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5:アテンションプリーズ!

 なんの変哲もない、11月始めのとある日。

 俺は友達と一緒に弁当を食べていた。


「くっそ、マジでいいの出ない!」

「レア一個もなしかよ、おもろ」


 最近リリースされたゲームのガチャで爆死しているのを横目に、笑いながらおかずをつまんでいた。


 ――異変が起こったのはその時だった。


「あれ、スマホ動かなくなった」

「バグか? ……うわボタン反応しないやんやばっ」

「貸してみ……ガチやんけ」


 俺も触らせてもらったが、全く反応がない。少しバグった画面のままだ。


「んじゃ、俺が横でガチャ引いちゃうにょ~ん」

「うっざ……! マジ良いの出したら許さんぞ」

「へっ! ここで一番良いの出すわ! ……って、俺もバグった」

「ざまぁ!!!」


 この高校、実はスマホ禁止なのだ。

 だから、クラス中でもスマホがバグったという声が聞こえ始めるのは本来おかしいことなはずなんだがな。 


『――さて、日本に住む諸君アテンションプリーズ。我々は、これより世界に向けて犯行声明を出す!』


 突如、スマホから流れてきた、若い女の音声。

 数十のスマホから聞こえるせいで、声が重なっている。


『まずは自己紹介をさせていただこう。私は暴走迷宮ラビリナ・ランページの代表を務めるララだ。ララちゃんって呼んでくれてもいいんだぞっ?』

「いきなりかわいこぶるなよ……」「何言ってるんだこいつ」


 スマホの画面には、見覚えのある紋章が表示されていた。


 ――まさか、ここであの総理おっさんが言ってた組織が堂々登場してくるとはな。


 俺はえも言われぬ緊張と高揚に胸を高鳴らせながら、次の言葉を待った。


『我々は国内外問わず実験を繰り返し、改良し、ついにとある物を完成させることができた。その効果は――ダンジョンの強化! 簡単に言えば、生成される魔物を強化すること。効力は絶大で、ランクを引き上げることができるほどだ!』


 この言葉に、配信者のファンや探索者に詳しい奴らがどよめいた。


「ランクを上げるって……とんでもないことじゃねぇか?」

「そうだな。そんなことができるならD級やC級は無能な肉壁になってしまう」

「さすがに不味いな、それは」


 ただまぁ、俺はシルフィアのおかげとはいえ同じ事態を一度攻略済み。なんとかなるような気がしてきた。

 でも、C級とかは死活問題だろうな。太刀打ちできなくなるのは収入がなくなるも同然。特に俺みたく探索で稼ぐ側は。


『これより三大都市圏にあるダンジョンで、完成品のお披露目を兼ねて迷宮の暴走――スタンピードを起こす。さぁ、探索者諸君。無限に湧き出る魔物の中で地獄を味わうがいい! はーはっはっは!』


 ……これはとんでもないことになった。もしかすると、日本存亡の危機かもしれない。

 魔物がダンジョンから出てこれば、もちろん市街地に来る。最終防衛ラインは臨界ギルド。そこが潰滅すればあとは一般市民を背に戦うという最悪な状況になってしまうのだ。もしそれを超えられたら……ゾッとする。


『いやー疲れたなぁ! さっすが私、大仕事もかっこよく決めちゃうねぇ!』

『実験オタクの集まりなのにあんなかっこつけれるなんて、さっすがリーダー! サイコーじゃーん!』

『あーはいはい。そりゃ良かった。あとこれまだ電波切れてないよ』

『ちょっ、先言ってよ! もう――』


 前言撤回。日本の危機ではなさそう。

 聞こえてきたのは全員少女の声。ただの仲良し理系女子リケジョグループか何かだった。リーダーと、ギャルと、クール。個性もバッチリだ。


「……ほんと、今のなんだったんだ」


 もう大丈夫かと思い、俺もスマホを取り出す。

 そこには、探索者の知り合いからの連絡が無数に入っていた。しかも、内容は全部「今すぐクランに来い」というものだった。


「どうすりゃいいんだこれ……」


 学校を抜け出すなんてことはかなり苦しい。言い訳を考えるのも辛い。


『全校生徒に連絡。本日は臨時休校とし、ダンジョンの近くに住んでいる生徒は学校に待機、他の生徒は自由下校とします。待機指定地域は――』

「え、マジかよ!」

「よっしゃぁ!」

「うっわ俺待機かよ……」

「早く帰れるなんてラッキー!」


 クラスが一喜一憂に染まる。

 そして、これは俺にとっても千載一遇のチャンス!


「お前らじゃあな、俺はちょっと急いで帰りたいから」

「伶早すぎだろ帰宅部かよっ」

「じゃあなー」


 一瞬で用意を済ませ、階段を駆け下り、外に出た瞬間〈獣神脚〉と〈天空眼〉を使う。


 俺の足が獣に化けると、軽くなった身体は視界を塗り替えた。強化された視力ははっきりと世界を映す。


「ははっ、最高だなこれ!」


 陸上の世界記録をぶっちぎりで上回るようなスピードで名古屋の街を駆け抜ける。

 数分後、数キロを走破して自宅に到着した俺は、二人と一匹に事情を説明。用意を整え、クランへと向かった。


 ◇


「うっわ、人めっちゃいるじゃん……」


 クランやギルドは、有事の際の避難所としても扱われる。

 そのためか、探索者だけでなく一般市民もたくさん集まっていた。避難所的なスペースはここではないはずだが……本当にとんでもないな。


「おー! 伶さん! やっと来てくれましたか!」

「雄一さん! こっちは学生ですよ!? たまたま休校になってくれたのでなんとかなったけど……」

「ご苦労さまです……それじゃあ、皆さんこっちに来てください。クラマスは東京にいますが、他のパーティーは集まってます」


 エレベーターである程度の高さまで上がり、到着したのは会議室だった。既に中には人が10人近く座っている。


「それでは俺はこれで。ただの案内役なのですぐに避難誘導に戻らないといけないんです」


 こうして、俺の知り合いは後ろにいる仲間たちだけになってしまった。あぁ、緊張で胃が痛い……こんなことになるはずはなかったのに!


「朝宮さん、ですね。お噂はかねがね。皆様のこともマスターより聞いております。さぁ、空いている席にどうぞ」


 一番向こう側にいるスーツを着た秘書のような女性が声をかけてきた。指示の通りに空いてるところを探すと、ぴったり4つだけ空いていたので、そこに座ることにした。


 少し見回すと、魔法師らしき出で立ちの男女が6人と、怪しげなフードを被った暗い少年が1人――前者は見覚えがないが、後者はどこかで見た気がする――そして秘書がいる。


「まずは自己紹介を。私はクラン名古屋支部専属秘書の高橋悠紀たかはしゆきと申します。以後お見知り置きを」


 高橋さんは綺麗に一礼すると、視線を魔法師組に向けた。


「おーけー、分かったよ悠紀さん。俺たちは帰宵天結の四天王の一つ、急流だ。ちなみに俺は水属性魔法を使う。不本意だが、こいつらからは『みーくん』と呼ばれている。適当に呼んでくれ」


 内容だけ見れば可愛い少年のものに見えるが、実際はめちゃ低い声の筋肉男だ。人は見かけによらないなぁ……と思わざるをえない。


「んで、順に風、炎、土、闇、光だ。察してくれると思うが―」

「はいはーい! 風のふーちゃんだよ!」

「炎のほーくん、です」

「つっちーよ。よろしくね」

「やーみん」

「ひかるんっす」


 みーくんから順に、男女男女女男――綺麗に3対3だ。

 にしても、こ、個性が……強すぎやしないか??

 あとネーミングセンスが終わりやがっている!! いやわかりやすいんだけどさ……

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