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第4話 駆逐の誓い

 モンスター軍を全て退けた俺とジーク。王国はモンスターによって受けた甚大な街の被害の復興作業に追われていた。大勢の命までも奪われてしまったドラシエル王国は、国中悲しみと絶望感で溢れ返ってしまっていた。


 俺も気持ちは分かる。大切なたった一人の家族の母さんを失ったから。でも、残された俺達は、これからまだ生きていかなければいけない。


 俺は幼馴染でパーティーのリーダーでもあるグレイを探していた。連絡を取れない状況だったから、街中で行われている復興作業を手伝いながらグレイも探し、遂に見つけた。


「あ、グレイ! 良かった、やっと見つけた」

「アッシュ? なんだ、お前、生きてたのかよ!?」


 どちらとも取れる物言いだった。

 だが俺は当然疑って等いない。Fランクの俺があの騒動の中生き残る訳ないとグレイは思っていたんだろう。気持ちは分かるさ。実際死にかけてたしね。


「う、うん、まぁ辛うじてだけど。それより、グレイも無事で良かったよ」  

「まぁな。ハハハ。取り敢えず、無事で何よりだなお前も。俺は当然だけどさ」


 何処となく、俺が生きていて嬉しそうじゃないのは気のせいか? いや、そんなの考え過ぎか。もしかしてグレイも誰か大切な人が襲われたのかな。どこの復興作業も大変だから、それで疲れているようにも見えるし。


「そう言えばグレイに話しがあるんだけどさ、今時間大丈夫か」

「んー、まぁ。少しなら大丈夫だぞ」


 やっぱり作業が忙しかったみたいだ。グレイは自分の持ち場を横目で確認しながらそう言ってくれた。丁度作業が一区切りでもしていたのだろうか、皆座って休憩しているみたい。

 俺とグレイは少し場所を移した。


「アッシュ、どこまで行く気だよ。この辺でいいだろ」

「うん、そうだね、ここら辺ならもういいかな」


 別にやましい話とかではないけど、なんとなく公に話す内容でもない。俺が話そうとしている内容を全く知る由もないグレイは「早くしろ」と、気怠そうに壁にもたれ掛かりながら言ったきた。

 これからはグレイやパーティの皆の役にもっと立てる。

 俺はグレイにそう伝えられる喜びを噛みしめつつ、話が話だけに少し慎重に伝えた。


「あのさ、唐突な話なんだけど、竜神王ジークリートって知ってるだろ。あの伝説の」

「まぁ名前は確かにな。でもあんなの大昔のお伽話だろ。それが何だ」

「ああ、実はこの間のモンスター軍の襲撃で俺死にかけたんだ。でも、その時にあのジークリートを召喚出来てさ、命も助かった挙句に相当強い力まで手に入れたんだ――」


 グレイは一瞬驚いたような表情を浮かべ、俺をジッと見た。そして深い溜息と共にこう言った。


「はぁ~。アッシュ、お前さ、この大変な時にわざわざそんな冗談言いに来たのかよ」

「え、いや、そうじゃなくて、確かに信じ難いかもッ……「――しつこいぞ。お前本当に今の状況理解してるんのか? こっちは忙しいんだよ。面白くもねぇし、笑えもしねぇ。仮にジークリートとやらが存在していたとしても、お前なんかが召喚出来る訳ねぇだろ。スライム一体召喚出来ないんだからよ! モンスターに襲われて頭だけは更に可笑しくなったみてぇだな。用が済んだらとっとと帰れ」


 グレイは吐き捨てるようにそう言い、元の作業場所へと行ってしまった。


「ち、違うんだよッ! グレイ──、」


 話を信じてもらうどころか、怒らせてしまった。まぁこんな話しいきなり信じろなんて言うほうが無理あるもんな。それにしても、何もあんなに怒らなくてもいいだろ。忙しいのはグレイだけじゃなくて、王国全部なのにさ。


<主、仲間に信頼されていないのか>


 突然放たれたジークの一言。しかも何故か心をグサッと抉られた気がした。


「そんな事ない、グレイだって疲れているだけだ。他の皆だってしっかり話せば分かってくれる。仲間なんだから」


 そうだよ。まだ王国中が大変の時なんだ。俺の個人的な話なんて後でいい。どの道俺達の最終目標はモンスター共の殲滅だ。俺がジークを召喚出来た事よりも、パーティとしての成果が最も重要なんだから。


<そうか。まぁ我の知った事でない。だが今の……いや、アッシュが今まで通りの生き方をすればよい。死にさえしなければ我も無事だからな>

「ありがとう。皆には色々落ち着いてからもう一度話すよ」


 この時はそう思っていた。


 それから数ヶ月が経ち、王国中の復興が徐々に終わりに近づいた頃、久々にドラシエル王国の冒険者達が皆一斉にクエストを受け始めた。

暫く本業からは離れていた事もそうだが、俺達冒険者……いや、王国中の人々が、モンスターの殲滅を今まで以上に強く願っていた。

 多くの冒険者達は毎日クエストを受けまくり、モンスターを狩って狩って狩りまくっていた。王国を襲った事、大切な人を殺された事、皆の平和を脅かした事。大半の者達がきっと恨みや憎しみを上乗せしていた事は言うまでもないだろう。


「行くぞッ!」

「「おお!」」


 そんな中で、俺達のパーティーもモンスターを討伐しまくっていた。

 初めてグレイにジークの話をしてから数日して、パーティ全員が集まった日があったが、俺は皆が集まる前にもう一度グレイにジークの事を話していた。だがやはり信じてもらえなかった上に、「何時までもそんな事言ってるならパーティを抜けてもらう」とまで言われてしまった。


 だから俺は他の仲間にも一切話をしなかったし、もうどっちでも良かった。だって俺達の目的はモンスターを倒す事だから。そして、久々にクエストを受け始めた日から、俺は徹底して皆のサポートに回ったんだ。

 この時の俺達のパーティランクはまだE。俺がサポートを始めてからというもの、俺達はモンスターの討伐に失敗しなくなった。毎日毎日モンスターを狩りまくり、パーティランクも一つ、また一つと順調に上がっていったんだ。


「めちゃくちゃ調子いいな俺達!」

「キャハハ。調子が良いだけじゃなくて元々強いのよ」

「最近は強いモンスターばかりと戦っているが、余裕で勝てるもんな」

「当たり前だろ。この俺がいる限り、負けは有り得ねぇ」


 モンスターを倒す程、皆の士気も勢いも高まっていた。


「おいアッシュ、後頼んだぞ!」


 そう言って、今日も無事一つのクエストを終えたグレイ達は眠りについた。サポートの俺は何時も野宿の準備をする。寝床を見つけ火を起こし、ご飯の準備をしてその後片付け。そして皆が寝ている間の見張り役もサポートの俺の仕事になっていた。

 最初は色々手間取ったが、今となっては結構上達している。それに見張りはジークの魔力で周囲を威圧しておけば、弱いモンスター達は全く襲ってこないから楽だった。


「ねぇグレイ、今日は凄い報酬だったから、アレ買ってもいいわよね!」

「ああ、全員で好きに使え!」


 クエストで収穫した薬草や素材も、ジークのお陰で鼻が利くのか、今までより短時間で効率良く回収出来ていた。しかもジークは強さだけでなく知識も凄く、かなり助けられていたんだ。


「ハッハッハッ、とうとう俺達が“Sランクパーティ”になったぞ!」

「いやっほーう!」

「グハハハ、俺達がトップだ!」

「もう最高! ねぇグレイ~、今日も私を激しく抱いてぇ」

「当たり前だ、立てなくなるまで犯してやるよ」


 俺達は遂にSランクパーティにまで上り詰めた。

 俺も嬉しかったし、何より皆の喜ぶ姿が最高に嬉しかった。皆のサポートを出来て本当に良かった。


 と、思っていたのはつい数時間前の話だ──。


**


「ジーク、サポートはもう止めだ」とアッシュ。


「俺はここから好き勝手に本気を出す事にする」


 モンスターもグレイ達ももう許さねぇ。俺が一体何をしたんだ。 そんなに俺から全てを奪いたいのか、クソ。だったら逆に、俺がお前達の全てを奪ってやるよ。


<やっとか。遅すぎるわ。グレイとかいうあの小僧、初めて見た時から信用ならん奴だと思ったが、やはり正解だったな。他の連中も同様だ。まぁアッシュが本物のアホじゃなくて我も救われた>


 ともかく、まず俺はこの王国を出る。


 その為には旅の支度が必要だ。討伐のクエストで金を稼ごう。今の自分の実力も気になるし、一旦冒険者ギルドに行くとするか。


「そう言えば“今の状態”で診断受けたらどうなるんだろう」


 ふと頭を過ったが、考えても分からない。最後に俺は、母さんの墓に触れて誓いを経てた。


『母さん、少しの間来られないかもしれないけど、待っててくれよ。俺がこの世界のモンスター駆逐したやるからな。見守っててくれ――』


 静かに心に誓い、俺は冒険者ギルドへ向かった。


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