいかなと言う目算だ。
あとはもし芋が手に入った時に、予め栽培する場所を確保しておきたい。前の世界では中世頃には欧州にまだ伝播してなかったと思うが、この世界ではそもそもそういう欧州や南米といった区切りはない(ここらはインストールの知識で大雑把に知っている)ので、世界全域でそれだけに頼るということはないものの、麦やなんかと一緒に栽培はされている。ただこの辺りでは、もともとあまり出回ってないか、農民で消費しきってしまうようで、市場で見かけないのだ。もしかすると、自分たちで消費する量だけを生産するようにとか、そういう規則でもあるのかも知れないな。
リケとサーミャにその辺りを説明する。リケは感心した顔で言った。
「晩御飯のときのお話でも思ってたんですけど、親方っていろいろご存知ですねぇ」
「そうだろ。エイゾウはなんか妙に物知りなんだよなぁ」
そう引き取ったのはサーミャだが、「妙に」は余計だ。いや、前の世界の知識に、インストールの知識も合わさっているから、妙にというのもそんなに間違いではないのか。俺は複雑な顔になったが、とりあえず作業を始めよう。
あくまで自前の畑を整備するだけなので、これなら自分で定めた「今日は仕事はしない」というルールにも抵触しない。前の世界で休みの日に、借りてる畑の手入れをするようなものだ。
ひとまず3人で中庭の草を鎌で刈っていく。一般モデルだが、切れ味は十分すぎるくらいある。そこそこの広さを刈り取ったところで、ちょうど昼頃になったので一旦作業をやめる。広さ的にもこんなもんでいいだろう
。
「昼飯食ったら、リケとサーミャの分のクワも作るか」
「いいのか?」
「とりあえず今日使えればいい、ってレベルのもんだけどな」
「十分だと思いますよ」
結局、鍛冶をやることになってしまったが、これはまぁ、家のことだからノーカンということでお願いします。
昼飯を食い終わったら、3人で作業場に移動する。作ってある板金を熱して形を作るところまではサーミャとリケにやってもらって、仕上げを俺が担当する。
火床に火を入れると、リケは板金を熱し始めた。やがて板金が赤熱するとリケは取り出して金床の上に置く。そこをサーミャが大きく四角くなるように金槌で叩く。ここまでなら多少歪みなんかがあっても、俺が直せる。ある程度の大きさになったものをもう一度熱し、リケがさっきとは別の金床に置いたものを、俺が引き継いで金槌で叩いて最終的な形と仕上げを行う。力の入れ具合は高級モデルだ。その間にリケとサーミャは次の板金を熱して伸ばす作業だ。サーミャが叩いている間に俺が熱し、俺が叩いている間にリケが熱する。いつになくスムーズに作業が進んでいく。最後に俺が2つ目のクワの刃を仕上げて、今日の鍛冶仕事は終わり。建築やなんかで余った木材で良さそうなものを選んで棹にする。これでクワが3つになった。
かかった時間はなんだかんだ3時間程度で終わってしまった。あと2~3時間は畑の方ができるな。ただ、実際に一仕事終えたのだから当たり前だが、一仕事終えた感が凄くて若干やる気が出ない。しかし、お嬢さん方は自分たちも製作に積極的に参加したクワの使いごこちを知りたくてしょうがないらしい。
再び畑に戻ってきて、3人で土を耕す。前にも言ったかと思うが、この森の土は基本的に固い。しかし俺はチートで貰った筋力で、リケとサーミャは高級モデルのクワの力と若さで、順調に土を掘り返す。
前の世界で見たTV番組で、荒れた畑を3人で直して野菜を作り、その野菜で料理を作るってのを見たことあるが、ちょっとアレを思い起こす情景だ。ただ、アレと違うのはこっちは道具やなんかのおかげで、かなり作業が早い。3時間後には一旦土の掘り返しが終わった。ただし、日が暮れてきつつあるし、まだ掘り返しただけで、畑という感じではない。やや消化不足だが、これは逆に次の休暇の楽しみにとっておけるということではある。……雑草なんかがまた伸びないように次の休暇を早めに取る必要が出てきたが、これもまぁ、積極的に休暇を作るきっかけとして、良いとしよう。
こうして俺の休暇は終わり、翌日からまた仕事が始まる。ただ、前の世界で月曜日を迎えたときのような憂鬱な気分はない。この世界の生活が相当気に入ってるらしい、俺は自分でそう思うのだった。