ティアが白虎――もとい
悪魔は魔将の腕と
悪役が全員お縄についたところでダンジョンを脱出し、ヴェインたちがスタンピードの終焉を宣言。
そして、ついに日本には平和が訪れたのだった。
◇
「んあ~、暇だ」
探索者、趣味のつもりが大惨事――
伶、心の俳句ぅ……
そんな事を、一ヶ月前を思い出して心の中で呟いた。
「まだ昼休み終わってないし、なんか風にでも当たってこようかな」
そう、今俺は学校にいる。普通に平日なので当たり前なのだ。
あれからダンジョンには行っていない。
理由は単純。美味いもの食べたいとかいう目標が普通に叶えられそうなほどの大金を手に入れているからだ。確か1000万くらいある。
いくらダンジョン経済でGDP底上げして最低賃金が2000円を超え合計特殊出生率が2を超え子ども政策や補助金を拡充したからといって、こんな金を高校生に与えて良いのかね……
引退はさすがに早いしもったいないけど、暇な休みは皆とデートでもすればいい。無理に命を危険に晒す意味はないのだ。
またなんか巻き込まれたらやる。うん。多分。
「そうだなぁ……学校の端っこでも行くか」
屋上なんてものはない。あれはフィクションなんだよちくしょう!
それに加え、屋上があっても生徒数多いからどこ行っても人がいる。きっと昼休みには大混雑するに違いない。
俺は今一人でぼーっとしていたいのだ。
壁の先には道路がある――そんな場所は流石に人がいないのは把握済み。とりあえずそこに行ってみることにした。
「……おるやんけ」
そこには、体育座りで弁当を一人食べる少女がいた。
髪は黒髪のボブ。顔を見てみようと〈天空眼〉を使ってみる。
「めっちゃ可愛いんですけど……???」
シルフィアとは違い、純日本人の可愛さだ。こういうのも結構好きで……ゲフンゲフン。
使っていない左手が萌え袖になっているのも可愛い。あと気だるげな雰囲気も可愛い。
しかしこれは退散したほうが良さそうだな。教室もないどっかの棟でも行けば人がいないかもしれないし――
「……おい、さっきからぼくを見てるのは誰だ」
「なっ――!?」
バレてるんですが?????
なんで? 大きな音なんか立ててないってのに!
「あー、別に覗いていたわけでは……」
と弁解しつつ、両手を上げて姿を見せる。
「用がないなら帰ってくれないか。ぼくは見ての通り食事中なんだ。もし立ち去らないなら……」
「分かった、分かったから! ほんとすいませんでした!」
……俺は弱い。
◇
翌日、俺は弁当を食べながら頭を悩ませていた。
――あの少女、俺を脅す時に魔力を使っていたのだ。
覚醒者でなければ体内にある魔力を使うことはできない。
人を追い払う程度の事で魔力を使えるということは、普段から使っている証。もしかしたら探索者の可能性すらもある。同業者ならばなおさら話をしてみたい。
あの場所に行ってみたら会えるだろうか。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「あいよ」
そうして席を外し、またあの場所へ向かう。
「……また来たのか。しつこいぞ」
「足音だけでなんで俺って分かるんだよ……」
「気にするな。ぼくはそういうのが得意なだけだ」
ふむ、足音から人を特定できるのが得意、ねぇ……つまりそういった系統のスキルを持っているわけか。
あいにく俺は鑑定なんか使えないので詳しくは分からないが。
「……単刀直入に言わせて欲しい。君は覚醒者だよね」
すると、少女がぴくりと反応した。
どうしてか分からない、と言いたげな顔をしている。
「それが分かるってことは、君も覚醒者なのか」
「その通り。仲間なら仲良くしたいなって思ってさ」
「……別に、そういうのはいい」
「でも昨日、魔法かスキルかで俺を攻撃しようとしてなかった? 探索者なら色々話してみたいことが――」
「《|魂震盪《ソウルコーク》》」
い、意識が朦朧として……クソッ、魔法を使われたか!
こう言う時の抵抗手段ないんだよなぁ俺——!
「…………はっ」
ふと目が覚める。
あぁ、確かここは保健室か……まぁいいだろう。午後の授業嫌いな教科ばっかだったし。ちょっとお得感ある。
「にしたって、いきなり意識刈り取る魔法はないだろ」
意識がなくなる最後の景色を思い出して毒づいた。
「酷いな。ストーカー紛いのことをしたのは君だろう。被害者ぶらないでくれ」
「いやいやそんなこと言われても……あれ?」
おかしいな。さっきの少女の声がする。幻聴だなんて俺はそんなに疲れていたのか。
「なんだ、ぼくがいることがそんなに不思議か?」
「そりゃ不思議でしょ……気絶させた犯人がいるとか意味不明なんだが」
「保健室の先生が出張があるからと番を頼まれてしまって……ぼくだって不本意なんだ」
それでいいのか峰文高校……!? 女子生徒一人を男子の横に放置してさぁ!
「そう言うことか……そういや、名前はなんて言うんだ?」
「
「さいでっか……俺は伶。1年K組だ」
「そうか」
「……」
「……」
……ねぇ、ここで沈黙になるとかどういうことですの???
こう、こっから色々聞いたりするんじゃないの???
え、お前も喋ってないだろ、って?
顔に「話しかけるな」って書いてある人に話しかける勇気があなたにおありでしょうか! 俺にはねぇよ!
だが話しかけないと何も進まない。腹をくくって質問をしてみようか。
「さっき魔法を使った時、全然魔力が減ってなかったな。さぞお強いんだろ?」
「……言わないと言っただろう」
「独り言は禁止されてないが」
「っ……好きにすれば良い」
女子にこんだけ嫌いムーブされるとさすがに傷つくわぁ……シルフィアに癒やしてもらおうそうしよう。
「魔法を人に向けて撃てる胆力は、ガキか探索者のどっちかしか持ってない。だが陽彩は考え無しにやるようには見えない。つまりは探索者だ」
「あぁ、そうだな」
「一撃で意識をなくせるほどと考えると……少なくともB級か。A級の可能性すらある」
「あぁ、そうだな」
「もし有名だとすれば……さしずめ【無窮の魔女】といったところか」
「……あぁ、そうだな」
俺は内心で笑みを浮かべた。
陽彩は今、明らかに動揺した。顔には出さないように努めているようだが、声に震えがあった。
まさかここでビンゴとは。俺も正直驚いている。
「【無窮の魔女】――正体不明のA級大魔法師。大きなコーンハットとローブで姿と顔を隠し、パーティーを作らず一人で行動する謎多き人物。背丈などから高校生と推察されているも、真実かどうか定かではない……こんなところだったかな」
「……ぼくがそれだったらどうなる」
「さぁ、どうもしないよ。ただ俺は友達と楽しく会話したいだけだ」
「そうか。ならそう思ってくれて構わない。言いふらしたら記憶を消す」
「うへぇ、怖いこと言わんでよ。ともかくよろしくな、陽彩」
「……あぁ、そうだな」
今度は少し、笑っていたような気がした。
ええやん。
「そういや今先生いないんだろ? 今スマホ持ってるしSNSとか交換しない? そしたら会わずとも会話ができると思うんだが――」
「《|魂震盪《ソウルコーク》》!!!」
「またかよっ――!?」
ちくしょう!!! また意識がああああああ!!!!!!!!!