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第7話 Sランクのジャック

~ロック山脈~ 


「でっっけーー岩!」


 ジークの力をちゃんと扱えるかの証明の為、俺はマスターから言い渡されたSランククエストの内容である“グリフォン”の討伐に来ている。

 グリフォンはモンスターの中でもSランクに指定されてる危険で強力なモンスター。獅子のような大きな胴体に頭部は鳥、鋭い鉤爪と翼まで生やした大きな化け物だ。

 そんな奴の住処が此処、馬鹿デカい岩が山の様な形で聳え立っているロック山脈と呼ばれる山。


 標高八千メートルを超えるとんでもなく大きい山。色んな種類のモンスターが生息している為、多くの冒険者が足を踏み入れる場所でもあるが、山自体が険しく強いモンスターも多いせいで、冒険者も結構犠牲になる事が多いんだ。


「さっと魔力感知しただけでも凄い数のモンスターだな。まぁこれだけ広ければごく自然な事か」

<雑魚はどうでもいいからグリフォンを探せ>

「分かってるよ。見た事ないからグリフォンの魔力知らないけどさ、多分山頂辺りで動いてる一番濃い魔力のやつがそうだろ」


 今の俺ならこのロック山脈なんて余裕で登頂出来る。でも一般的な登山道を通れば他の冒険者に見られるから面倒だな。


「仕方ない。別に急いでる訳じゃないし、誰も通らないようなルートで行くか。ついでに他のモンスターでも討伐して小遣い稼ぎしよう」


 山頂を目指す道中、遭遇したモンスターは片っ端から倒し、珍しい素材や金になりそうな部位は回収した。ジークのお陰で使えるようになったこの空間魔法がめちゃくちゃ便利なんだ。どれだけ大きいモンスターを討伐しても全く手荷物にならない。俺は勝手に収納魔法とも呼んでいる。


『ウキウキィィィッ!』

「お、ソンモンキーだ」


 甲高い鳴き声を上げて襲い掛かってきたのはAランク指定されているソンモンキー。

 ロック山脈の中腹から山頂にかけて生息しているが、麓にも降りてくる事のある厄介な危険モンスター。見た目は熊のような大型な猿。性格は獰猛で攻撃的、加えて足場の悪い山でも極めて俊敏だから普通の冒険者では結構難敵だ。


『ウキキィィ!』

「当然、俺の相手ではないけどな」


 ――ズドンッ。

 岩壁から飛び掛かってきたソンモンキーの攻撃を軽く躱し、俺は魔力で強化した右拳で奴の脇腹に一撃を食らわした。


「今までで一番強い奴だったな。コイツは耳と尻尾が素材になるから回収していこ……ん? 」


 気が付けばもう山頂付近。

 目の前のソンモンキーの素材を回収していた俺の視界の端で何かが動いた。


「そっちから出向いてくれたか、“グリフォン”」


 討伐しまくっていたせいで気が付かなかった。いつの間にかコイツも動いていたみたいだな。まぁそりゃそうか。モンスターだって生きてるんだから。


<人間はこんなのをSランクなどにしているのか。何とも下等な>

「竜神王のお前からしたらな。普通なら超危険モンスターだぞコイツ」

<早よしろ>

「せっかちだなぁ」


 突如姿を現したグリフォン。だが奴は捕食に夢中なのか、獲物を貪っておりまだ俺に気が付いていない。ボス戦が1番呆気なかったな。


「“落雷撃トール”!」


 ――ピシャャン。

『ギギッ!?』 


 俺の繰り出した雷魔法によって、空から一筋の雷がグリフォン目掛けて落雷した。


「これで終わりッ……<――アッシュ、上だ>


 雷で痺れて動けないグリフォンに止めを刺さそうとした瞬間、ジークの声で反射的に上を向くと、いつの間にか炎の玉が眼前に迫っていた。


「うお、危ねッ!?」


 間一髪躱した俺は態勢を立て直し、突如炎の玉が飛んできた上空方向を確認すると、そこには攻撃したグリフォンとは別のもう一体のグリフォンがいた。


「え、 ニ体いたの?」

<何を言っている。ルカが感知した1番濃い魔力がコイツだ。さっき攻撃したのはまた別ぞ>

「うわ、ホントだ。こっちの奴微妙に違う魔力だ。マジか」


 思わぬ落とし穴。先入観って怖いよね。ちゃんと感知すれば明らかに今攻撃してきたグリフォンがここの主だ。


「まぁニ体まとめてもう大人しくしてくれよ。“落雷撃トール”!」


 さっきのトールの三倍増しの威力で放った雷魔法が直撃し、グリフォンは丸焦げで地面に倒れた。


「ちょっとやり過ぎたか」

<弱過ぎる。早く帰るぞ>


 無事に討伐目的であるグリフォンを倒した俺はそのグリフォンを空間魔法で収納し、ロック山脈を下山した。


**


「すみませーん、クエスト終了の手続きお願いします。マスターにもお会いしたいんですけど」


 ギルドに戻った俺は受付でそう言って手続きを進めてもらった。


「あ、忘れてた。この素材の買取手続きもお願いします」


 俺は空間魔法で討伐したモンスターの素材を取り出した。勿論かなりの量と大きさだから迷惑かけないように外にね。


 ――ドサドサドサッ。

「えぇ!?」


 思った以上にあったな。係りの人を驚かせてしまった。


「な、何だコレ……。 ジャッカルの毛皮がニ枚にロックジカの角が六本……! それにこっちはソ、ソンモンキーの耳と尻尾!?  って、うわぁぁぁぁ! グッ、ググ、グリ、グリフォン!?」

「そんな驚かせるつもりはなかったんだけど……。買取宜しくお願いしますね。食堂にいるんで」


 震えあがっている係りの人を横目に、討伐でお腹が空いた俺はギルドの食堂へ向かった。

 あー、腹減った。今までのひもじい生活とは違い金がある。今日は豪勢に食うとしよう。


「あれ、アッシュじゃねぇか」

「ん、ジャックさん! ご無沙汰してます、これから夜勤ですか?」


 食堂のメニューを眺めていた俺に声を掛けて来たこの人はジャックさん。

 なにやらこのジャックさんは俺の父さんに恩があるらしく、昔から俺なんかを気にかけてくれた、母さん以外の唯一の理解者だ。本当にお世話になってる。


「まぁな。面倒くせぇが今週俺の担当だからよ」

「ハハハハ、大変そうですね相変わらず」


 ジャックさんはSランク冒険者。何時もなにかと忙しそう。ギルドは一日中開いているから交代制になっていて、夜は万が一の時に対応出来るSランクの冒険者がこれまた交代でやる事になっている。


「丁度良かった。アッシュに頼みがあるんだけどさ」

「何ですか?」


 ジャックさんは俺が冒険者になってからも度々仕事を回してくれていた。家の事情も知っていたから心配してくれていたんだと思う。


「またモンスターの調査を頼みたくてな。ロック山脈のソンモンキーなんだけど」

「え、それならついさっき討伐しましたよ」

「マジかよ。それで、どうだった? 」

「どうって言われても……。特に変わった様子もなく、指定通りのAランクって感じでしたけど」

「ハハ、なぁんだ。やっぱそうか。いや、それならいいんだ。アッシュがそう言うなら間違いねぇ」


 ジャックさんは笑いながら「今の話は忘れてくれ」と言った。

 何だったんだろうか。 まぁ別に大した事なさそうだけど。


「それよりアッシュ、お前再診断受けたらしいじゃねぇか」

「何で知ってるんですか?」

「え、本当に受けたのかよ。おもしろ」


 何だそのカマかけは。あり得るか? そんなの。


「まだ正式にタグは貰ってないですけど、一応SSSランクが出ましたよ」

「おー、やっぱりそうだったか」


 この人は昔から勘が鋭いと言うか鼻が利くと言うか、兎に角俺はジャックさんに見抜かれる。ジークの事もそうだった。流石Sランクの実力者。


「アッシュさん、お待たせしました。マスターがお待ちですよ」


 ジャックさんと話していると、ギルドで働くマリアちゃんに呼ばれた。彼女を見ると当時の事を思い出す。まだジークを召喚していないFランクの俺が、よく人一人を守れたものだ本当に。

 まぁ相手もFランクモンスターだったからギリだったけどね。


「ありがとうマリアちゃん。すぐに行くよ」

「あら、ジャックさんもご一緒だったんですね。お疲れ様です!」

「お疲れさん」

「それにしても丁度良かったです。ジャックさんもマスターが呼んでましたので」

「ん、何で俺まで?」


 全く思い当たる節がないジャックさんは眉を顰めていたが、俺と一緒に取り敢えずマスターのところへ向かった。


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