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商談成立

 その日はナイフ4本(”特注”1本、”一般”3本)とロングソード2本で終わった。このペースなら、次に街に行くまでには十分な在庫が出来るだろう。


 それから4日ほど、狩りのない日はサーミャに手伝ってもらいつつ、午前中に新しい部屋の普請を進める。立てた柱には筋交いを入れて補強しつつ、梁を通す。床になる部分には根太とその上に床板を張っていくが、この時に廊下も作ってある。新しく家の外壁になる部分が部屋の外側の壁になり、その内側に廊下が伸びていく方式だ。これなら、部屋が増えても採光をしつつ配置ができる。もし部屋がもっと増えたら、廊下が回廊になり、外側に部屋が並んで中庭ができる予定だ。

 もしまかり間違ってそれ以上の数になるなら、建て替えるか、ちゃんとした建築技術を持った職人を呼んで、2階建て以上の家に改造する必要が出てくるだろう。今のところ俺にその予定はないが、サーミャもリケも元々予定などしていなかったのだから、備えあればなんとやらだ。


 この期間中の狩りではサーミャは鳥を4羽ほど捕らえており、その日の夕食は豪華になったが、大物を狙わなかったのは、家造りや鍛冶の手伝いが少し楽しくなってきているのもありそうだ。鳥なら俺たちの手を煩わせることはあまりないからだろう。

 そして、その間の鍛冶の出来上がりと言えば、ナイフが合計で14本、ロングソードが6本。これだけあれば、売るには十分だな。代わりに野菜や木炭、鉄石を仕入れてこないと。


 次の日、俺たちは3人で街に向かう。リケがうちに来てからは初めてだ。途中で休憩を挟み、この日は何事もなく街に着いた。入り口にはマリウス氏がいる。


「おお、あんたらか」

「ええ」

「ここに来るのは、大体は週に1回ってとこか」

「そうですね」

「うーん……」

「どうかしたんですか?」

「いやな、何人かにナイフとロングソードを買いたいから、作ったやつを教えてくれって言われてるんだよ」

「ああ、なるほど」


 うちは基本的に週に1回は自由市に来るが、その日付は正確ではない。と、なれば前の世界で言うと月曜日に来たからと言って、必ず買えるものでもない、と言うことだ。それで客を逃すのはウチとしても本望ではない。


「そこはなんか考えますよ。うちが直接店を構えるとかはないですけど、代わりにどこかに卸すとか」

「そうしてくれ。そうすりゃお前さんも儲かるだろうし」

「ええ。ありがとうございます」


 俺が頭を下げて感謝を述べると、マリウス氏は手をひらひらと振って返した。


 うーん、たしかにそろそろ“高級モデル”までなら、どこかに卸してもいいな。今のところはだいたい完売のペースだが、リケも加わって作る在庫が増えると、そうも言ってられないだろう。

 それに定期的に鉄石やら木炭を買うと言っても、俺たちが来ないことには引き取られないわけで、在庫しておいてもらう場所も必要になるだろう。

 それを考えると、俺達が店を持つのはともかく、店を持つ商人と取引を始めるのは悪くない。そうすれば今までのように丸一日街にいなくても済むし、メリットは多い。今後の方針として考えよう。


 いつもの通りに自由市で販売台を設置していると、何回かロングソードを買ってくれた行商人がやってきた。


「おお、アンタか。今日はまだだぞ」

「見りゃ分かるよ。俺からアンタに相談があってな」

「相談?」

「ああ。俺は今度、この街で店を出すことになった。自由市とかじゃない、ちゃんとした店だ」

「おお、そいつはおめでとう!」

「ありがとうよ。それでな。今まで色んなものを扱ってきてて、各地につてがあるから、そういうのをまとめて売る店にするんだ。壁内はともかく、新市街の方は売り物に制限はないからな」

「ほほう、楽しそうだ」

「うん。それで相談というのは、アンタの作る刃物や武器を、その店で扱わせてくれないかということだ」

「いいのか?」


 さっき悩んでいたことがもう解決してしまうから、願ったり叶ったりではあるんだが、話ができすぎてや……いや、マリウス氏は知っててあの話を振ってきたな。衛兵だからか、色んな話が流れ込んでくるんだろう。どんどん借りができるな。なんかあったら積極的に手伝ってやろう。


「構わんともさ。アンタのロングソードの品質は、俺がよーく知ってるからな」


 “よーく”のところを強調するところからして、まさかどっかで使ったのだろうか。ちょっと今は聞く勇気が出ない。


「俺も卸先があればな、とは思っていたところだ。そちらが良いなら、お願いするよ」


 俺は承諾する。


「おお、ありがとう! そうそう、俺はカミロってんだ。改めてよろしくな」


 手を差し出すカミロ。俺はその手を取りつつ、


「俺はエイゾウだ。ちょっとわけがあって、“黒の森”に住んでる。卸すタイミングは1週間に一回程度、もしこれより大幅に延びるときは予め言っておく、ってことでいいか?」

「あんなとこに住んでんのか。お前みたいな腕前ならどこでだって……いや、わけありの北方人か。それなら仕方ないのかもな。獣人にドワーフの護衛までついてたら、滅多なこともないだろ。卸すタイミングはそれでいい」

「助かるよ。それと商談成立ついでに頼みたいんだが」

「なんだ?」

「うちにある鉄石と炭の残りが減ってきていてな。幾らか融通してくれる先を探してるんだが、知らないか?」

「ああ、そんなことか。じゃあ俺が探して仕入れといてやるよ」

「いいのか?」

「構わんよ。代金はお前の卸してくれる品の代金から引いておく、ってことでいいかい?」

「ああ、助かる」

「それじゃ、改めて」


 俺とカミロは改めてガッチリと握手を交わしたのだった。

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