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13:悪魔、襲来

 前回を12-2にしました。分割してたので……

 =====

「かはっ――」


 自分の胸元から腕を引き抜いた瞬間、交代するかのように痛みを伴った漆黒の刃が生えた。

 熱い液体が口からこぼれ落ちる。それが、血であることに気づくにはそう時間がかからなかった。


「伶っ!」


 切羽詰まった声でシルフィアが叫んだ。一瞬で姿が掻き消えたかと思うと、視界が目まぐるしく変わる。どうやら身体が突き飛ばされたようだ。


「ぐっ……!」


 数メートル離れた場所で身体が地面についてバウンドし、止まった地点は奏手さんの目の前。「理解できない」と言いたげな顔を見上げる形になった。


「れ、伶さん!? あっ、《|再誕《リバース》》!!!」


 先ほどもかけられた魔法をもう一度受ける。

 今度は効果てきめんだったようで、傷口はすぐに塞がり疲労も吹き飛んだ。しかし動揺は消えない。


「シルフィア! 大丈夫か!?」


 シルフィアは、黒い影――黒い翼や角が生えている――と剣を交えていた。


「ふふっ……久しぶりだねぇ、悪魔長アスナ。いきなり私の大切な人を刺すなんて、この私に喧嘩売ってるのかな? かな?」

「全く、邪魔な女だこと……まぁよい。今日こそ貴様を我らが糧としてやるわ」


 たったそれだけで会話は終わり、激しい剣戟が繰り広げられる。


 縦横無尽に駆け巡っては、時々剣がぶつかる音がする。異次元の戦いであることは明白だろう。


「な、何か来る!」


 アルマさんが言った刹那、黒い影が俺を襲う。


「あっぶねぇなぁ!?」


 なんとか反応して剣で斬り伏せる。


 それは、いつしか見た――悪魔だった。


「悪魔がワタシたちを襲撃しにきたってことね。でもあいつらは魔力を目的にしか動かない……はっ!」

「どうしたんだ、ティア?」

「レイ、戦うとか考えてる暇ないかもしれないわよ」

「む……?」


 次の瞬間、どこからか黒い影の軍勢が現れた。よく見れば、それらが全て悪魔であることに気づく。


「キキッ!!!」


 獲物を見た時のような表情。食事を楽しみにしているような歓声。

 浮ついたような視線はほとんどが俺を真っ直ぐに射抜いていた。


「お、俺、もしかして食べられちゃいます……?」

「キシャーッ!」

「うわあああ!?」

「あたしには何がなんだか分かんないけど! 皆、レイの事を守ってあげて!!!」


 続々と襲いかかる悪魔たちの前に、赤髪の男が颯爽と現れる。


 新たな獲物が現れた――悪魔たちは下卑た笑みを浮かべ、歓喜の声を上げた。


 だが、彼らの攻撃はことごとく無意味だった。鋭い爪撃も、降り注ぐ魔法の雨も、男の前では無力に終わる。それどころか、男は微動だにせず立ち尽くしているだけなのに、悪魔たちは次々と倒れていく。


「この能力、いやスキル……どこかで見覚えが――」

「信司っ!」


 何かを思い出せそうな時、アルマさんがその男の元へ駆け出した。


「おぉ、花織! ここにいたのか!」


 笑顔で振り向く赤髪の男。

 その顔を見て、やっとその正体を思い出した。


「伝説の配信者夫婦――ヴェインとアルマ……!」

「うぅ……信司、会いたかったよぉ」

「オレも会いたかった。やっと会えたなっ!」


 とても嬉しそうな様子で二人が抱き合っている。

 戦場のど真ん中でいちゃつかないで欲しいなぁ! ……すみません俺が言えたことではないです。


「花織、二人でこの少年を守り切るぞ。オレたちならやれる!」

「えぇ、もちろん!」


 そこへ、命知らずな悪魔が突っ込んでいく。


「《|氷風《スウィン》》!」


 飛び上がった姿勢のまま、凍てつく風に運ばれどこかへ吹き飛んでいった。彼が次に地面を感じられる方法は、衝突することのみに違いない。ついでに言えば、それが最後の景色にもなるだろう。


「ッ! させない!」


 ルナイルが盾を携えて俺の背後に飛んできた。直後、耳障りな衝突音が聞こえてくる。


「《|岩弾《ロックバレット》》!」


 必死に盾にしがみついていた悪魔に、魔法で生成された岩の塊をぶつける。


 ただ投げるのではなく、魔法によるものだからか意外に威力はあるようで、胴体に弾を食らって10メートルくらい吹き飛ばされていた。痛そう。


「ちっ、さっさと諦めてしまえばいいものを。お前たちを喰らうため、魔界中の悪魔が参戦している。いくら『白き鬼』いえども所詮は人間。いずれくたばるのは目に見えている」


 俺たちの近くで剣戟が止まり、シルフィアと悪魔長が空中で話し始めた。


 ……アスナ、だっけ。露出えっぐいな……妖艶な雰囲気が溢れ出てる。

 シルフィアのが好きだけど! 可愛いんだけど! やはり見てしまうのが男の性だ。こりゃええもん見せてもろたで。


「別に逃げるだけならできるんだよ。この場の全員を連れてね。でもさ」


 途端、シルフィアから放たれるオーラが再び魔神のようになった。


 ……大丈夫かな、俺の思考を読まれたりしてないよな。もしそうだったら折檻されそうで怖いです……なんか言われたら土下座しないと。


「伶に不埒な視線を向けたよね。私、それがどうしても許せなくてさ」

「おぉ、怖い怖い。妾の圧に屈しないどころか睨みつけるとは。でもかの少年は妾のここを見ておったぞ?」


 ……やっべえええええ、バレてる……っ!!!!!!


 アスナは「ここ」としか言わなかったが、視線が己の胸元に動いていた。これはまずい。皆が守ってくれてるのにこんな事で死ぬんか俺。


 本当に嫌ですそんなの……!!!


「……ここ、かぁ……」


 シルフィアも「ここ」が何を表してるのか気付いたようだ。自分の胸に手をあて、視線をアスナと交互にやっている。


 いやぁ、俺は大きいより小さいほうが好きなんですけどねぇ……! ただ人間も動物だから動くものを見る性質があるだけなんですけどねぇ……!?


「別にいいよ、私はそんなの気にしてないから……でもなんか許せない!!! 伶、これ受け取って!!!」

「ふぁっ!?」


 若干涙目になっているシルフィアから、宇宙の如く光る剣が投げられる。


「お主、それは……!」

「これは魔剣【無限の道マルチバース】! 伶の剣に重ねることで強化できるの! そして強くなった剣でこいつをぶっ殺す! いいね!?」

「はいっ!」


 はいと言うしかない。この圧は頷くこと以外の選択肢を消滅させた。 


「皆さん悪魔引き付けといてくださいっ!」

「あいよっ!」「えぇ!」


 覚悟を決め、剣を重ねる。


 その刹那、ビックバンのような眩い光が放たれ、力の奔流が巻き起こったのを感じた。


「おぉ……!」


 数秒後。光が収まると、蒼剣の刀身には宇宙があった。


 蒼穹と、その向こう側にある無限の彼方。それらが重なったのだ。


 それを見た俺は思い切り飛び立ち、再び炎を纏わせアスナを見据える。


「恨みはないけど死んでくれッ――!」


 剣が首元に向かって斜めに振り下ろされる。


「……妾と結婚して欲しい!!!!」

「……へ?」


 意味不明な言葉が聞こえるも、時すでに遅し。

 剣はアスナの首をなんの抵抗もなく切っていった。


 タッ、と着地すると同時に、首のない身体が地面に落ちる。


「……これで良かったのか?」

「良いよ。だってそいつ――死んでないもん」

「えっ?」

「ほら、そろそろ首つなげ直しなよ。幻滅されちゃうよ?」


 その言葉が響いたのか、切断面から黒い靄が現れた。それらが首と胴を繋げると、互いに引き寄せられピッタリとくっついた。


「その魔力の多さはあまりにも得難い……! 先の戦闘で性格も問題ないと感じた。ならもう、結婚するしかあるまい!」


 暴論だ。そもそもあっちが良くても俺が良くない。

 しかもあれだけで性格問題ないと思うとかどんな思考回路をしているのか。


「ダメ。するなら私だから、ね?」

「もちろんですッ!」


 上目遣いでのお願いは反則ですシルフィアさんっっっっっっ!!!!!


「そこな悪魔長さんや、ちょっとお話が」

「なんだ、金髪の娘。今は気分が良いから聞いてやろう」


 ルナイルが何かを閃いた顔で言った。

 これあれだ、数ヶ月前の「女神様」やってたときの顔だ。つまりは悪巧みしてるってことで。なんだか嫌な予感がするなぁ……


「かくかくしかじか……」

「ほうほう……」


 話がついたのか、スタスタ歩いて二人が戻ってくる。


 で、開口一番に――


「妾たちに魔力を支払ってくれ。さすれば、この悪魔の軍勢を好きなように使って良い」

「つまりは傭兵みたいなものよ。レイは魔力いっぱいあるんだし、多分どうにかなるわよ」

「またそんな危ない橋を渡ったのかルナイル……」


 再びの圧 倒 的 事 後 承 諾。

 こういうのはぜひともやめていただきたい。商人ってこんなんばっかなのか? 俺は違うと思う。


「さぁ、早速妾に魔力を!」

「どうやってやればいいんだ? それ」

「唇を合わせれば良い」

「なっ……!?」


 キスをしろと? ここで? 初対面の人と!?




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