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12-1:ドラゴンスレイヤー

「グルルル……」


 黒い部屋に、圧倒的に存在感を放つ一つの魔物が――ドラゴンがいた。


 かつてシルフィアが魔法一つで消し飛ばした存在が今、目の前にいる。


「伶くん、ここは一旦引いて私に――」

「やらせてください」

「ん? 今、なんて……」

「俺に、やらせてください。ここにはいない仲間のシルフィアが、かつて一撃で倒した『ドラゴン』を、今度は俺が倒してみたいんです」

「伶さん! そんなの無茶ですよっ! 私だって死んだ人はたぶん蘇生できないんですよ!? たぶん!」

「そうだ! 奏手ちゃんにだって無理なことはある! たぶん!」


 なんだろうこの二人、本当に仲がいいんだな。うん。それ以上は何も言うまい。


「でもまぁ、いいよ。若き少年の熱い心は止められないって私は知ってるから」

「アルマさん……!」

「グラアアアアアッ!」


 痺れを切らしてか、ドラゴンが小手調べの如く爪で攻撃してくる。


「くっ――!」


 それを剣で受け止める。

 やはり、あのロボットとは比べ物にならないほど力だ。素の俺であれば一撃で腕がもってかれているに違いない。

 五体満足でいられるのも、スキルのおかげと言える。


 だが……


「ルナイル! これから攻撃は全て受け止めてくれ!」

「分かったわ! あたしも本気で行くわよ! 〈金魄ゴルドリール〉!」


 すると、剣が触れていた爪が金に変化した。次の瞬間にはそれを切断していた。


 なるほど、この硬さならば金の方が柔らかいということか……!

 これなら行ける!


「ティア! 援護を! 俺は翼を落とす!」

「ガオッ!」


 空中を蹴って飛び上がり、意識を向けさせるために雷の魔法を上から落とす。まるで雷神のようだ。


 タッ――と俺も地上を飛び上がり、大きく開かれた翼の付け根へとたどり着いた。剣に魔力を込め、炎を燃え上がらせ思い切り右翼を切っていく。

 重力も組み合わさってかハサミで髪を切るかの如く刃が通り、一拍遅れて血の雨が降り注ぐ。


「グアアアアアアア!」

「ティア! もっとだ!!」

「ガオ!」

「私も協力する! 《|氷極弾幕《アイサーバレッズ》》!」


 痛みを叫んだ口腔に、雷と氷の弾幕が豪雨のように降り注ぐ。


「――!?」


 口の中という肉の部分を攻撃され、さらなる痛みにもがくドラゴン。

 声にならない声を出し、ジタバタと暴れている。


「次は右腕ごと! 〈金魄ゴルドリール〉!」


 ドラゴンの右腕がゆっくりと、しかし着実に金色に染まっていく。

 同時に、重心がそちらに偏っていくのも分かる。


「グッ、ルルッッ……」


 ドラゴンの主要な攻撃手段たる「ブレス」は、口の中で生成する。その口の中が口内炎の上位互換みたいな苦痛ともなれば、上手く作れないのは当然だろう。


「今なら左翼も切れるはず――!」

「グルッ……!」


 ドラゴンが油断していると思って飛び立った直後、過ちに気がついた。


 ――あぁ、やけにその眼が鋭いと思ったら。


 俺が飲み込めるギリギリの大きさに口を開き、空中にいる俺を口でキャッチしようとしているではないか。

 あいにく、空中でジャンプできるチートスキルは持ってねぇです。


 俺が口を物理的に封じる壁になれば魔法も打てない。偶然なのか策略なのかは分からないが、ともかく大ピンチだ。今度こそ遺書だ。


 目を閉じれば、今までの思い出が蘇る。

 走馬灯というのはやけに簡単に流れるものなんだなぁ……こんなところで死ぬとは情けない!


「レイッ!」


 足元がぬめりを帯びた場所になったとき、ガギン、と音がした。


 不思議に思い目を開けると、ルナイルの盾が口を塞がないように差し込んであった。なるほどこれなら問題はない。


「レイ! 早く出てきて!」

「助かったよ……ありがと……!」


 死にかけたお礼ということで、今俺が立っている地面――もとい舌を燃える剣で切って口の中を出る。


「……ワタシを乗り物扱いするのなんてキミたちしかいないんだからね?」

「そうしないと俺たちが死ぬんでね。感謝はしてる」

「……っ!! は、早く乗りなさいよ!」

「へいへい」


 空中に足場を作っているのか、四足で無を踏みしめるティアに二人で乗り、高くまで登っていく。


 ドラゴンが見下ろせる位置まで来るとティアは止まった。

 地上からどんくらいあるんだこれ……100メートルってのが冗談に思えん高さだ。


「《高天の加護》……これで問題ないはずよ」

「なるほど、言いたいことは理解したぞルナイル。ティアがここまで来た理由が分かった」

「さすが、賢しいわね。ワタシの上に乗るだけはある」

「関係ねぇだろ――んじゃ、行くか」


 一言だけツッコミを入れ、次に気合を入れる。


 そして、飛び降りた。


「――死ねッ!」


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