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幕間:最強少女は何を成す

 心が折れてうずくまってた雄一くんを助け、私たちはスタンピードが起きているという場所に向かった。


 本当は伶のところに何が何でも行きたかった。けれど、作戦として采配されたものと言われてしまっては無視するわけにはいかない。


 冒険者である以前に、私は規律を重んじる貴族なのだ。ルールを破ってはいけないと小さい頃から叩き込まれている。


「では、俺たちはこれで失礼します。ダンジョンの中に入っても無駄死にするだけなので、上の雑兵を片付けに」

「分かりました。健闘を祈ります」

「はい!」


 彼らはこの世界での友人。死なれてしまっては後味が悪い。

 彼らのためにも、早く解決してしまいたいものだと思う。


「赤い髪の男を探せ、か」


 伶のところへ行けない原因の主たるもの、それはパーティーだ。

 ヴェインという赤髪と、【撃滅】と呼ばれる魔導具使いがメンバーらしく、集合次第攻略を開始せよとのことだった。


「《|探索《サーチ》》」


 半径5キロメートル圏内の全てを魔力で解析し、魔力の強いものを洗い出す。それだけで、10個まで絞り込めた。さらにその中で人を見つけ出していく。


「……みっけ。《転移》」


 その場所に一瞬で転移すると、そこには予想通り赤い髪の男が立っていた。


「君がヴェインって人かな?」

「あ、あぁ。そうだ。オレがヴェインだ。もしやシルフィアって――」

「私だね。よろしくね、ヴェイン」

「よろしく!」


 ニカッと笑うヴェイン。その笑顔からは、快活な青年といった印象を受ける。


「ところで……もう一人は?」

「あぁ、あそこだ。ずっといたぞ」

「ん?」


 ヴェインの指が示した先には、黒い外套を着た男が立っていた。顔立ちは若いが、年齢的には30代くらいの雰囲気を感じる。


 ……ただ一つおかしいのは、10メートルほど距離が離れているところだ。少しばかり遠いのではないだろうか。しかも来たばかりでもない。


「あー、こんにちは、始めまして……?」

「どうもどうも! シルフィアさんですよね、お噂はかねがね!」


 距離が空いてるのにすごく元気だ。

 なんでなのかな……私には分かりそうもない。人懐っこい性格なら近くに来るのが普通だと思うんだけど。


「影森さーん! もう入っちゃいましょ! 時間なんでー!」

「おー分かった! それじゃふたりとも行きましょう!」

「あっ、はい……」


 ◇


 理由もわからず流れダンジョンに入った。

 摩訶不思議な光景だったが、慣れたもので皆驚きはしなかった。S級とA級だという二人ならば当然の反応か。


 伶につけた“おまじない”がこのダンジョンの別次元にいることを示してる。ということは、既に入っているのだろう。伶はきっと驚いてるんだろうなぁ……ふふっ、どんな反応するのか分かっちゃう気がする。隣で見てたかったなぁ……


「そ、そそそれじゃ、シルフィアさんっ……」

「影森さん無理しないでくれ! あんたの持病はよく知ってる、大丈夫だ」

「ありがとう……」


 影森――【撃滅】のことだ――は、ダンジョンに入ってからずっとこうだ。正確には、物理的に距離が近づいてから。


 顔色は悪く、今にでも嘔吐してしまいそうになっている。戦い方が関係あるのか、怪しげな格好をしているせいで不審者にしか見えない。失礼だけど。


「いきなり大丈夫ですか……? 治癒魔法とかかけれますけど」

「それが、試したんですけど全く効果がなかったんですよ。これから魔力をいっぱい使うので温存しといてください。オレにも影森さんにも多分回復は必要ないですから」

「そうですか……」


 さて、と心の中で呟き、周りを囲っている有象無象まものたちを見る。

 こいつら、私たちの発する魔力に怯えてか、全然近づいてこないのだ。そのくせ息は荒いし臭いしでとても楽しく会話に興じれる状態ではない。


「じゃあ、これ片付けちゃいますね――『魔剣の王が命ずる。万象を斬り伏せよ』」


 虚空から溢れ出てくる数多の魔剣。

 それらが私に平伏するかのように空中で並んだ。


 これらは、魔物を恨み、呪った剣たち。血の海で、屈辱の果てで、復讐を呪った剣たち。


「『舞え』」


 その一言で、剣たちは目覚める。頭を上げる。


 そして――復讐の舞が始まる。


「なんだこれ……剣が勝手に動いて、首を落としていくなんて……!」

「おぉ……」


 私は魔剣の王。


「グギャッ!」


 魔剣を統べ、


「ブモッ――」


 魔剣を使い、


「キキッ!?」


 魔剣を救う者。


「すっげぇ、魔物が一瞬で……だからこのパーティーなのか」

「といいますと?」

「オレは強いスキルを持ってるが、攻撃されなければ効果を発揮しない。影森さんは攻撃できるが、距離がないといけない。となると、シルフィアさんが近距離アタッカーの役割を果たす。やっと理解できた」

「なるほど。私はどんな距離でもどんな役割でもできるので安心してください」

「万能すぎでしょそれは……」


 正直、私も腑に落ちた。距離が近いだけで体調を崩す人がなぜ、と思ったが、私はどうやら魔法を使う剣士の役割を求められていたようだ。


 剣を虚空に収納し、進む先を見て言った。


「それじゃ、塔に向かいましょう――騒動を終わらせるために」


 ◇


 案内役のコルーという機人ゴーレムを、部屋のすみっこに隠れていた影森が対魔狙撃銃アンチモンスタースナイパーライフルと呼ばれる武器を使い、一発で消し飛ばした後。


 丸くて大きな機人ゴーレムと私たちは相対していた。


『戦闘開始』


 人に似た声で呟くと同時に、無数の爆弾が飛んできた。


「じゃ、ここはオレが」

「なるほどね。それじゃあお手並み拝見といこう」


 飛んでくる爆弾。それに向かって大きく両手を広げ、「オレに当てろ!」と叫ぶ。


 ぶつかる瞬間、爆風が辺りを飲み込む。


『理解……不能……』


 機人ゴーレムの身体には、まるで「機人ゴーレムが攻撃された」かのような傷があった。

 自爆のようにも思えるが、間違いなく攻撃はヴェインの身体に当たっている。


『再開』


 次は三本のうねる機械の触手を出してきた。鋭利な刃物のついたそれを回転させながらヴェインに当てる。


 血しぶきが舞うかと思うもしかし、やはり機人ゴーレムの表面に切り刻まれた跡が出来上がり、触手もバラバラに破壊された。


「スキル〈反作用〉……これほどの力とは思ってもなかった」

「だろ? オレもびっくりしたよ」


 肩をすくめてヴェインは言った。

 そんな軽い程度で流していいレベルではないと思うんだけどね……


『再開』


 今度は狙いを変え、狙撃体勢になっている影森さんを狙うらしい。


 触手はもはやない。そのため、爆弾が発射された。


 それに対し、冷静に、瞬時に弾丸を放ち迎撃。空中で全て爆弾は破壊された。

 地面に這いつくばった姿勢でよくもまぁあんなに狙いを変えて撃てるものだ。


「もう終わりにしよっか。《|爆滅《エリミロード》》」


 赤と白の閃光が瞬き、機人ゴーレムは消滅した。

 今度は肉がいらない状態で良かった……



 それからはまぁ、割愛するとしよう。

 距離が離れれば一発で敵の命を奪い、攻撃されれば同じものを返し、あとは全て切るかぶっ壊すかの三人。

 果たして、誰が私達に勝てるのだろうか?



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