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2:シルフィア、つっよw

 目の前には武器を持ってたり持ってなかったりする厳つい男が数十人。


 対してこちらは俺と美少女二人。


 一見すると俺たちのほうが圧倒的に不利に見えるだろう。俺もそう思う。

 だが、シルフィアの余裕そうな表情を見ると、どうせ杞憂なんだろうなって気がしてくる。不思議だね。


「おいクソガキども! 今更ビビっても遅い。逃げられると思うなよ!」

「俺たち魔将の腕に喧嘩を売ったこと、後悔させてやらぁ!」

「へっ、バカなガキだぜ。こんなところで死ぬなんて可愛そうになぁ!」


 ガヤガヤと、好き勝手言い始める男たち。普通に声量大きいから鼓膜が痛い。しかも最近俺イヤホンのせいで耳悪くなってるけど余裕で聞こえるので一層静かにしてもらいたい。


 その時、シルフィアが虚空から一振りの剣を取り出した。不自然なほどに真っ白なその剣は、シルフィアの白い髪によく似合っていた。


「ねぇ、君たち。何か勘違いしてるようだけどさ」


 切っ先をゆっくり男たちに向け、続ける。


「私たちはピンチなんじゃなく、君たちが来るのを待ってただけなんだよ? というか、こっちには政府からの許可があるし」

「……おいおい、ピンチじゃないとか政府の許可とか……あの女、ついに頭おかしくなっちまったのか?」

「「ちげぇねぇ!」」


 がっはっは、という再び笑い声と共に騒ぎ始める男たち。


 はぁ、とため息をついた異世界のS級冒険者は不満げな顔で。


「“失睡呪しっすいじゅ”」


 その両目を妖しく輝かせながら呟く。


 瞬間、音が世界から消えた――否、男たちが全員倒れていた。

 魂を抜かれたかのように、いきなり気を失っていたのだ。


「……じゃ、先に進もっか。こいつらはあっちの方から来たし、伶、進化したスキルのお披露目お願いね」

「おいおいシルフィアさんや、今のに説明は無しですかい?」

「そう言えば見せてなかったね、これ。〈万魔眼〉の能力は人のステータスを見れるだけじゃないんだよ? こんな風に、森羅万象を呪うことだってできるんだから」

「の、呪うってマジですか……」

「さすがシルフィア、おっかないわねぇ」


 ……なんだか怖くなってきたので、命じられたようにまだほとんど使っていなかった〈天空眼〉を使う。


「おぉ……!」


 すごい。建物の構造が丸わかりだ。拡張現実ARみたいな感じで全て見える。

 それに加え、男たちの上にそれぞれの体力と魔力が――つまりはステータスが見える。さすがにスキルは分からないが、それが分かるだけでもとんでもない。


「おぉ! これすごいぞシルフィア!」


 顔を向けると、シルフィアの体力と魔力が見えた。

 そこには、


 体力:99/99%

 魔力:98/99%


 という、不可思議なものがあった。

 普通ならばどちらも最大値は100%のはず。


「……伶? どうしたの?」

「い、いや……その、俺もステータスが見れてさ……」

「あぁ、そのことね」

「え、またあたし蚊帳の外?」

「ルルちゃん安心して、さすがにここで話すには長い話だからさ」


 どうやらお預けらしい。

 こればかりは仕方ない。敵地でプライベートな話を聞くのはいささか不躾だった。


「……あっちに何か見えた。行ってみよう」

「分かった。着いていくよ」

「同じくっ!」


 胸にしこりを残すような気まずさから目を逸らし、俺たちは先へと進んだ。


 ◇


 壁の中に巧妙に隠された仕掛けも、この眼の前には無力だった。

 壁を破壊して突き進み、たどり着いたのは地下へと続く階段。微かに灯る蛍光灯を横目に、ひたすら下へと降りていく。


「ここが最下層かな。ずいぶんと下に来たね」

「地下10階くらいあるぞこれ……とんでもねぇな」

「こんだけ地下にあるってことは、ここにあるものはとんでもないって証よねっ!」

「そうだろうな……マジで怖い」


 この空間にあるのは上に登る階段と、鉄製の扉だけ。


 深呼吸をし、意を決して扉に手をかけ、開く。


 ――そこには、広い空間があった。

 ダークオークを基調とし、高い柱と、そこにつけられた松明が等間隔で並んでいる。

 奥の方には巨大な魔法陣があり、そこに怪しい格好をした人間が数人が並んでこちらを睥睨へいげいしている。

 言うなれば、洋風の儀式場といったところか。


「よくここまで辿り着いたな、少年」

「どうやら我々を甘く見ているようだが」

「まだ我らの本髄を見ていないだけだ」

「決して侮ることなかれ」

「魔将の腕の恐ろしさを」

「その身に刻むが良い」


 す、すごい……! 

 こんなにも厨二病が喜びそうな組織、実在したんだ……!

 一人ひとりが決められたセリフを読む姿――そのための練習風景が浮かんできて自然と破顔してしまう。


「……お、おい貴様、なぜ笑っている!」

「い、いや……な、なんでもないって……くすっ」

「今絶対笑ったよなぁ!?」


 真ん中に立つリーダー格と思しき男が怒鳴ってくる。

 すぐに感情的になるくらいなら最初から格好つけなければいいのにね……ずっとあの神妙な感じを大事にしてほしかった。


「まぁよい。貴様が笑っていられるのも今のうちだ。聞いて驚くが良い――貴様のスキルは〈召喚〉。そうだろう?」

「……っ、どうしてそれを?」


 まさか初対面の人間にスキルを言い当てられるとは思っていなかった。大半の人には言っていないはずなのにっ……!


「伶、ちょっと耳貸して」

「なんでしょう」

「さっきの襲撃のとき、魔導具を使われてたんだよ。スキルを覗き見る感じのね。すぐに気づいたから魔眼でついでに壊しておいたよ。だから他のは見られてない。安心して」

「さすがシルフィアさん優秀でございます……」


 普通魔導具なんてついでで壊せるもんじゃないと思うんですけどねぇ……だって「遠隔で発動された魔法に気づく」「その上で場所を特定し破壊する」って工程が必要なわけで。

 普通の人間にはどっちも無理です。間違いない。


「どうだ、スキルを言い当てられた気分は。しかし安心しろ、〈召喚〉を持つ者を我々は歓迎している。なにせ、ここにいるのは全員〈召喚〉を持つ者だからだ」

「全員、だと……?」

「あぁ。スキルの名前に多少の差異はあれど、召喚という言葉が入る。無論、効果も一人ひとり違う」


 ……ついに、俺以外の〈召喚〉持ちに出会ってしまった。


 しかも「敵対」という最悪な形で。


「俺にそこまで言うってことは、何か言いたいことがあるんだろ? 聞いてやるよ」


 ふっ、と鼻で笑う音が聞こえた。

 そしてリーダーは言う。


「あぁ、もちろんだ。我ら魔将の腕を代表し、私は――貴様に〈召喚〉による決闘を申し込む!」



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