「
「オウ、おはよ、
「えっへへー、それだけが取り柄ですから!」
はうう、今日も樋口先輩ドチャクソカッコイイよーーー!!!
入籍してええええ!!!!
私の下の名前が
ええやんええやん!!
……いや、待てよ。
先輩の下の名前は
それはそれでアリよりのアリだなッ!
「どうした小牧? そんなご馳走を目の前にしたフレンチブルドッグみたいな顔して?」
「なっ!? わ、私そんな顔してませんッ!!」
「ハハ、冗談だよ。お前はいつも可愛いよ」
「かっ、かわ――」
そう言うなり先輩は私の頭をポンポンしてくれた。
アタポンキターーーーーー!!!!!!
こんなん惚れるなって方が無理な話やろッ!!?(さっきからちょいちょい関西弁を使ってるけど私は千葉県出身)
「それにしても偶然とはいえ、よく毎日学校に行く途中で小牧に会うよな。俺、結構家出る時間まちまちなのに」
「あははは~、いやー、確かに偶然って怖いですねー」
そりゃ偶然じゃないですからねッ!!
毎朝5時に起きて、この道で先輩が登校して来るのをアンパンと牛乳片手にひたすら見張ってますからねッ!!!
――貧乳で大して可愛くもない私だけど、絶対に憧れの先輩を落としてみせるッ!!
「あ、そうだ先輩これ、今日の分のお弁当です!」
「おっ、いつもホント悪いな小牧」
「いえいえ、私料理が趣味なんで、ついつい作りすぎちゃうから先輩に食べてもらえると助かるんです!」
噓だけどねッ!!
本当は料理は超苦手だったけど、先輩の胃袋を掴むために包丁で指をズタズタにしながら死ぬ気で勉強したんだけどねッッ!!!
「昨日の玉子焼きも美味かったよ」
「そ、そうですか! お口に合ってよかったです!」
ぬふふふふ、あの玉子焼きは、甘いもの好きな先輩用に砂糖多めで作りましたからねッ!
男の子なのに甘いものが好きって、何てあざといギャップ萌え要素ッ!!!
でも好きッッッ!!!!
「よーし、今日も朝練頑張るかあ」
「はいッ! 私も全力でサポートしますね、先輩ッ!」
「サンキュ」
サンキューはこちらの台詞ですいつもご尊顔を拝ませていただいて本当にありがとうございます出来れば結婚してください(めっちゃ早口で言ってそう)。
「ふっ」
樋口先輩の放ったスリーポイントシュートが、華麗な放物線を描いてゴールに吸い込まれていった。
かっこよ。
ゴールになりてえ。
我がバスケ部のレギュラーにして稀代のスリーポイントシューターの樋口先輩には、今日も女子バスケ部員達から黄色い声援が上がっている。
お前らはさっさと自分の練習しろやッ!!
先輩のサポートはマネージャーの私がやっとくからよッ!!
「先輩! これ、タオルどうぞ!」
「オウ、サンキュ、小牧」
いえいえ、礼には及びませんよ!
その代わり後でそのタオル匂い嗅がせていただきますね?
「
「ああ、サンキュー
ヌッ!?
そうこうしている内に、また
私のクラスメイトで、且つ同じバスケ部のマネージャーでもある美穂ちゃんと、同じくクラスメイトで一年生にしてバスケ部のレギュラーでもある田島勇斗君のカップルは、バスケ部内でも有名なバカップルだ。
まあ、美穂ちゃんは胸こそ私と同レベルのド貧乳なものの、顔はいかにも男好きしそうなおっとり系の美少女だからね。
そりゃ田島君みたいなイケメンともお似合いだよね。
クソがッ!!!!
結局世の中顔なのかよッッ!!!!
「ん? どうしたの梨乃ちゃん? そんなチワワを目の前にしたフレンチブルドッグみたいな顔して?」
「私ってそんなにフレンチブルドッグに似てるの!?!?」
「あはは、冗談だよ。よく樋口先輩が梨乃ちゃんをそうやってからかってるから、真似しただけ」
「あ、そう……」
そうなんだよなぁ……。
多分樋口先輩にとっては、私はペットのフレンチブルドッグ程度の存在でしかないんだよなぁ。
――その証拠に。
「椋真、はいポカリ。休憩中はしっかり水分摂りなさいよ」
「うるせーな
これだ。
私と同じくマネージャーの百々子先輩。
百々子先輩はワンピ○スの女性キャラかよってくらい、目もくらむような美貌とグンバツのプロポーションを誇る、スーパーチート女子だ。
その上樋口先輩と幼馴染ときている。
いや流石にこれは恋のライバルとしてハードル高すぎだろッ!?!?
ぼくのかんがえたさいきょうのこいのらいばるかッ!?!?
そういうのは黒歴史ノートの中だけに留めておいてくれよッ!!!(血涙)
……いや、でもだからといって絶対に私は諦めないけどねッッ!!!!
スーパーチート女子がなんだ!
恋なんてのは所詮、最後に立っていたほうが勝ちなんだよ!
樋口先輩を好きだって気持ちだけは、この世の誰にも負けない!!
先輩の彼女になるのは私だッ!!!
「ふふ」
「――!」
そんな私の敵意のこもった視線に気付いたのか、百々子先輩が不敵な笑みを浮かべた。
キーーーー!!!!
余裕ブッコキやがって!!!
今に見てろよ!!!
「あ、そうだ椋真」
「ん? 何だよ百々子」
「例のアレ、今日の放課後あたりどうかな?」
んんん??
『例のアレ』???
「ああー、うん、……まあ、いいけど」
「ふふ、じゃあ決まりね」
「ちょっ! ちょっとよろしいですかッ!?」
「え? な、何だ小牧」
これ以上水をあけられて堪るか!!
「その、今お二人が話されてた『例のアレ』というのは、いったいどういった内容なのでしょうか!?」
「あ、うーん、それはだな」
「ふふ、別に、久しぶりに二人でカラオケでも行こうって椋真と話してたのよ」
「カラオケッ!!?」
し、しかも、二人だけでッ!?!?
――そんなのエロいことする気満々じゃねーかッッ!!!!!
この歩く不純異性交遊がッ!!!
「はいはいはーい!!! それ、私も行きたいですッ!!!」
「えっ」
樋口先輩が面食らった顔をしたが、そんなの知ったことか!
「ふふ、いいわよ、梨乃も一緒に行きましょ」
なぬっ!!?
な、何ですかその百々子先輩の余裕は!?!?
……それくらい私はいてもいなくても変わらない、ノミと同程度の存在だってことですか。
クソがッ!!!!
舐めやがって!!!
その油断を、死ぬまで後悔させてやっかんなッ!!!
「奥さ~ん、奥さ~ん、まだ会計済んでない品あります~よね~」
「何この曲!?」
「『ちっこいズ』っていうアイドルの、『万引きGメンラプソディ』って曲よ。梨乃は知らない?」
「いや、知らないっすねぇ……」
それにしても、歌までプロ級に上手いとは、百々子先輩神に愛されすぎじゃない?
絶対神に枕営業とかしてるでしょ?
流石歩く発禁図書。
「はぁ~、歌ったら喉乾いちゃった。飲み物おかわり取ってくるね」
「あ、じゃあ俺も行くよ」
なぬっ!?
それじゃ二人っきりにさせちゃうじゃないか!?
でも、私はまだ飲み物大分残ってるし……。
「いいよ、椋真の分も取ってきてあげるから。オレンジジュースでいいんでしょ?」
「あ、ああ、じゃあ頼むわ」
なぬぬぬっ!?!?
何……だと……。
それだと今度は私が樋口先輩と二人ってことになりますけど!?!?
狭い個室に若い男女が二人っきりってことになりますけど!?!?!?
何か間違いが起きても、誰も責められませんけど!?!?!?!?
……いったい何を考えてるんだ今日の百々子先輩は。
「……」
「……」
百々子先輩がいなくなった途端、気まずい静寂が個室を包んだ。
し、しまった。
予想外の展開すぎて、何を話していいかわからない。
千載一遇のチャンスなんだ。
何でもいいから、何か話さないと……!
「あ、あの、先輩――」
――その時だった。
ブーブーと、樋口先輩のポケットの中でスマホが震えた。
「あ、ちょっとゴメンな」
「あ、いえいえ、どうぞどうぞ」
くううう!!!
タイミング悪いなッ!!
私は絶対神に愛されてないよッ!!!
まあ、樋口先輩以外の人に、枕営業する気は毛頭ないけどさッ!!!
「……な」
「?」
が、スマホの画面を見た先輩は、口を半開きにして目を見張った。
ほ?
「ど、どうかしましたか、先輩?」
「あ! ……いや、何でもないんだ」
「あ、そうですか」
いや何でもあるでしょ!?!?
ま、まあ、今はそれどころじゃないか。
とにかく百々子先輩が戻ってくるまでに、いっぱい先輩と話さなきゃ!
「そういえばさっき何か言いかけてたよな?」
「あ、はい」
よし、何か話すぞ!!
えーと、えーと……。
――あああああああああ!!!!
頭が真っ白になって何も話題が出てこないいいいい!!!!!
「えーっと、……百々子先輩って、スッゴイ美人ですよねー」
「え?」
ぬおおおおおおおおおおお!?!?!?!?
何言ってんだよ私はあああああああ!?!?!?!?
「いやだって、ズルくないですか私だって同じ女なのに? 何なんですかあのパーフェクトボディ? その上マネージャーとしての仕事も完璧で、歌まで上手くて。……自信なくしますよ」
「……小牧」
……くっ。
やっぱダメだ。
今までずっと自分を騙し騙しやってきたけど、ホントは心の奥じゃ、百々子先輩には敵わないってわかってたんだ私は……。
私が女として百々子先輩に勝ってる部分なんて、一個もないんだから……。
「だ、だから――先輩は百々子先輩と付き合うべきです。きっと百々子先輩も、先輩のこと好きですから」
「……」
あーあ、何言ってんだろ私。
せめて涙は拭けよ私!!
「百々子先輩が戻ってきたら、私は帰りますんで、後はよろしくやってください」
……さようなら、私の初恋。
「……百々子は戻ってこないよ」
「…………え?」
今、何と?
「さっきスマホに連絡来たの百々子からでさ。――先に帰るから、百々子のバッグは後で家まで届けてくれってさ」
「は????」
なんで????
「――ゴメン、小牧!!」
「っ!」
突然先輩は深く頭を下げた。
んんんん????
まったく話が見えないんですけど????
「――実はこのカラオケは、俺と小牧が二人っきりになれるように、百々子と俺で計画したことだったんだ」
「……ふえ?」
ふえええええええええ!?!?!?!?
どどどどどど、どゆことおおおおおお!?!?!?!?
「小牧の目の前で俺と百々子がカラオケに行くって話題を出したら、絶対小牧も行くって言うはずだって百々子が言うからさ。俺は半信半疑だったんだけど、ホントにその通りになったから、面食らったよ」
「あ、はぁ」
んんんん????
つ、つまり、それは……??
「……勘違いしてるみてーだけどな、俺は百々子のこと、幼馴染としか思ってないぞ」
「――!」
「てかあいつ、彼氏いるし」
「彼氏いるんですかッッッ!?!?!?!?!?」
はあああああああああ!?!?!?!?!?
何だよそれえええええええ!?!?!?!?!?
じゃあ早く言ってよおおおおおお!!!!!!!!!
「……ここまで言えば、もうわかるだろ」
「――!!」
あ、ええ……、まあ、何となくは。
「いや、こういう曖昧な言い方はよくねーよな。ちゃんと言わなきゃ。――小牧、俺はお前が――」
「ちょっ!! ちょっと待ってください先輩!!!」
「え?」
――ここは。
「ここは私から言わせてください。――だって、ずっと――ずっと前から言いたかったんです」
「あ、うん……、じゃあ」
子供みたいにオドオドしながら、それでも必死に背筋を伸ばそうとする先輩。
――ああ、先輩可愛い。
私はゆっくりと深呼吸を一つしてから、口を開いた。
「――先輩、私は樋口先輩のことが――」