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幕間:逃亡者の行く末

「くそっ……あいつらのことは絶対に許さぬ……!」


 瓦礫の海に立つ、一人の男が忌々しげに吐き捨てる。

 それは、先程意味不明なスピードで去っていった覚醒者たちに向けてのものだった。拳を強く、血が滲むほどに握り、腹の底から湧き上がる憤怒を抑えているのだ。


「ラヒト様……み、身動きが出来ません……」

「待っておれ。――悪魔、あれを助けてやれ」

「……ギギッ」


 ラヒトが己の影に向かって呼びかけると、小さな悪魔が這い出て、瓦礫に埋まった男を救い出した。


「他に埋まってる者もいるだろう、ついでに助けてやれ」

「……ギッ」


 不満げな表情で了承の意を伝えると、その眼で生存者を捉え迅速に――人外ならではの力技ではあるが――助け出していく。


「魔力は食っただろう、戻れ」

「……」


 もっとよこせ! と声が聞こえてきそうな様子だったが、やるものはないとラヒトはそれを無視し、同胞たちの方に向き直った。


「諸君、我々は失敗した。何が間違いだったのかすら分からずに、だ。しかし、まだ道は残されている。我々に残された総力を持って同盟組織である暴走迷宮ラビリナ・ランページへ向かい、彼女らの計画に参入する。我らの力を合わせれば、より強大かつ恐ろしい勢力と化すだろう!」


 ◇


 それから彼らは毎日宿敵の顔を思い出しながら使える設備を直し、あらゆるものを召喚し、準備を進めていった。無論、上でくたばってたごろつき共を罰として作業に従事させている。そのおかげで準備は早く進み、一週間ほどでやるべきことは完了した。


 ラヒトは二人ほど護衛として仲間を連れ、とある場所に来ていた。


「よくぞ参ったな、魔将の腕、主腕ラヒト殿」

「我々の仲でありましょう、そう固くなさるな、ララ殿」


 ラヒトの目の前で玉座にかけるのは、青い髪の少女。しかし装いは王とは程遠く、科学者らしく白衣を着ている。


「それもそうだな。それで、話とは何か聞かせてもらいたい」

「……実は」


 ラヒトは苦しげに、怒りを込めて震わせた声でララに事の顛末を話し始めた。ただし、相手が――伶たちのこと――悪に聞こえるように、自分たちの大義名分を作り上げる形だ。能力の恐ろしさを強調し、同情を誘いかける。


 この科学者少女は優れた頭脳を持っているが、政や駆け引きは苦手な部類――そうラヒトは分析していたため、これで上手く同盟関係として成り立つと踏んでいたのだ。ゆくゆくは、自分が組織を乗っ取り一つの組織として作り変えようとも。


「なるほど。リナ、ラン、どう思う」


 それに対し、リナと呼ばれた少女は「いいんじゃないかなー? 難しいこと分かんないけど!」と呑気に返答した、


 思わず、ラヒトは見えぬように笑いをこらえた。


 こいつらはやはり馬鹿なのだ。実験しか能が無いただの女なのだ、と。 


 「(まぁ、色気も胸もないからあっちにも興味はないしな――)」


 と最後に付け加えて。


 そして、ランと呼ばれた少女はため息じみた深呼吸をした後に答えた。


「……正直に言えば、反対だ。その男は信用ならない。いつ裏切るか分かったもんじゃないだろう。その気持ちの悪い視線はぞっとする」

「なっ、何を仰るかと言えば。我々は恐るべき敵に立ち向かおうという思い一つでここに立っております。そのようなことはありませぬ」

「ただ。協力することは今の私たちにとっても重要だ。人員はいるが指示を聞くだけの人形みたいな奴らとかばっかなわけだし。数年の付き合いがあるとはいえ、『親しき仲にも礼儀あり』というのを忘れずにいてもらいたい。それで良いかな?」

「えぇ、もちろん。これからも長きに亘るお付き合いをよろしくお願いしたい」


 冷や汗がぶわっと吹き出た。

 このクールぶった女は、刃物のような視線でいつもこちらを睨みつける。毎回心臓が怯えてしまうのも無理はない。


 そんな言い訳と共に、政府に目をつけられていた二つの組織は強固な関係へと変化したのだった。



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