バーダー教官が死んだ。
――嘘だろ……?
「タカーシ君。もう泣かないで……」
南の国の首都、エールディを巻き込んだ戦いに勝ってから2日後。
各方面でもろもろの戦後処理が行われ、しかしながら俺の心はあの時から止まったままだ。
ふとした瞬間に涙があふれ、今もそれをフライブ君から指摘されている。
だが涙なんて自分で止められるものでもない。
「うぅ……ごめん……でも……」
そう言いつつも、俺は止まらぬ涙を必死で拭う。
バーダー教官。
あぁ、そうだ。俺のせいだ。
俺が調子に乗ってビルバオ大臣を倒しに行こうなんて言ったからだ。
いや、それだけじゃない。
あの時――玉座の間でバーダー教官は言った。
俺に……逃げろと……。
だが俺は言うことを聞かなかった。
その結果がこれだ。
「タカーシ……」
「タカーシ様……」
気づけば、妖精コンビがいつの間にか現れ、切なそうな声で俺の名をつぶやいている。
その後ろにはドルトム君と王子もいる。この2人は黙ったまま俺のことを見つめていた。
もうだめだ。こんなふうに心配されるとなおさら涙が止まんねぇ。
「えぐ……ひぐ……」
しかし、状況はさらに俺を追い詰める。
戦争の後片付け。
あの後、国王と王子を中心としてこちら側が奮戦し、何とか勝ちを収めた。
とはいえ相手の大半はエールディの民兵だ。
身内で傷つけ合っただけで、勝利にさほどの意味はない。
戦いが終わった今、本来なら捨て置く敵兵の命さえ救う必要があり、バレン将軍や親父も大忙しだ。
んでその大忙しなはずの2人も揃ってこの場に姿を現した。しかもその後ろにはフォルカーさんやマユーさんまでいる。
「タカーシ……いつまでも悔やむな。戦いとはそういうものだ。死んでいった仲間たち……特にバーダーの気持ちにもなってみろ。
お前がいつまでもそんな調子じゃ、お前を守って死んでいったバーダーも浮かばれん」
ありきたりでいて、しかしながらこういうシンプルな言葉こそ心に突き刺さる。
「……バレン将軍……えぐっ……」
すでに心が限界に来ていた俺は、思わず膝から崩れそうになる。
――いや、待て。
忙しいはずのこの4人が何をしにここに来た?
まさか俺を慰めるために揃いも揃ってきたわけじゃなかろうに。
「何か御用でしょうか……?」
もちろんこの4人がここに来た理由は俺を慰めるためではなかった。
俺の問いに、バレン将軍が答える。
「その、あのだな……」
「はい?」
「お前、フォルカー軍の幹部にならないか? フォルカー直属の鉄砲部隊の大隊長として……」
「え? ……それはつまり?」
「あぁ、バーダーの代わりだ」
……
……
「丁重にお断りします……」
今度は親父が反応した。
「んなっ? なぜだ!? 大出世だぞ? 我がヨール家としても……」
「いえ、どうしても外せない仕事がありまして。これから数年間はその仕事をしたいのです」
「なんだ、その仕事とはっ!?」
「僕とアルメさんは北の国に行きます。バーダー教官のお兄さんと僕のお兄さんに会いに行きます!」
「んな!? なんということを!?」
「まぁ待て、エスパニ。タカーシにも事情があるのだろう。タカーシ? なぜだ? なぜそんなことを言い出すのだ?」
「それは……」
「それは?」
「バーダー教官の遺言だからです。ね? アルメさん?」
「はい、ご主人様には申し訳ないのですが……私もタカーシ様について北の国に行きます。どうかご容赦を!」
こうして、俺とアルメさんは旅に出ることとなった。