この世界は、三層から成り立っています。
一層目は、今は眠りについてしまった創造神とそれを護る創造神が創り出した神々が住む
この世界に現れた創造神が最初に創り出したのは、自分と、これから産む神々が住む聖光陽だったのでした。
それから、神々を続けて産みます。闇の男神と、光の女神。火の女神と、水の女神。花の男神と、樹木の女神。氷の男神と、風の女神。そうして最後に大地の男神が産まれました。
創造神が「最初に何を創るか?」と光の女神に問うと、「神を敬う人間を創りたい」と答えました。「ならば、神を敬う人間の信仰心を試す魔物を創りたい」と、闇の男神も続けて創造神に申し出ました。創造神は、それを許しました。
二人の神は、言葉通りにそれぞれに人間と魔物を作り出しました。その後人間と魔物は、神々たちと共に生活を始めるのです。
だが他の神々は、尊い神と神に作られた人や魔物が一緒に暮らすのはおかしい、と創造神に
中の地で新たに生活を始めた人間達は自由に生きることを悟り、創意工夫をしながら暮らし始めるのです。しかしそれを気に食わない魔物たちは人間たちを惑わし、悪事に走らせるように仕向けました。
だが神を敬い生きる意味を知った人間達は、魔物と戦いながらも毎日を生きます。そんな中、九人の神が人間に試練を与えました。
神々が与えたとても厳しいその試練を耐え抜いた九つの一族の
すると人間の王が間違いを起こさない様、九人の神は王を補佐する使い手と呼ばれる精霊をそれぞれに創り出しました。
使い手達は、三つの位が与えられたのです。使い手達は、人間の世話とそして神々との繋がりを
闇の男神は、光の女神が生み出した人間ばかりが繁栄するのが面白くないと、新たに人間に厄災を与える魔獣を創り出しました。それらを率いて、人間達を滅ぼそうと光の女神に戦いを挑んだのです。
闇の男神に付いたのは、氷の男神と、樹木の女神と、水の女神でした。
光の女神には、火の女神と、花の男神と、風の女神と、大地の男神が助太刀に入りました。彼らに助けられて、光の女神は闇の男神に応戦をしました。
戦いは長く長く続き、お互いが疲労していました。神々たちが力を使い果たす寸前、それまで静かに見ていた創造神が「戦いを終えよ」と、光の女神と闇の男神を深い眠りにつかせました。
他の神々は創造神からの戦いの終焉を受け入れて、世界はかつての静けさを取り戻しまた。もう神々で争いはしない、と約束をしたのです。
しかしたくさんの神を産み、三つの世界を作り創造神は大変力を使いました。更に光と闇の神を眠らせる為に、創造神は残りの神通力を使い果たしてしまったのです。そうして、創造神は力を復活させるために、同じく眠りにつきました。
その後他の神々は、いつ目覚めるか分からない三神を護り、聖光陽で暮らしているのです。
長々と語られる中の地の神話。小さな頃から大人達に聞かされた話で、年の始まりには各地の村で、必ず
子供は十五になればその国の成人の儀式を受けて、自分を守護する神と適した武器を授けて貰う。そして、その子に合った性別を決める。十五になるまで、子供は白い髪と瞳で無性別なのだ。自分でそれらを選び決める事はできず、儀式を受けなければ決められないそれに、琥珀はずっと憧れていた。毎年指折り自分の歳を数えて、年が明けた日は、儀式を終えて帰ってきた年長者をうらやましげに眺めていた。
瞬湊村で成人の儀式を受けるのは、今年は三人。琥珀と
翠玉は勇敢で勝気な性格だが、九つの時に村に現れた魔獣に遭遇してしまった時に両親が殺された。それからは家族を失った悲しみで毎日泣き暮らして、しばらく別人のように静かな子になった。だが琥珀の親が身寄りのない翠玉を引き取り二人を兄弟のように育てると家族の温かさを思い出したのか、元の元気な翠玉に戻った。物腰の落ち着いた藍玉は琥珀と翠玉をまとめる役で、三人は常に一緒にいる事が当たり前の様に感じていた。
緊張気味の三人は長老と村長に連れられて、普段村人は足を踏み入れない静かな東の森に向かう。風の女神が守護する国だからか、風の加護を受ける者が多い。
昔からよく三人で、どの神の加護を受けるのかと話していた。琥珀は決まって、大地の男神がいいと口にしている。末の神である大地の男神は冒険系の逸話が多かったため、絵巻物を読んでもらううちに、琥珀はすっかり大地の男神に憧れていた。
「ほら、社が見えてきたぞ」
村長が、仲良く手を繋ぎ後ろを歩く三人を振り返った。村長は風の守護を受けている為、
社は、暗くてひんやりとしている。長老が炎の術で蝋燭に火をつける。村長は窓を開けて空気を入れ替え、陽の光で僅かながらも社を明るくしていた。
ひんやりと冷たい正面の奥に、開き戸が見える。
「ほら、頭を下げなさい」
村長に促されて板の床に座らせられると開き戸に向かい、頭を下げた。ぎぃと乾いた木の音が聞こえる。琥珀はこっそり瞳だけを開き戸に向ける。長老が開き戸を開けている。中には、綺麗に輝く水晶があった。自分の頭くらいあるので、琥珀はそれがとても大きいと思った。
「藍玉、頭を上げなさい」
長老の声に、藍玉が動くのを横目で見る。藍玉、翠玉、琥珀と並んでいるので自分は最後らしい、琥珀は緊張と興奮が混じった視線で藍玉の様子をうかがっていた。間にいる翠玉は、頭を下げて瞳を閉じたままだった。
「両手で水晶に触れなさい」
心なしか、藍玉の指は震えている。
途端、キラキラと藍玉の身体が光りだした。白色だった髪と瞳に、すうっと色が浮かび上がり、藍玉を染めていくように変化していった。
「ほう、藍玉は水か」
藍玉の髪と瞳は、
「藍玉は男性で、水の加護の呪術師としての適性がある」
着物の懐から村人台帳を取り出した村長は、藍玉の項目を埋めた。当の藍玉は、不思議そうに長老から渡された手鏡を眺めている。藍玉は女になるだろうと大人は話していたので、言われ続けていた本人も驚いているのだろう。
「翠玉、頭を上げなさい」
先ほどと同じ文言を長老が繰り返す。翠玉も水晶に触れたとき、藍玉と同じように身体がキラキラと輝き出した。
「翠玉は女か! 風の加護の弓師だなんて、何とも意外な結果だ」
意外そうに瞳を丸くした村長は、台帳に記しながら呟く。それは、子供達三人も同じ気持ちだった。翠玉は、恥ずかしそうに頬を赤くして、居心地悪そうに藍玉から渡された手鏡を覗いていた。
いよいよ自分の番だと、琥珀は飛び出しそうな心臓を何度も抑え込んで息を吸い込む。
「琥珀、頭を上げなさい」
「はい!」
思わず返事をしてしまい、慌てて口を抑える。社の中の皆は、笑いを抑えきれなかった。
「緊張せずに、両手で水晶に触れなさい」
なんとか笑いを噛みながら、村長は続ける。恥ずかしさを感じながら、琥珀は水晶に手を伸ばした。ヒヤリとした水晶が興奮した肌に心地よく感じられた。
――お願いします、どうか大地の加護を!
願う琥珀の身体がキラキラと輝き出す。琥珀は、ぎゅっと強く瞳を閉じて変化を待つ。
「……琥珀は……」
心なしか、落胆したような村長の声がした。琥珀はゆっくりと瞳を開いて、翠玉から差し出された鏡を覗いた。