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堕ちた神のなれの果てと氷の微笑みの美しい男
堕ちた神のなれの果てと氷の微笑みの美しい男
七海美桜
ホラー都市伝説
2024年12月24日
公開日
6万字
連載中
美しい男――祓い屋・若神子《わかみこ》昴《すばる》と出逢った永久《ながひさ》環琉《めぐる》は、色々な不思議な事件と遭遇する事になる。昴の『影』に潜む恐ろしいものが、二人を護ってくれるのだ。人の『欲』や『業』がある限り、この世は『地嶽』だと、昴は氷のような美しい笑みで人々の悲しみを『影』に食わせる。怪奇事件の短編集です。

第1話

『お前は、恐ろしくはないのか?』



 は、そう尋ねた。闇――いや、がそう男に聞いた。


「恐ろしいよ。君は、僕の手ですら扱えないかもしれない」

 の問いかけに、黒いシャツに黒いズボン姿の肌の白い――まるで作り物のように綺麗な男はそう返した。しかし、恐ろしいと怖がる様子はなかった。冷たいまでに美しい微笑みを、闇に向けていた。



 偉大な彫刻家が作ったかのように、まさしく『美しい』と表現するのに相応しい男だった。女性の柔和さを滲ませた顔と、男性の引き締まった身体の中性的な――彼の隣に並ぶのを誰もが嫌がる様な、神秘的な『完全』とも言えそうな美しさを持つ、不思議な男だった。暗い暗い闇の中にいても、淡く光るかのような白い肌をしている。


「でも、君は僕を失いたくないはずだ。そうだろう? ――神様。君のような『闇』が、僕の中にいるのが見えるだろう?」


 は、答えなかった。しばらく、じっとその美しい男を見つめていた。何も言わなかったが、しばらくすると辺りを漂う闇の中でその『闇』の姿は薄くなり、美しい男を包むかのような『影』になった。


「ふふ、人間風情と組むのは悔しいのかい? でも、君も僕も――これで共存出来る。僕は君の『力』が必要で、君は僕が持つ『依り代』が必要――これで、契約成立だね」



 男は、美しく笑った――氷の様に、美し過ぎて棘のある花の様に。



「ありがとう――では、行こう。この世の『地嶽じごく』へ」



 男は、影をまとい闇の中を歩きだした。歩くにつれ、闇が薄くなりいつの間にか賑やかな繁華街の通りを歩いていた。


「人の執念と執着――憎しみと愛が渦巻く、地嶽……」


 賑やかな喧騒けんそうの中、男はふと立ち止まり空を見上げた。人々の欲にまみれたこの世は、不夜城の様に明かりが消えぬ街だった。星も見えぬ灯りが、空をも照らしている。



 にたり、そう『影』がわらった。

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