「……てか、僕がここに来たの喧嘩するためじゃないんだけど?」
「でしょうねぇ! ほら、早く本題を話してくれ」
「ちっ!」
「本当に大人かお前は!?」
どうも、総理大臣に説教をぶちかましてる高校1年生こと朝宮です。
いやぁ、今日も平和ですね。元S級探索者の経歴を持つネット民宰相がわざわざやってくるとは平和そのもの。核爆弾と話すのたのしー!
はぁ……疲れた。帰りたい。
「君たちは今日、どんな依頼を受けていたか。思い出してみて」
「裏組織の潰滅……だな」
「その依頼を出したのは?」
「ダンジョン庁――まさか」
パチン、と指を鳴らし、ドヤ顔を決める総理。
「その通り。僕の権限で君たちに依頼を出させてもらったんだよ。結果は見事な破壊っぷり。いやー痛快だったねぇ!」
「まるで見てたみたいな言い方してるなぁ……?」
「ん、もちろん。総理だしそんくらいできるよ」
「できねぇよ! 何、もしかして陰謀論!?」
「陰謀論はやる側が言うもんじゃないだろ!」
「そうだけどさぁ!」
マジで話が進まねぇ!!!
なんだこのめんどくせぇ男! 本当に支持率90%かよ!?
「分かった、ちゃんと話をする。だからその『めんどくせぇな』みたいな目をやめてくれ」
「自分で理解してるじゃん……」
おっほん、とわざとらしく咳払いをし、総理は続けた。
「最近、とても危険な組織が水面下で暗躍している。その名を――
聞き覚えのない言葉と共に、一枚の紙とペンをどこからか取り出した。
そして、そこにいくつかの図形が組み合わさったような紋章を描く。
「この組織はどうやらダンジョンの中で怪しげな実験をしている集団らしい。数々の探索者が報告を上げてきたが、逃げる術は達者なのか曖昧な証言ばかりで中々尻尾を掴めない。だから、依頼、とまではいかないが、もし見つけ次第捕縛に動いて欲しい」
おかしいな、俺はダンジョンの探索をしてたはずなんだが。
いつの間に俺は公安になったんだろうか。
……なんてね。探索者はダンジョン探索以外にも治安維持活動や便利屋的な依頼を受けることがある。今まで見向きもしていなかったが、ギルドには異世界ギルドっぽくそういうのもあったのだ。
俺はそういうの面倒でやってこなかったけどね……敵と戦うほうが楽に感じる。あと美味い肉が食える。それだけで理由は充分だ。
「その時には報酬として500万円を払おう。あ、今回の報酬は200万ね。もうカード口座に入ってるから」
「!?」
どうしよう、もう探索者引退しようかな。一生分稼いでる気がする……
「れーいー? 探索者辞めたそうな顔してるね?」
「なっ、心を読まれたっ!?」
「ダメだよ、そんなことしちゃ。ねぇ、私ともっと冒険しよっ?」
「もちろんですううう!」
あぁ、俺の平穏な生活よさらば。
美少女のお願いボイスによって理性は陥落した。今までありがとう……
「……ちっ、ラブコメ主人公しやがって」
「黙れおっさん! 若いからまだなんとかなるやろ! てか妻帯者じゃん!」
「バレたか……ってことで、僕は大地からお茶会誘われてるんで行ってくるわ」
「大地……って誰だっけ」
「そういやあいつ、いつも神凪で通してたもんなぁ……」
そういえばそうだった。
基本名乗るときは名字だけらしく、親しい人だけが名前で呼ぶ、とネットで見た覚えがある。
「それじゃ、皆元気でなっ」
――そう言って、カッコつけたまま姿が掻き消えた。多分転移の魔法だろう。さすが化け物……
◇
「ただいまー」
「おかえりなさい、お兄ちゃん!」
リビングから聞こえてきた日向の声。
あぁ、家に帰ってきたって感じがする。非日常から、やっと帰ってこられたんだ……
「ここがレイの家、なのね……ワタシが住んでた家とは全く違うわ」
「ティア、それって木の枝と藁で作っただけのやつでしょ? それとこれは別物だよ……」
素晴らしい。俺の真後ろに非日常が闊歩してる。
美少女たちだけならまだしも、ついには九尾の虎が出てきてしまった。対戦ありがとうございました。非日常どころか非現実です。
そこに、トタトタやってきた日向が登場する。
「お、お兄ちゃん、ペットは相談してくれないと困るよ……!」
「残念ながらこれペットじゃないんだよね……ほら、挨拶して」
「は、始めまして。ティア・ヒルドールヴよ」
「しゃべったああああああああ!?」
「日向が壊れた!?」
まるでスポンジ男が喋ったときの反応!
これを治す方法募集してます!
「あー、シルフィア、精神を治す魔法を……」
「ついに使う羽目になっちゃったか……《|精神安定《マインドピース》》」
すると、日向はスッーっと沈静化していき、十秒後には深呼吸をしていた。
魔法ってほんとすごい。病んだら使いたい。
「な、なんとか冷静になれた……ありがとお兄ちゃん……」
「日向の反応が正常だからね、仕方ないね……」
と、壊れた後遺症で呆然としている日向をリビングに置いて俺たちは部屋に、そして門に帰った。
「ここ、すっごく過ごしやすそう……!」
「あぁ、だんだん寒くなってきたってのにここは快適で最高だな!」
夏の時と変わらず、門の中はぽっかぽかの春だ。花粉がない春とかいう世界に存在しないがしかし最高の季節がここにある。春はもうここに引きこもりたい。
花粉全部ダメなんだよ俺……3月から5月までしっかりアウト。たまに死にたくなる。
「それじゃあ、不肖朝宮伶、ティア様にここを紹介してしんぜよう」
「い、いきなりどうしたのよ……でもまぁ、お願いするわ」
この門の世界は、まず木造の洋風一軒家――開放的なログハウス――に繋がる。ちょうど玄関を開けたような感じだ。
そして、リビングの先に大きな庭が広がっている。というか、外だ。あとは麗らかな自然が存在している。
川があったり、山があったり、森があったり――そこまで規模が大きいわけではないが、遊んだりするには事足りるくらいだ。
無論、それも限界がある。過去にこの世界の端っこにも行ったことがあるが、結界があるのみの寂しい風景だった。意外と遠かったので多分二度と行かない。
太陽も固定で、風はたまに吹くくらい。地形は数時間で勝手に修復。
まさに、理想の世界だ。
「……と、こんな感じだな。ここにティアも住んでいい、というか住んでくれ」
「えぇ……! もちろん! ここはあの村より平穏そうで少し退屈かもだけど、そういうときはシルフィア、遊び相手になってちょうだいね!」
「いいよ、相手になったげる。私を倒せると思わないでよね?」
「ふふっ、望むところよ……!」
――こうして、二人の仲も、数秒後に出来上がったクレーターも深まったのでした。おしまい。
いやぁ、化け物同士の戦いは見ごたえあったなぁ……と白目になったのは言うまでもないね、うん。