興奮した様子で言い放った男。
それを称賛するかの如く、他のメンバーは拍手を送った。
それと同時に、この場所全体が振動し始める。
「な、何が起こってる?」
その原因はすぐさま現れた。
どこからか、戦車や武器を持った人形ロボット、魔物などがやってきたのだ。
「見よ! そこにいるのは、我々が召喚した存在だ! そこにいる同志たる彼女の力を甘く見るな! そうだ! 先ほど貴様のスキルを見破ったのも、彼女が召喚した魔導具の力によるものだ!」
視線を受けた一人の女性が、仰々しく喜ぶような仕草をした。
あれが「彼女」と呼ばれる存在なのだろう。
「聞け、そして覚えよ! 我々には何があるか! 力だ! 仲間だ! そして――ここに広がる揺るぎない設備だ!!」
熱烈な演説はこれだけでは止まらず、更にヒートアップする。
「だが、それだけではない! 今、この手にある魔導具――『
「おいおい勝手すぎるだろ……!?」
「
その手に掲げられた歪な槍は、その大きな声と共に極彩色の煌めきを放ち始めた。
「魔将の腕、
先端を地面に向け、両手で握った柄を思い切り床に刺す。
刹那、視界を塗りつぶすほどの閃光が放たれる。魔力が空間いっぱいに広がるのを感じる。
「さぁ少年よ。とくと見るがいい――〈
かつて見たような魔法陣が現れ、出てきたのは漆黒の体躯に二本の角、手から生える鋭利な爪を持つ――言うなれば「悪魔」だった。
「なるほど、
「A級ってやばいだろ!? ちょっ、俺勝てる気しないんだけど?」
「伶なら大丈夫だよ。特に今は召喚を強化する魔法がかかってるし。つよつよなのが出せちゃうんじゃない?」
「くっ……〈召喚〉ッ!」
ギギギ、と下卑た声で笑う悪魔の前に、魔法陣が現れる。
そして現れたのは――
「なんなのこの光! もう、せっかくワタシの婚約者を倒せるところだったのに!」
赤い毛並み、九本の尾、そして、可憐な声。
思っていたのと声以外全部違うそれは、なんと形容すれば良いのか分からなかった。
「おぉ、さすが伶。まさか
あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!
俺は美少女しか召喚できない召喚スキルを使ったらと思ったらかっこいい虎が出てきたんだ……
な……何を言ってるのかわからねーと思うが俺も何がどうなってるのか分からなかった……
と、おふざけはこれくらいにしてだな。
目の前にいるのは
「そ、それは何だ……?」
「簡単に言えば、獣神に最も近い存在。獣の神の下に存在する三種族の王のうちの一つだよ。そこの悪魔なんかよりよっぽど強いよ?」
「何が起こってるかわかんないけど……ワタシを舐めてもらっちゃ困るわね! 見てなさいそこの弱そうな男! すぐに悪魔をぶっ潰したげるから! ワタシを召喚できたことを光栄に思いなさい!」
初対面の虎少女(?)あるいは少女虎(?)に弱そうと目を見て言われた男、どうも朝宮です。否定できなくて悔しいです。A級の魔物より強いお方にとってB級は弱いですよね……トホホ……よよよ……
「ギッ、さすがにこれまずい……!」
「うるさいわね! 《|迅疾雷爪《ライデンクロー》》!」
普通に言葉を喋りやがった悪魔に対し、〈天空眼〉ですら微かに反応できるスピードで襲いかかる
「《魔壁《マナウォール》》――ッ!?」
「そんな薄っぺらい壁で防げるとでも? 《|迅疾雷牙《ライデンファング》》!」
空中を自由自在に飛ぶ悪魔が障壁を張った。
それに一瞬で追いつき、紫電の牙で破壊する。
互いに空中を飛んでいる光景は、さすがに現実離れしすぎている。どこの野菜人の戦いでしょうか。俺にはさっぱりです。
「《|闇極弾幕《ダーカーバレッズ》》ッ!!」
「《|轟雷雨林《エレクゾーン》》!」
悪魔の広げた翼から無数の闇色の弾丸が、
しかし、それも長くは続かなかった。
「ギギ……ここは一時撤退せねば……《転移》」
「待ちなさい! ……って、もういなくなってるし。中級ごときのくせにぃ!」
一瞬で消え去った悪魔のいた場所を睨みつけ、「キー!」という声が聞こえてきそうな悔しがり方をしている。
「……あれ、召喚したやつどっかいっちゃったけど大丈夫なのか、これ」
「そ、総員攻撃ぃ!」
「卑怯すぎだろ!?」
「魔法は使えないが物理は有効だからなぁ! 三人と一匹程度どうにでもなるわぁ!」
狂乱という言葉が似合う笑みを浮かべ、ラヒトは指示を出す。
それに合わせ、周りのメンバーや過去の召喚物が動き出し、俺たちに襲いかかる。
「くっ……!」
俺は剣を抜き、臨戦態勢に入る。それと同時に〈獣神脚〉も起動する。
「ルナイル、盾を!」
「もちろん!」
攻撃と防御、二つあればある程度なんとかなるだろう。
そしてシルフィアはというと――
「魔法が使えない? いやぁ、私も舐められたものだよね。確かに鑑定は無効化しちゃったけどさぁ……にしてもこう、分かったりしないかな、そのご自慢の魔導具でさ」
あ、あれ。これはなんかやばい。夏休みの聖剣事件に近いものを感じる。
「えっと、ルナイル。盾はそのままに距離を取ろう。特にシルフィアから」
「あー、うん。そうね。そうする」
抜き足差し足忍び足……と少しずつ距離を取る。
「大切な伶にかっこいいとこ見せたいし、君たちには犠牲になってもらうよ! いつもは【千魔剣戟】って呼ばれる私だけどさ、聖教会では【
刹那。
シルフィアから放たれるオーラが変わった。
始めて会ったときに感じたものとは全く別物の――全てを打ち倒す魔神のような雰囲気。
「〈存在昇華〉、〈英雄威光〉――」
威圧感が、一気に変化する。
もはや、目の前にいるのは人間ではないようにすら思えた。化け物じみた、神を超越する何かのように。
パリパリ、と何かが割れる音がする。
俺の眼は、この空間に張られた魔法が砕けていくのを見た。
シルフィアはまだ魔法を使っていない。ただ本気の欠片を出しただけで、魔法が自ら膝を折ったのだ。
「《|退《ど》け》」
たった一言。たった二文字。
それだけで、襲いかかってきた全てが吹っ飛んだ。
「す、すごい……」
気づかぬうちに、そんな言葉が漏れ出ていた。
「さて、伶。私のかっこいいとこ見てくれた?」
ピースを決めながらこっちを見て微笑むシルフィア。
「もちろん。しかと見届けたよ」
「えへへっ、ありがとっ」
にこにこ笑うシルフィアは最強美少女として崇めたいくらい可愛いのだが、それ以上に視線を釘付けにするものが背後にあった。
「ところでシルフィアさんや、後ろにあったおっきな柱がもれなく消滅しているのはなぁぜなぁぜ?」
「……あっ」
ガラガラ……と今にも崩れそうな、というか崩れる音がそこら中で鳴り響いている。
「よしお前ら逃げるぞおおおおお!!!!! シルフィア、ルナイルを連れてってあげてくれ!
あーもう!!!
どうしていつもこの白髪最強美少女S級冒険者はポンコツなんだよおおおお!!!!!!!!!!