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2:話をしよう

 最終下校時間まで意識を失っていたせいで、先生に心配されつつ怒られつつ学校を出た。


 12月の午後6時は真っ暗で、夜中とさほど変わらない。

 アホみたいな冬の寒さに凍えつつ、俺は暗い帰路を辿った。


「聞いてくれよシルえも~ん!」

「シル……えっ?」

「学校でかくかくしかじかあって……!」


 外の寒さがバカバカしく思えるほど麗らかな門の中で、俺はシルフィアに泣きついていた。


「それは大変だったね……」

「どういう系統の魔法かも分からないから対策取れないし……そういや俺に対魔法防御手段ないし……」

「ふっふっふ。ならばこの私にまっかせなさい!」

「おぉ! さすがシルフィアさんっ! よっ、世界最強!」

「《|魔導増幅《アンプマギカ》》、《|対内結界《インサイドバリア》》!」


 体内が魔力で包みこまれるのを感じる。力が湧き上がるというよりは、守られるようなイメージだ。


「すごい……! これで明日も頑張ってみるよ。ありがとうシルフィア!」

「えへへっ、どういたしまして。これくらい簡単だよ!」


 そして俺は、そのままシルフィアの横で眠りに就いた。


 ◇


「ここで会ったが百年目! 今度こそ話をしよう!」


 再びやってきた学校の端っこ。奥の方にある暗がりの通路と、そこにある部屋は何に使われているのか全く知らない、そんな場所だ。


「三日目だし話はしないと言っているだろう。また保健室送りにされたいのか?」

「さぁ、どうだろうね?」

「……《|魂震盪《ソウルコーク》》」


 ――直後、魂が揺さぶられるような衝撃を受けた。


 頭ではなく、胸の中にある魂を殴られた感覚。


 また同じ魔法だ。消費魔力もそんなに多いようには見えないし、使い勝手がいいのだろう。


「なっ、倒れないだと……!」

「どうだ。今回は対策をしてきたからな。もう同じ手は喰らうまい」

「ならこれはどうする。《|斬魂鎌《ソウルリーパー》》」


 陽彩の手元に、大きな鎌が現れた。禍々しいオーラは魂にまで恐怖を伝えてくるようだ。


「おいおい学校でそんな物騒な鎌出すのやばいだろ!?」


 誰にも見られていないことを確認し、慌てて俺も蒼剣を取り出す。


「……君も武器を取り出せるんだな」

「俺のは魔法じゃないけどな。ガチガチに強化されてるし、多分斬れないものはないぞ」

「その言葉、覚えておくと良い!」


 すると、陽彩は大きな鎌を振りかぶり、俺の首を刈ろうと横に薙いだ。


 それを剣で受け止める――はずだった。


「あっ」

「鎌が――!?」


 出会ってから一番の動揺だ。


 まさか、「鎌が切れる」とは思ってもいなかったのだろう。

 そういやこの剣切れ味いいんでしたね……この前の魔剣でもっと強くなってるらしいし。


 そうだ。言ってみたかったセリフをここで言ってみるとしよう!


「斬れぬものなど、あんまり無い!」

「あ、あんまりなのか……」


 ぬわああ! 通じなかったああああ!

 悲しゅうございます……


 あのセリフを言うならこの剣の名前斬魄刀にしようかしら……いや、魄を斬るって陽彩のが似合ってね? 


 なんかもっと悲しい……!


「さぁどうするよ。鎌はぽっきり折れてそこに落ちた。ボンドでくっつけでもするか?」

「《|感情操作《エモート》:虚無ヴォイド》!」

「だから効かないって。増幅させた防御魔法かけてるから。てか攻撃する気もないし。な、平和に話し合おうよ」


 途端、陽彩の纏う雰囲気が一気に暗いものに変化した。怒りも感じ取れるようなそれは。心の壁を幻視するには充分すぎるほどだった。


「――何が目的だ」

「ん?」

「君には敵わないようだが、ぼくはこれでもA級。その力が欲しいのか? それとも金か? ぼくは確かに報酬を溜め込んでいる。分け与えれば遊んで暮らせるだろう。あるいはぼくが欲しいのか? 何かの企みのために使いたいのか? 答えろ!」

「……っ」


 絶句するしか、なかった。


 陽彩の目には明確な敵意が宿っている。俺に、というよりは、今まで会ってきた「敵」に。過去の忌々しい「記憶」に。


「気が変わった。陽彩、君の話を――心の中に溜め込んだ愚痴や闇の全部を聞かせてくれ。俺が受け皿になってやる。全部吐き出してくれ」

「それで見返りに何を要求する気だ」

「そんなことは考えてない。愚痴が終わった後に縁を切る……のは寂しいが、望まれたら俺は首を横には振らない。ま、ただの自己満だよ。人の話を聞きたいっていうさ。それに付き合ってくれるだけでいい」

「…………放課後に」

「あっちょっと!」


 なにかを悟ったような声色で一言呟き、陽彩はその場を去った。


「放課後に」ということは、少なくとも会話を続ける意思はあるようだ。なんとか一安心だ。


 ――そんな安心感を覚えつつ、午後の授業を終え時刻は午後4時。

 先程の場所へと逸る気持ちを抑えながら向かった。


「陽彩、早いな。まさか俺のが後だとはね」

「今は……黙って話を聞いて欲しい」

「おっと、悪い。静かにしておくよ」


 陽彩は「ふぅ」と深呼吸をしてから、言葉を慎重に紡ぎ始めた。





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