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11:暴走迷宮・魔天楼

『攻撃』


 その言葉と共に、俺に向かって鋭利な刃物がついたアームが振り下ろされる。


 まずは剣でいなし――


「ってあれ……?」


 数本の刃物は、この蒼剣に触れた刹那に宙を舞った。この剣の切れ味は健在だったようだ。

 いつも思うが、もはや切れ味というより触れたものを切る能力と言われたほうがしっくりくる。


 武器を失ったアームはすぐさま策を転換したのか、しなる腕のような動きをし始めた。


 そして数秒睨み合い、目にも止まらぬ速度でアームが襲いかかってくる。


「ぐっ……!」


 剣で受け止める。

 今度は力強く拮抗していた。どうやら魔力の障壁を展開しているようだ。高密度の壁はこの剣でも容易くは切れないのか。


 だが、どれほど強い力であっても〈大樹腕〉は必ず受け止める。

 トラックがのしかかるような重みを感じながらも、腕はなんの痛痒も感じていない。それどころか、徐々に押しつつある。


 ……ぶっちゃけ意味不明だ。


「――ッ!」


 ついに押し切り、アームと剣との間に空白ができた。

 それはつまり、戦いの空白とも言える時間。


 その刹那に、俺は地を蹴ってロボットの方へと飛ぶ。


「うおおおおお!!!!!」


 魔力をありったけ流し込み、剣の炎は劫火と変化する。


「斬ッ!」


 青白くなった炎は、蒼穹の如き蒼によく映えている――ロボットを斬り伏せる瞬間、そんな言葉が浮かんでいた。


『損傷……過大……』


 電光が弾け、ロボットの命が尽きることを感じさせる。


 しかし、ただでは死なぬと背中側からミサイルが数十と放たれ、俺を狙う。


 盾が俺の前に動くが、果たしてこれだけの量を防ぎきれるだろうか。


 てか盾が耐えても俺が耐えれる気がしないんだが?


「《|凍領《フロステリ》》!」


 俺を包み込むように、冷気の空間が広がる。

 それはミサイルの動きを次第に鈍らせ、遅々たるものへと変えてしまった。


「《|極楽浄土《スカーヴァティー》》!」


 奏手さんの治癒魔法が皆に届く。

 少しばかり体力を消耗していたのだろう、疲れが微かではあるが取れた感覚を覚えた。


「ガオー!」


 紫電が弾丸のように固まり、襲い来るミサイルを全て迎撃した。ちょうど対処に困っていたところだったのでとても助かった。空気が読める虎のようだ。


「ナイス! さすがだな!」

「ガオッ」


 その鳴き声は「当たり前よ」と言っているようにも聞こえた。


 凛々しく立つ姿は獣の王らしさを感じさせる。さっき女子たちにもふられてたけどね……大型犬くらいなサイズだし。


『――自爆』

「テンプレってか……! ルナイルッ!」

「皆下がって!」


 ロボットの中から、赤い熱が膨れ上がり始める。

 奏手さんが張った結界とルナイルの盾に皆が隠れた瞬間――ドゴオオン!!! と爆発した。


 爆発して欠片になった残骸を見て、胸の中に達成感と寂寥感が渦巻く。


 ぽつり、アルマさんが呟いた。


「……すごいね、伶くん。S級に近い強さの魔物を、こんな素早く倒しちゃうなんて」

「いえ、皆さんのおかげですよ……俺はただ言われたことをやっただけで」

「それができる人がどれだけいると思う? 命を守るために一歩セーブするのが人間なのに、それを蹴り飛ばして戦える――夫以外じゃほとんど見たこと無いよ」


 アルマさんの夫、か……確かスキルを〈反作用〉といったか。全てを跳ね除ける最強の力。それならば確かに一歩を蹴り飛ばすだろう。


 しかし俺がそうとは思わない。少なくとも自覚はない。

 ……え、俺そう見えてる?


「まぁ、生きてるなら問題ないでしょう。奏手さんがきっと治療してくれるでしょうし、ルナイルがいれば怪我すらしない」

「そうだね、その通り。いや、まさか後輩に説教されるなんて思ってなかったや」

「せっ、説教なんてとんでもない……!」

「あははっ、冗談だって! ほら、先に行くよ。まだ始まったばかりなんだから」


 ◇


 そこから先は、あれより強い魔物や機械が出現することはなかった。


 なんというか、一階層進むごとに敵が弱くなっているのだ。


 例えば。

 あのクソ強ロボットのいた二階層から進んだ三階層でも似たようなのと戦った。だが――


「破ッ!」


 という俺の一太刀で終わってしまったのだ。

 少し様子見もしたが、ミサイルなど諸々の質が下がっていた。


 そこから進むにつれ機械が生きた物に置き換わっていき、数十階層で機械が全くない魔物へと変化した。


 正直な感想として、まるで「体験型博物館」にでも来ているかのような感覚だった。


 歴史的な資料を実際に見て戦う――そんな印象を受ける状態だ。日本語がおかしいと思うのは仕方がない。おかしいのはダンジョン側だ。


 アルマさんはやはり知っていたようで、後から気づいたが三階層目から彼女は警戒を最低限にして旅行気分を味わっていたという。


 こちとら色々巻き込まれてきたせいで常在戦場の精神が染み付いてるってのに……! そのせいで精神苦痛耐性がもうLvⅧなんですけど!?


 それに加え……


「この階層もクリアですね! 《|回復《ヒール》》!」

「ど、どうも……」

「いえいえ! これも務め、そう務め、ですから……」

「なんか目がおかしな方を向いてる!?」


 奏手さん、やはりおかしい。

 何がおかしいかって、これはフェチというか、嫌いなもの頑張って食ってるみたいな様子なのだ。


 よくよく見れば、視線をよく自分の右腕にやっている。まるで時計でも確認するかのように。


 だが時計はつけていない。妙に不思議な動きだったが、その時だけ聖女感が消えてやばめのJKオーラに置き換わっていたので話しかけることもできない。


 皆魔力は枯渇しなさそうなので不安はないのだが……なぜかだんだんと強さが募っていく。


「アルマさん……今何階層くらいです?」

「次で五十だよ。……おかしいな、攻略情報は四十八だったのに」


 ……なんか怖いこと言ってるんですけど?


 あの口ぶりからして、このダンジョンは階層が増えているらしい。

 迷宮異変イレギュラーかもしれないなと思うも、普通にスタンピードは迷宮異変イレギュラーの一種だ。もう何がなんだか分からん。


「っと。次はどんな敵なんだろ。ゴブリンとかだと相手にならん」

「ランクもAからDまで下がってるわよね。一番最初に一番強いのをってことなんだろうけど」

「ふたりとも正解。そういうコンセプトなんだってさ、ここ。あくまで推測だけど」

「じゃあ次は何が?」

「この風景――多分、来るよ。“ラスボス”が」


 言われてみれば確かに辺りは奇妙だった。

 近未来から中世に変化していた内装だが、ここは黒い近未来的な部屋だ。構造だけなら最初のものとほぼ変わらない。


 つまり、あのロボットと同じか、それ以上……!


「――っ! 何か来る!」


 刹那。

 目の前に虚空から躍り出たのは――鋭利な爪、大きな翼、黒い鱗を持つ魔物の最強種――「ドラゴン」だった。

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