扉を取り付けた翌日からは、予定通りベッドの製作にかかる。ちゃんとした売り物にするようなベッドだと後6日程度で作るのは無理だと思うが、素人が自分で使う分なので、凝ったつくりも必要ない。
客間用は迷ったが、そんなに長逗留する客もいないだろうということで、多少粗末でも我慢してもらうことにした。貴族なんかだとこの辺メンツなんかもあって、そういうわけにもいかないのだろうが、うちはただの鍛冶屋だからな。
「ということで、今日からはベッドだが、
「わかりました」
「おう」
今日も1台はリケとサーミャで、もう1台は俺が作る。作業場は外だ。この辺りだけ広場みたいに開けているので、日も差してきて気持ちがいい。今日は寸法に合わせて材木を切って、組み立てる前の段階まで行けたら御の字だ。明日組み立てて運び入れ、最後に客間用のを作って模様替えをする、のが今後6日程度の予定になる。
寸法は俺の部屋にあるベッドが少し大きめなのだが、新しい部屋にも十分入るし、入れても他のものを置くスペースは十分なので、それを基準にする。ものさし代わりにいくつかの木材をベッドのサイズに切ってしまい、それをサイズの基準に、木材を切り出す。高さなんかも同様だ。
そうしてドンドン木材を切り出していく。鹿なんかを捕まえた時に運搬台にした丸太を乾燥させて材木にしてあるから、材料自体は十分まだ残っている。
「親方、ここお願いします」
「おう」
時々頼まれて、ほぞを切ったりしながら、部品を作っていく。数を作ったりしないといけないので、なんだかんだで時間がかかっている。結局この日は部品一式を作って終わってしまった。
翌日、今日は組み立てと搬入だ。作っておいた部品をドンドン組み立てていく。前の世界で部品売りだった家具でも、結構時間がかかっていたことを考えると、かなりの時間がかかることが予想される。木槌の扱いはそんなに難しくはないが、正確に組み立てる、というのは簡単なようで難しい。結局、組み立ては昼過ぎまでかかってしまった。
出来上がったベッドを新しく作った部屋に運び込んでいく。
「ベッドが入っただけでも、人の暮らす部屋って感じするな」
「そうだなぁ。アタシは元々ベッドとかない暮らしだったけど、ここに来てからベッドがあるのが普通になって、ベッドがあったほうが部屋って感じはしはじめてるよ」
「ドワーフも部屋はあったりしますけど、雑魚寝だったりするので、個人個人に部屋というのはちょっと緊張しますね」
「あれ? リケは部屋の建て増しとかやってたんじゃなかったか?」
「やってましたけど、基本的に1家族1部屋、みたいな感じなので、ベッドとか入れずに棚とかだけだったりしますね。流石に家族でもない異性同士が同じ部屋、というのは無かったですが」
「なるほど」
一人一つのベッド、ってのに慣れてるほうがおかしいのかも知れない。街の人間(壁内と壁外問わず)がどうなのかはわからないが。
「まぁ、これで我が家の形が出来てきたな」
「だな」
「ですね」
この日は折角なのでワインを夕食に出して軽くお祝いにした。
そして次の日。
「今日は客用のだから、ちょっと凝った作りにするか」
「どうするんです?」
「えーとな……」
自分たち用のには宮を作らなかったが、客用のものには宮を作る。装飾用の彫刻も考えたのだが、ちょっと華美になりすぎると判断して入れないことにする。それをサーミャとリケに伝える。
「なるほどな」
「わかりました」
宮の分の材料の切り出しも今日行う。早ければ今日中に組み立てまで行けるかと思いながら作業してみたが、宮の分もあってか、終わった頃には中途半端な時間になってしまった。
「今日は終わりにして、残りは明日やろう」
「おう」
「はい」
余った時間で作業場に入り、釘なんかを作っておく。釘は四角い和釘に近いものだ。そこそこの数を作って在庫は確保できたので、この日の仕事はすべて終えることにする。
明けて次の日。ベッドを組み立てる前に、模様替えだ。リケとサーミャの部屋から棚以外の家具類を居間に運び出し、書斎から寝室に机や椅子、棚を一つ移す。空いたところに寝室にあった家具を運び込んで模様替えは終了だ。この時点でもそこそこ時間がかかった。これは昨日やっておけばよかったな、と後悔するが後の祭りだ。急いでベッドの組み立てをする。多少バタバタしたが、組み立て作業自体は前にやっていることもあってか、思ったよりはスムーズに終わる。それでも、もうほぼ日が暮れてきている。急いで運び込まなければ。
「そっち気をつけてな」
「おう」
俺とサーミャで書斎に客用のベッドを運び込む。客用と言いつつも、暫く使うのは俺なのだが。運び込み終わった頃にはもう日が暮れていた。
「ちょっと時間かかっちまったな」
俺が反省の弁を口にすると、
「まぁ、しょうがねぇよ。慣れてる作業でもなけりゃ、こんなもんだろ」
サーミャが慰めてくれる。リケも
「まぁ、こんな作業は今後そうはないんですし、これくらいでも良いんじゃないでしょうか」
と言ってくれた。
こうしてなんだかんだと慌ただしかったベッドづくりも一段落し、我が家が一層我が家になったのである。