荷物が積み込まれた荷車を俺とリケで引っ張る。サーミャは護衛なので引っ張らないが、荷車に乗ったりはせずに一緒に徒歩で帰る。重いには重いけど、車輪のおかげで大して速度を落とさずに行けそうだ。
森で車輪がスタックしないかが気になるが、前に土を掘ったときの感じではフカフカではなかったし、多分大丈夫だろう。最悪の場合はサーミャに押してもらったりする必要があるかも知れないが。
街道でも3人連れがゾロゾロ歩いているだけ、よりも確実に何かを持っているのがわかる荷車のほうが襲われる確率は高くなるとは思う。今までサーミャが何も反応してなかったので、そもそもいなかったのだとは思うが、いたときのリスクは上がっているのは間違いない。ただこっちは特注モデルの弓で武装した虎の獣人であるサーミャと、及ばずとは言え俺もいるから、ちょっとのことではなんともないとは思うが、危険はないに越したことはない。
その辺をサーミャにも話して、帰りはいつもよりも注意してもらうことにする。結局のところ、この日は街道では何も起きなかったが、備えあれば憂いなしだ。今後は帰り道は注意して帰ろう。行きはよいよい帰りは怖い、である。
森に入った後も、予想していた通り、車輪が大きく沈み込んでしまってスタックするということはなかった。少し心配していた「木と木の間を荷車で通れるのか?」については、黒の森でなら大丈夫である。そもそも荷車もそんなに幅があるわけじゃないからな。
とは言え、それなりに整備されている街道と同じかより楽、ということは流石になく、やや苦労しながらの移動にはなった。
「多少は道を整備したほうが良いのかな」
「でも親方、そうしてしまうと、うちに一人で来るって条件がやたら楽になりますよ」
「それもそうか」
あれは一応、うちに来るだけの実力者には特注を受け付けるという話ではあるので、道を作って「道沿いに来れば来られるよ」だとあんまり意味がない。それじゃ豆腐屋にお使いに行くようなもんだ。ちょっと失敗したかな。
とりあえず大きな問題は何もなく、家までたどり着くことができた。毎回こうだとありがたいんだが、時々は問題も起きることだろう。その時に最小限で抑えられるようにしなくちゃな……。
荷物を荷車から下ろして、家と作業場に運び込む。塩とワインはともかく、鉄石と炭を運び込むのは、3人でやってもそこそこ時間がかかった。なんだかんだでほとんど一日仕事だな。これは例えば、荷車を傾けて搬入できるような何かを考えたいなぁ。
この日は麦粥と干してあった熊肉と根菜を買ってきたワイン(と水)で煮込んだもので、ちょっと豪勢な夕食だ。臭みが抜けていい感じになってて、サーミャとリケにも好評だったので、時々やるか。
明けて翌日、俺とリケは武器を作る原料となる板金づくりをするが、サーミャは「鳥か兎か獲ってくる」と言って出ていった。鹿じゃないのは、多分明日また手伝いする気なんだろう。肉の在庫も十分だしな。
武器を作る前に、仕入れた鉄石の品質を元あった在庫と見比べる。インストールとチートを使っても、やや元あったほうがいいようには見えるが、そんなに大きく違うようには見えない。
「どうだ? リケ。俺にはそんなに変わらんように見えるが」
俺は見ていた2つをリケに渡した。
「そうですね。親方の言う通り、ほぼ同じ品質だと思います。誰が目利きしたのかわかりませんが、なかなか良い目をしてますね」
「じゃあ、仕入れた方から使うか」
「はい。わかりました、親方」
俺は魔法で動く製鋼炉に魔法で火を入れると、炭と細かく砕いた鉄石を入れる。別の魔法で風を送りつつ、しばらく待って同じ工程を数度繰り返せば、鉄――正確には鋼ができる。普通のレン炉や
「よし、やるか」
「はい、親方」
取り出しつつ、ある程度の大きさで固めておいた鉄を再び火床で熱し、取り出す。金床で俺とリケで叩いて板状にして、板金を作る。そこそこ手のかかる作業だ。
最初の一枚が出来たので、俺とリケで品定めをする。
「悪くないな」
「そうですね。むしろ置いてあるものよりも、良いように見えます」
「そうか。リケが言うなら間違いないな。続けよう」
「はい!」
結局、板金づくりは夕方になってサーミャが帰ってくるまで続いた。
「ただいま」
「おう、おかえり。リケ、キリもいいし今日は
「分かりました。親方」
ぱぱっと仕事場を片付けて、サーミャのところへ行く。
「今日は何を獲ったんだ?」
「今日はウサギだよ」
例の耳のところが草みたいになってるウサギだ。3羽も確保しているが、大きさはそんなに大きいわけではないので、捌くのには時間はかからなかった。肉の量もちょうど3人分くらいだ。そんなわけで昨日に引き続き、今日の夕食は豪勢になった。無発酵パンに根菜と鹿の塩漬け肉のスープ(俺とリケの昼飯の残り)、それにウサギのステーキワインソースである。
「おお、ウサギって美味いな!」
「だろ。獲るのが難しいんだけど、今日は運が良かったな」
「このウサギの味はいいですね」
思いの外美味かったウサギに舌鼓を打ちつつ、この日を終えた。
次の日、朝の水くみと朝食を終えて、ショートソードとロングソードの製作に取り掛かっていると、手伝っていたサーミャが突然ピクリと手を止めた。
「どうした?」
俺はサーミャに声をかける。サーミャがやや緊張して、
「誰か来た」
と工房の外に通じる方の扉を見た瞬間、その扉がドンドンドン!と叩かれる。
「カミロに言われてきた! 剣を打っていただきたい!」
そんな声を伴いながら。
俺はどっこいせと立ち上がり、扉を開けてやるべく、そっちに向かっていった。