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第8話 一方、グレイパーティは…①

 アッシュを追放したグレイと仲間達。


 物語りはその日に遡る。


**


~ロック山脈~


 今しがたアッシュを追放したばかりのグレイパーティーは、その後モンスター討伐のクエストを受けていた。

 今回のクエストの目的地はロック山脈。そして討伐対象となるモンスターが、ロック山脈に生息するソンモンキーであった。


「クソッ、またモンスターじゃねぇかよ!」

「ここちょっと多過ぎじゃない? こんなただの雑魚に構ってる暇ないんだけど私達。邪魔しないでよね!」

「おいッ、ブラハム。こんな奴ら一撃で片付けろよな!」

「ちっ、うるせぇな! お前こそダメージ食らってんじゃねぇぞゴウキン!」


 今日はやたらとモンスターと遭遇して、グレイ達はなかなか前に進めずにいた。何とか討伐はするものの、また次から次へと襲われる始末。


「ファイアショット」

「おらッ!」


 ラミアが魔法で仕留めそこなったモンスターをブラハムが槍で止めを刺し、今回の戦闘は無事終了。


「なんだラミア、お前調子悪いのか?」


 今まではこの程度のモンスターなど1発で仕留めていたのに、今回の討伐ではまだ1度も倒しきれていなかった。グレイは自分の女であるラミアを心配して優しく声を掛けた。


「そんな事ないと思うけど、何でだろう? 昨日寝るのが遅かったからかもね」


 甘ったるい声と上目遣いでグレイに言うラミア。


「ハハハ、そうか。それは俺にも責任があるな。ごめん」

「もうグレイったら、いつも激しいんだから。しょうがないから許してあげるわ。その代わり、クエストが終わったらしっかりお返ししてね」

「勿論だ」

「う~~わ、また始まったよ。勘弁してくれ」

「全くだ。こんなんだから注意力も足りていない。目の前のモンスターに集中してほしいもんだ」


 甘い空気を出し始めたグレイとラミアに、ブラハムとゴウキンは迷惑そうにしていた。確かにグレイはパーティのリーダーであるが、時と場所をわきまえず甘い世界に入る二人に対して、ブラハムとゴウキンはただただ不快であった。

 そしてモンスターにとって、そんな事情などお構いなし。モンスター達は容赦なくグレイパーティに襲い掛かった。


「お前らいい加減にしろ!」

「モンスター共が来たぞ」


 ブラハムとゴウキンは一足先に戦闘へと入り、僅かに遅れながらグレイとラミアも慌てて参戦したのだった。


**


「ハァハァ、ったく、どうなってんだよ……!」


 グレイは乱暴に荷物を地面に投げつける。

 アッシュが抜けた事によって荷物持ちは勿論、野宿や飯の準備は担当制となっていた。今回はその担当がブラハムだ。

 密林を抜け、何とかロック山脈の麓までは辿り着いたが、グレイ達は最早時間と体力を使い切り、それ以上進むことは出来なかった。

何時もなら今頃、モンスターを討伐した後で余裕を持ってご飯を食べ眠りについていた。


「ねぇグレイ、今日のモンスターの遭遇率、絶対可笑しいわよ」


 ラミアが心配そうな顔でそう言った。そしてその言葉に他の者達も頷く。


「確かに。今日は多すぎたな」

「まさかと思うが、またどっかでモンスター軍が暴れてるんじゃないだろうな」

「それは有り得ねぇだろ。三年前に王国が襲われたばかりだ。周期も早過ぎる」


 ゴウキンの言葉にブラハムがすかさず否定した。

 ドラシエル王国を襲ったモンスター軍襲撃。あれは通常十~十五年程の周期で起こるとされている、この世界の厄災のようなもの――。

 毎回場所も決まっていない、世界各地で突発的に起こるものであるが、周期だけは変わらない。


「まぁいい。とにかくギルドに戻ったら報告しよう。明らかにいつもと様子が違うのは確かだからな」


 グレイはそう言って眠ろうと横になった。ルカがいない為夜の火の番も交代制である。誰かが寝ている時は他の誰かが番をするのだ。

 日中絶え間なくモンスターと遭遇し、全員が久しぶりにいつも以上に疲れていた。最初に火の番を担当していたゴウキンも、疲れと慣れない番に、いつの間にか強い睡魔に襲われた。


 そして、深い眠りにつくグレイ達の元へ影が忍び寄る。

 緑色の瞳が光り、鋭い牙の生える口から涎が滴り落ちている。体が骨だけのなのが最大の特徴であるハイエナの様なモンスター。スカルフルだ。

 眠りにつくグレイ達は勿論、火の番をしているゴウキンもうたた寝をしていて気が付いていない。グレイ達の周囲は瞬く間にスカルウルフの群れで囲まれた。


「う、ううん……」


 ふと寝返りをうったグレイは、虚ろながらに一瞬目を開けた。そしてグレイは再び眠りにつこうとしたが、それが夢か現か……。ぼやけた視界の中で見たその無数の緑の光が、あってはならぬ“異様”なものだと気がついたグレイは、飛び跳ねる様に起きたのだった。


「なッ……!? おい、起きろお前らッ!(ヤバい──!)」


 突如響いたグレイの大声に、仲間達も反射的に体を起こした。


「なんだ、どうし……!?」

「ちょっと、どうなってんのよ! なにこれッ」

「くそがッ! 何でこんな事に!?」


 グレイはイラつきながら辺りを見渡すと、自分達がスカルウルフに囲まれた理由がはっきりと分かった。


「おいコラ、ゴウキン! お前何寝てやがるんだ馬鹿野郎!」

「 お、や、やべぇ……! 早く倒さねぇと……ッ!」


 本調子ではない中、グレイ達は兎に角応戦しまくった。疲労と苛立ちと焦りで皆がイライラしている。


「もう本当に嫌だ、早く倒してよッ!」

「騒いでる暇があったら魔法出せ」

「お前もコイツら倒す事だけに集中しろクソが」

「あぁ? 元はと言えばゴウキンのせいだろうがよ!」


 互いに罵声を浴びせながら無我夢中でスカルウルフの群れと戦ったグレイ達。全てを倒し終えた頃にはうっすらと日が昇り始めていた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」

「もう無理……」

「寝させてくれ……ハァ……」


 一難去ってまた一難。グレイ達が寝られたのはほんのニ時間程だろうか。元からの疲労に寝不足も加わったが、その回らない頭で必死にグレイは考えていた。


(可笑しい……。何時もと明らかに何かがと違うだろコレ……。こんなのただの討伐クエストだろ。しかも高ランクでもないんだぞ。何がどうなってる? くっそ。折角邪魔だったFランクのアッシュを追い出して、これから更に上のSSSランクパーティを目指さなきゃいけねぇのに。何かまだ情報の入っていない異変が起きてるのか?

待てよ――。

それならそれで、このままクエスト進めながら明らかに可笑しいこの異変の原因を突き止めて、誰よりも早くギルドに報告すれば俺の名声が上がるんじゃねぇか?

そうだ……。絶対にそうしたほうがいい。つまらんクエストが思いがけない運を呼び寄せたかもしれねぇ。 やっぱりアッシュがいなくなって正解だ。幸先良いぜ)


 良くか悪くか、考えのまとまったリーダーのグレイによって、今後が決められた――。


「皆、これはモンスターに何か起きてるに違いない。明らかな異変だ。だからこのクエストのモンスターをさっさと討伐して、異変の原因も調査もするぞ! そうすれば伝説のSSSランクパーティーに俺達が最も近づく!」

「え、このままモンスターを討伐しながら?」

「だいぶ面倒くせぇな……」

「でも、SSSランクパーティーになったらもうクエストなんか受けなくても一生遊んで暮らせるぜ」


 ゴウキンの一言で、数秒前まで生気を失っていた全員にやる気が漲っていた。


「確かにそうよね」

「見張り怠ったお前が偉そうに言う事じゃないけどな」

「どっちみちクエストは達成しないと帰れない」


 これも疲労で頭が回っていないせいか……。かなり間違った勘違いに気が付かないグレイ達。ソンモンキー討伐と更なるプラスアルファの評価の為、ロック山脈を更に進むのであった。


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