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闘争本能の集中編 11


 これにて無事に任務完了。


 と思ったけど……


「ぐぅ」

「ぐっ……なに!?」


 敵が短く唸り声をあげ、一瞬遅れて王子の驚いたような声が周囲に響く。

 そう。この敵、数十本の触手を全て対王子用の防御に回し、王子の突撃をそれらの触手で柔らかく受け止めやがったんだ。


「んな!?」


 もちろん俺も驚きを隠せずにいた。

 隠せずにいつつも、突撃を止められた王子が触手に囲まれそうになっていたので、俺は脊髄反射の速度で王子の助けに入る。

 手に持った剣で王子に襲い来る触手を切り裂きつつ、きょとんとしてる王子に対して大きな声で話しかけた。


「えい! とう! つぉいッ! くッ! 王子!? いったん後退を!」

「む、むう……」


 どうやら王子もあっけにとられているらしい。

 まぁ、そりゃそうだろうな。南の国でも屈指の攻撃力を持つ王子の突撃が、こんな何でもない戦場で――そして、こんなわけのわからん敵によって止められたんだ。

 俺が王子だったら2、3日寝込む自信がある。

 それだけショックだったはずだ。


 しかも、てっきり触手の1本1本が独自に動いているものだと思っていたけど、あの瞬間触手たちは間違いなく統一された意志のもとに動いていた。

 それはつまり触手複数本での連携もこなせるということだ。

 触手そのものが持つ強度に加え、強力な一撃には複数の触手で対応する。

 なるほど。なかなかにやっかいな相手だな。


 じゃあどうするか?

 ここは一度引いて作戦を立て直……いや、そんな時間を敵が与えてくれるとは考えにくい。

 ならこのまま敵の触手が活動を緩めるまでの持久戦に持ち込むつもりで、延々と全員攻撃を続けるか。

 または俺の自然同化魔法を上手く使ってこの戦況を打開するか。

 はたまた鉄砲部隊の出番か?


「うーむ。となると……そうじゃな。タカーシよ。敵の足を狙え。とどめはガルトじゃ」

「ははっ!」


 しかし、若干混乱していた俺の頭に王子の低い声が割って入ってきた。

 あとガルト君の威勢のいい返事も。


 ……って、ちょっと待て。

 いったい何を……?


「え? あ? え?」

「タカーシ? 聞いておったじゃろう? やつの足じゃ。足を攻めよ」


 くっそ。この仔馬野郎! 凹んでたんじゃねーのかよ!

 こっちがちょっと心配している間に、なにちゃっかり次の作戦考えてんだよ!


 あぁ! 心配して損した!

 わかったわ! じゃあ王子の言う通りに動いてやるわっ!


「ふん!」


 なぜか少しイラついてしまったので、俺は機嫌の悪そうなうなり声とともに魔力を放出する。

 続いて自然同化魔法を発動させ……あとは、そう。情けない姿だけど空間をうにょうにょ動く触手に邪魔されないよう、地べたをはいずりながら敵へと接近した。

 そして、手に持った剣で敵の足を切り裂いた。


「いてっ!」


 敵の防御用の魔力をかすかに通り抜け、剣の切っ先が敵に数センチの傷を負わせる。

 悲しいかな。攻撃力が著しく低い俺の攻撃では、敵に与えるダメージはこの程度らしい。

 相手もマジな戦いの最中なのに「いてっ!」とか言っちゃうしな。コメディやってんじゃないんだからもうちょっとましなリアクションしろよ。


 ――じゃなくて。


 この敵は触手による防御機能だけじゃなく、本体の防御力も意外とありやがる。

 うん。俺の攻撃力も相当低いんだけどさ。それにしてはさすがに小傷すぎる。自信なくすわ。


 でもとりあえず俺に与えられた役割は敵の足を攻めることだったので、そのまま攻撃を続けた。

 結果、敵の足にいくつもの切り傷がつけられることとなる。


「いて! いて! いてぇっ! 畜生! 足元に何かいやがる!?」


 うん。まぁ、その、あれだ。

 俺だ。

 でもこの攻撃のおかげで、停滞した戦況に新たな流れが生まれた。


「と、透明になる……敵?」


 くっそ! もう気づきやがった!

 って数十本の触手が俺めがけて襲い掛かってきたぁ!

 この野郎、見えないながらも俺の存在にうっすら気づき、攻撃を仕掛けてきやがったぁ!


「ぐぉおぉおぉぉぉおおおぉっ! いだい! いだいってば!」


 なので俺も地べたに這いつくばったまま、背中に防御用の魔力を集中させる。

 さっきの流れのせいで俺も情けない声を発してしまったが、幾十の触手が俺の背中を攻撃し始めた。

 んで俺がそれに耐えていると、ここで王子が動き出した。


「タカーシよ。そのまましばらく我慢するのじゃ! 行くぞ!」


 そして王子による再度の突撃。

 激しい発射音とともに周囲の空気がソニックブームを起こし、高速で突進した王子の姿がかすむ。


 しかし、敵はその攻撃をいくつかの触手で斜め後方に受け流そうとした。


「させるかぁ!」


 もちろんそんなことは許さん。

 俺は思わず叫びながらも、敵の両足を強く掴む。


 だけどさ。そんな俺の小さな抵抗は無駄な配慮だった。


 王子の突撃とほぼ同時にさ、ガルト君も暗殺者の一撃を敵の背後から放っていたんだ。

 威力こそは王子のそれに及ばないけど、頭蓋骨の中心から生えた角を突き刺す王子よりは多様な動きがしやすいナイフによる攻撃。

 その一撃を放つため敵の背後を常に維持し、俺と王子の突撃に触手の8割が配分されたところで、ガルト君は手薄になった敵の背中を狙って電光石火の一撃を放った。


「げお……」


 結果、敵は首を綺麗に切り取られ、少し遅れて俺に襲い掛かっていた触手たちも生気を失ったように地面に倒れる。


「はぁはぁ……やったね」


 うむ。我がチーム。子供ながらに大金星だ。

 俺に加え、まさか王子自ら囮となりつつ、そんでもってまさかまさかのガルト君が敵にとどめを刺すなんて。

 王子もそれなりの英才教育を受けているけど、自身の突撃が『いなされる』可能性も含めて、ガルト君にフィニッシュを決めさせるあたり、ドルトム君並みの戦術眼じゃねぇか。

 いや、ドルトム君ならもっと早い段階で何通りもの作戦思いつくんだろうけどさ。

 なんにせよ上等だ。


「てったーい! てったーい!」


 俺たちが勝利の味に酔いしれているうちに、生き残っていた敵部隊員が撤退を始める。

 ということは……バーダー教官もアルメさんも、すでに敵を打ち取ったのか?

 いや敵が撤退を始めたことでそんなことは明白だし、少し前に目当ての敵を打ち取ったバーダー教官とアルメさんが少し離れたところから俺たちの戦いを見守っていた事実が、それ以上にわかりやすく2人の勝利を物語っている。


 余裕めいた表情で俺たちの戦いを観戦していたのがなんかむかつくけど。


「はぁはぁ……ふーう……うげぇ。べちゃべちゃだ」


 敵が撤退を始めたことで、少し静かになった戦場。その気配を感じ取りながら、俺は地面に手をつく。

 地面に這いつくばっていた俺の態勢の関係上、俺の体には数本の触手が血だらけの状態で乗っていたわけであるが、俺はそれを押しのけながら立ち上がった。

 同時に離れたところにいたバーダー教官とアルメさんに向けて、大きな声で言った。


「ふーう。何とか勝てましたけど……どうします? もう敵の第二波がすぐそこまで来てます。

 今撤退した敵もその部隊に合流するでしょうし、次は結構苦戦するかも」


 そう、新手の敵部隊が山2つ分ぐらい離れたところまで迫って来ていたんだ。

 戦力は今戦った部隊と同じぐらい。

 これ、俺たちだけで応戦したら結構ヤバくね? 俺たちはいいとして、ほかの隊員たちが死にかねないレベルじゃん?


 しかし、ここでアルメさんがふざけたことをぬかしやがった。


「まぁ、それもそれでありですけどね。我々だけが孤立するこの上ない危機……そんな戦いも……」


 いいわけあるかァ! 怖いわ!


「だめです! 僕の鉄砲部隊が壊滅しちゃいますってば!」

「えぇ? じゃあ味方の部隊に救援要請出しますかぁ? でも近くにいるかわかりませんよ?

 私の魔力探知でも、全然味方の気配が感じられませんから。

 あっ、そうだ! タカーシ様? あれやってみます? もっかい! ねぇ? やってみましょうよぅ!」


 うぉっ! マジか! あれをやれと? アルメさん、なんてことを言いだし……


「じゃ、行きますよーう!」


 しかし、俺が抵抗する間もなくアルメさんが瞬速で俺の背後に移動しやがった!

 そんでもって俺の首根っこをくわえ、俺の体を空高くぶん投げやがった!


「ぎゃーーーっ! って痛い! 狙撃されてる! ぐっ! くそ! えい!」


 もちろん空高く飛ぶと、遠くの敵兵にとって遠距離攻撃魔法の格好の的となる。

 いろんな方向から幾十の攻撃魔法が放たれ、それらが俺を襲うが、俺も俺でそんな死に方は嫌なので防御用の魔力を最大放出したり、手に持った剣で敵の攻撃魔法をいなしたりした。


「おー。やっぱりタカーシ様の防御力はすごいですね!」


 アルメさんのそんなお褒めの言葉がはるか下から聞こえてきたが、いきなり投げ飛ばされた俺にとっては悪意のこもった讃辞にしか聞こえない。

 着地したらアルメさんをぶん殴ってやろうとか思いながら、およそ200メートルの逆バンジーを体験し、数秒後俺は無事に地上に帰還した。


 さて此度のジャンプで敵味方の詳細な位置も把握できたし、アルメさんを『しつけ』しつつ、その後で結果を報告しようと思ったんだけどさ。

 でも他の部隊に助けを求める必要はないんだ。味方の増援がすぐ近くまで来ていたからな。


「や、やっほー……」


 少ししてドルトム君が姿を現した。

 その背後にはフォルカー軍の本陣から連れてきたであろう上級魔族300体の超精鋭部隊も……。




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