「それじゃあ、次は俺が」
「元気なのは良いことだな、少年。では聞かせてくれ」
――と、俺たちはそれぞれ自己紹介を済ませた。
俺は親父の事に気づかれ期待が上乗せされ、シルフィアは魔力量に戦かれ、ルナイルはタンクなのでみーくんとつっちーに仲間意識された。わりと嬉しそうだった。
ティアに関しては皆に驚かれた。ふーちゃんとかには「シャベッタアアアア!?」と驚かれた。しゃーねぇよ……
「ということで最後、緊張に震えてる少年。長々喋る必要はないから安心してくれ」
「はっ……はい」
彼は工事現場くらい震えた声で返事をし、生まれたての子鹿みたいな揺れ方で立ち上がった。
「は、配信し、しゃの…‥い、イラード、ででです」
「もう大丈夫だ。配信者のイラード。それで構わない」
次の瞬間、真っすぐ垂直に椅子に座りこみ、荒い呼吸を繰り返していた。
……いや今はそんなことどうでもいいんだよ。
「イラード……はほぼ同い年くらいだよな。タメでいいか?」
「なっ……う、うん」
「こうやって喋るのは初めてだなぁ……よくもまぁあんなに配信に写してくれやがったもんで」
「ぬあっ!? ごっごごごめんなさい……」
「まぁいいさ、そのおかげで色々助かったこともあったわけだし。……次からはぜひとも気をつけて欲しいけど」
俺がここにいる原因の半分が目の前にいる。さすがに意味不明だ。まさかここで会うとは――ってあれ。ここにいる=帰宵天結所属ということでは?
神凪さん……もしや黒幕??? 特に夏休みのに関してはさぁ!!!
「おっほん。ではこのモニターを見てください。東京と大阪の支部と繋げます」
すると、3つの画面がモニター上に表示された。
2つは同じような会議室のもので、残りは神凪さんが単独で写っている。
『では、皆さん揃ったようなので、臨時会議を始めましょう。長々とした話はナシです。現在、三代都市圏にある3つのダンジョンにてスタンピード——強化された魔物が大量発生する現象が起こっています。なので、皆さんはそれぞれダンジョンを制圧し、潜伏しているであろう
整理すると、俺たちのミッションは、B級ダンジョン【
で、魔物を制圧して、ついでにテロリストを捕まえるお仕事ってわけだ。
『では諸君、健闘を祈る』
「……ということで、現在時刻は午後2時。30分後までに準備を整え、ダンジョンに突入してください。ギルドでの受付は迷宮管理法において今回は免除されます」
「さて皆、準備はいいか?」
「大丈夫です!」「おっけーい!」「はっ、はい」
「では、攻略を始めるぞ!」
◇
名古屋市の北東に位置する
平和でのどかだった山は、今やダンジョンの存在で一般人の立ち入りが制限される区域になってしまった。
そして、目の前には遺跡のようなものがあり、そこから魔物が無数に湧き出ている。しかもゴブリンキングばっかりだ。さすがにやばい。
「特殊部隊が使ってそうな車に乗るなんて経験、人生で二度とないだろうな……」
少し幼いような顔立ちのほーくんはどうやら運転ができるようで、クラン所有のゴツい車を使ってここまでやってきた。
彼はおとなしめの性格かと思っていたが、ハンドルを握ったら性格が変わるタイプのようで、名古屋走りをしっかり見せつけてくれた。おかげで早く到着したが、恐怖を散々味わうことになった。ちくせう。
「もうここまで魔物が出てきてるなんて予想外。皆、頑張ろう!」
つっちーがそう叫ぶと同時に、3体のゴブリンキングが地面から出現した土の槍によって串刺しにされた。
「《|闇呑《あんどん》》」
やーみんが呟くと、胸元に出現した黒い玉に1体呑み込まれた。
「私も頑張らないとねっ。【
シルフィアが深緑色の剣を取り出し、素早く駆け出していく。
「……〈
イラードくんは……まぁ、この影の薄さは確かに気づかんわ俺、って思った。
「じゃっ、俺も行きますか――!」
俺は〈天空眼〉と〈獣神脚〉の二つを起動し、ゴブリンキングを目掛けて走り出した。
「破ッ!」
意味不明な速度で視界が流れ、剣を横に構えているだけで首が切れていく。
木々に足をつき、3次元的な挙動で縦横無尽に空中を跳躍――今まででは絶対に出来なかった戦い方だ。このスキルの有用性は本当にとんでもない。
だが、一匹だけ静観に徹していた個体がいた。
そいつを切ろうとしたとき、武器が振り上げられるのが見えた。
「ルナイルっ!」
「あいよっ!」
瞬間、俺の眼前に盾が現れた。しかも、俺にぶつかることはなく、ぴったり一定の距離を保っている。
これこそ、ルナイルの〈
そう、つまり――
「っ!?」
振り下ろされた斧は小気味よい音と共に弾かれ、がら空きの首に目掛けて剣を当てる。
そして着地し、血振りを一つ。
「ふぅ……ざっと10体くらいか。俺も成長したなぁ」
「レイ、強くなりすぎじゃない!? あたしと
「そうかなぁ……まぁそうなんだろうなぁ……実感ないわぁ」
「無自覚って怖いわね……」
一息ついて辺りを見回すと、それぞれ倒し終えていた。
死体が少ないように思えるのは、どこぞの配信者と根暗少女のせいだろう。あとひかるんも消滅系の魔法使ってたのでこいつも。
「頭だけ綺麗に焼かれてたり、泡吹いてたり、串刺しにされてたり、首が飛んでる……のはめっちゃあるか。ともかくとんでもねぇなぁ」
「伶、お疲れさまっ」
「シルフィア。さすがだな」
「えへへ、ありがと」
「ちょっと、ワタシはどうなのよ!?」
「ティアとか早すぎて目で追うの結構辛いんだぞ? ま、頑張ってたのは見えてる」
「よしっ!」
なぜ俺は褒める役を任されているのだろうか。俺の頭では残念ながら理解できない。
「皆、倒し終えたようだな。それでは――入ろうか、【
「まだ前哨戦、か……」
遺跡の中に入ると、ぽつんと転移魔法陣があった。
そこに入った瞬間、飛び込んできた景色は――
「なんだ、これ……」
「これこそ、【
外周には絶対に越えられなさそうな高さの壁がある。
前方には森が広がっており、その向こうには城塞都市が見える。
更に遠く、このダンジョンの中心には外周の壁くらい大きな城がそびえ立っている。
「さぁ――攻略開始だ」