無事ショートソードの特注品2本を受注とあいなったわけだが、
多少納品する数は減るが、これまでに結構な数を卸してるから問題ない……はずだ。それにヘレンを寄越したのはカミロだし、文句はないだろう。今日できる限り集中して作業しておけば、最低限度は確保できる。
そうと決まれば、テキパキと型の作成と流し込みを済ませ、バリ取りをし、最後の仕上げを俺とリケがやる。その間に、型の作成からバリ取りまでをサーミャにやっておいてもらうことにして、時間短縮だ。みんなで黙々と作業をこなす。サーミャもすっかり作業に慣れてきて、この調子なら、そのうちちゃんと鎚を持たせることも不可能ではないかも知れない。
この日はなんだかんだで結構な数のショートソードとロングソードが出来た。明日からはヘレンのショートソードに取り掛かることにしよう。
一夜明けて、朝の日課と朝食を終えたら、俺とリケは作業場へ移動する。サーミャには薬草と果物の採集を頼んだ。今日手伝ってもらえることはあんまりないからな……。
作っておいた板金から、ショートソード1本分の板金を積んで、火を入れた火床で熱し、リケと俺とで叩いて延ばしていく。ある程度延びたら、タガネで真ん中に
形ができたら、冷えるのを待ってからもう一度全体を耐久力が増すように叩き、ヤスリやカンナのような道具で表面を綺麗にする。その後、柄になる鉄の棒を、接いだところが脆くならないよう、熱して叩くことで繋げる。そうして出来たものの刀身を火床でもう一度熱したら、水で急冷して焼入れする。
ここで一旦、耐久力のテストをすることにした。昨日俺が作った一般モデルのショートソードを持ってきて、固定した特注品めがけて振り下ろす。キン!と澄んだ音がして、振り下ろしたショートソードが止まるが、特注品には傷一つない。何度か打ち付けたが、全く傷がつかないので、テストは良しとした。
「このショートソードは卸しに回せないなぁ」
俺は自分の持っているショートソードを見ながら言った。よくよく見ると刃こぼれが起きている。こっちは一般モデルだから、刃が欠けるのも相応に早いのだろう。
「研ぐか打ち直せば、十分卸しに回せるのでは?」
リケがナイフを打つ手を止めてそう言うが、俺はかぶりを振った。
「品質的にはそうでも、試し切り以外のことに使ったものを売るのは、俺の美学に反する。打ち直して、うちで使うことにしよう」
これがもっと切羽詰まった状況ならそうも言ってられないのだろうが、幸いにして懐は暖かくはないにせよ、困るほどではない。であれば、俺の美学に反することは、なるべくならしたくないのだ。
俺がそう言うのを聞いて、リケがクスリと笑う。
「当たり前なんですけど、親方は本当に頑固な職人さんなんですね」
「そうともさ」
俺はニヤッと笑ってそう返した。少しは俺がやりたかったことに近づいている。それはなかなかに幸せなことだ。
さて、テストも済んだので、仕上げにかかる。刀身を磨くのと、刃の部分を研いだら、刀身側の仕上げは完了だ。そうして出来た刀身のところに、熱して加工した鍔を取り付け、柄に鹿の革(サーミャが獲ってきたのを加工したやつだ)を巻き、柄頭に太った猫が座っている姿をタガネで彫り込んで、俺の作る特注品の1本目は完成したことになる。
「よし、1本目が出来た」
俺は出来たショートソードを掲げた。刀身が火床の炎を反射して輝いている。
ヘレンの打ち込みを思い出しながら、軽く振ってみる。見た目よりもずいぶん軽く感じるが、具合は良さそうだ。その様子を見ていたリケが、居ても立ってもいられない様子で、
「見せていただいても?」
と言ってくるので、
「いいぞ」
と俺はリケに渡す。
渡されたリケは、ショートソードを元素の一つ一つまでも見逃すまいとするかのように、細部にわたって見ている。角度を変えたり、軽く振ったりもしている。
「出来はどうだ?」
「これは普通の……いえ、多少の才能のある人が到達できる領域のものではないですね。親方の事情に触れるようで申し訳ありませんが、親方を失ったことは、北方にとっては大きな損失だと思います」
「それほどかね」
「はい。間違いなく」
リケは完全に真顔で俺に答える。まぁ、普通のものであるとは俺も思ってはない。丸太をぶった切るナイフを作れる技術の全てで作った剣だ、まともなはずがない。今回は完全に耐久力に主眼をおいて作成したから、例えばこいつで大きな岩に切りかかったとして、多少は切り込める(それがそもそも異常ではある)だろうが、真っ二つとはいかない。
だが、この一本をチートとインストールを駆使して作ってみてわかった。俺はその気になれば《それを作ることができる》。ただ普通の鋼では耐久力か切れ味か、どちらかに寄せる必要がある。チートで鍛えても、鋼がそこまでは耐えきれないだろう。そう考えれば鋼で作っている間は特注品でも大丈夫だとは思う。
逆に言えば、仮にそれを両立できる素材――ミスリルとかオリハルコンとか呼ばれるようなものだ――が手に入ったとして、それで最上のものを作るのはよくよく考えなくてはいけない。
「どうかしましたか? ご気分を害してしまったでしょうか」
リケが心配そうに俺の顔を見ている。
「いや、なんでもない。少し考え事をしていただけだ。気分を害したとかいうことはないよ」
俺は笑ってリケの頭をガシガシと撫で、少し怖い考えに落ちていきそうになっていた自分を引き戻した。