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闘争本能の集中編 10


 樹齢数百年にもなろうという木々が生い茂る森の中、俺は鉄砲部隊を率いて奮戦していた。


 森の中では敵味方が入り乱れての混戦。

 ドルトム君から大まかな進軍経路を指示されてはいるものの――また、他の部隊の作戦行動予定もある程度頭に入ってはいるものの、俺の魔力探知能力の外にいる味方が一体どこにいるのか全く分からん。

 もちろん他の部隊がどのような戦況になっているかも分からん。


 つーかこの森――森というか、地形の凹凸が激しすぎてこれはもはや山岳地帯だな。

 今、俺たちは先日まで敵が駐屯していた森を抜け、さらに奥まで進軍してんだけどさ。森を抜けたら険しい山岳地帯が待っていやがったんだ。

 んでこの山岳地帯、山々の傾斜が急すぎるせいで魔力の伝達が遮断され、それが俺の魔力探知範囲を狭めていやがる。

 山々に散開している他の部隊の状況を把握するために俺が大きくジャンプすると、遠くから魔法攻撃で狙撃されそうになるし。


 という中々に混乱した戦線で、俺たち鉄砲部隊はたまに来る味方本陣からの伝令のみでしか味方の戦況がわからん。

 かろうじて把握できるのは半径数百メートルほどの距離に点在する小隊規模の敵味方の存在だけ。


 ……


 ……


 あのさ。精霊との話が上手くいったことで今後の戦闘を有利に進められるかと思っていたけど、それは甘い考えだったわ。

 まさかこんなにも戦線のいびつな戦いになるなんてな。


「たいちょー……あっちのほうから敵が攻めてきますぜぇ。どうしますかぁ?」

「はい。じゃあ皆さんさっきみたいに気配を消して。あとここら辺の巨木の陰に待機して、敵が通り過ぎたところを背中から一斉射撃しましょう」

「うぃーす」


 でもまぁ、こんな感じで俺たちは着々と小さな勝利を重ねてはいる。

 鉄砲は大きな魔力を必要としないので、このように魔力の気配を消して木々の陰に隠れていても、俺の掛け声に合わせてすぐさま上位魔法級の攻撃ができるからな。

 かつ、獣人であるフォルカーさんから与えられた俺の部隊のメンバーはやっぱり獣人が多いので、こういう生い茂った木々の中に身をひそめるのが得意なんだ。


「よしきた。隠れましょう……んでもって……ふーう。ふーう……静かに……。

 よし! 通り過ぎた! 総員、発射ーッ!」


 そんな感じで此度も200数体の敵部隊を背後から奇襲し、そのほとんどを銃弾の餌食にする。

 わずかに残った敵兵も我が鉄砲部隊に同行している上級魔族によって蹂躙させ、またまた小さな勝利を1つもぎ取った。

 大小様々な悲鳴や掛け声が響く森の中で、隣にいた鉄砲部隊の副隊長がふと俺に話しかけてきた。


「隊長殿?」

「はい」

「素晴らしい出来でございますな」


 ふっふっふ。そうだろうそうだろう。

 この部隊は俺が手塩に掛けて育てた部隊だ。

 先日暴走しかけたときはマジでどうしてくれようかと思ったけど、チンピラ集団ながらも割と冷静に俺の言うことを聞いてくれるいい奴らだ。


 つーかあんたも一緒に頑張ってくれたじゃん。

 じゃあここはお互いに褒め合って……いや、やめておこう。

 今現在俺たちが順調に敵戦力を切り崩しているのは、精霊が援護をやめた結果敵が若干混乱しているからであって、俺たち鉄砲部隊の実力だけというわけではない。

 まぁ、この森の精霊たちが中立的な立場になったのはある意味俺の成果でもあるんだけどな。


 いやいやいや……それも含めて油断はしないように。

 ビビりすぎかもしれないけど、こういう混戦では警戒しすぎるに越したことはない。


「いえ、油断せずにいきましょう。こんな乱戦じゃ敵味方がどこまで戦力を削り合っているのすらわかりません。それにまだ幹部クラスの敵と遭遇していないですしね。

 あくまでこちらが勝利を収めるまで……そう、それまでは油断せずに……」


 俺は自分自身に言い聞かせるように答え、副隊長も表情を引き締めながら頷く。


 と思いきや、ここで現在地の南東方向から大きな魔力反応が感じられた。

 この魔力は……? 敵の幹部クラス?


「あっち……これはちょっとヤバいですね」


 2、3……えーとぉ。中々にどでかい魔力を持った3体の敵魔族が、400~500の兵を従えてこちらに向かって来てやがる。

 しかも従えている兵たちは中級クラスがほとんど。


 これは、俺たち鉄砲部隊じゃ身に余る戦力だ。


「みなさーん! 状況その5ぉー! 隊列を組みなおしてくださーい!」


 ちなみに『状況その5』とは鉄砲部隊の構成員を後方に下げさせ、同行している中・上級魔族による自由戦闘を展開する作戦だ。

 まぁ、自由といってもそれぞれ仲のいい味方同士で連携を組んだりするから暴れ放題というわけではないんだけどな。

 いわゆる『鉄砲部隊』としての戦い方の破棄。各々の実力に任せた昔ながらの戦い方といってもいいだろう。


「よし。我々の出番だな」


 俺の言葉を受け、背後に控えていたバーダー教官が勇ましい言葉とともに前に出る。

 同様にアルメさんもうなり声をあげながら足を進め、その後に中・上級魔族で構成された精鋭50体が続いた。


「状況その5……えーとぉ……僕たちは……どうするんだっけ?」

「何よ、フライブ? あなたまだ作戦すべてを暗記してないんですの? たった8つなのに……」

「ふっふっふ。フライブ様? タカーシ様の下さったご命令、『状況その5』でしたら我々も前線に躍り出ていいのですよ」

「あ、そうだっけ!? わーい! やったぁー!」

「しかし落ち着けフライブよ。ちゃんと連携を組まねば……この敵戦力だと危険じゃ。皆、固まって敵を倒していこうぞ!」

「わかったよ。王子!」

「えぇ、油断は禁物ですわね」


 もちろんこの部隊にはフライブ君やヘルちゃん達もいるので――んでもって例によって王子もちゃっかり混ざりこんでいるので、俺たちも連携を組んで戦うこととなる。


「うぇっひっひ! タカーシ様?」

「ん? 何? どしたのガルト君? そんなに興奮して……?」

「もしよろしければ敵の幹部を1体、我々のみで打ち取ってみませんか?」


 ほう。それはなかなかにスリリングな提案だ。


「タカーシ様の騎士道精神もへったくれもない残虐非道な魔法があれば、バーダー教官殿やアルメ殿ならいざ知らず、初見の敵軍幹部1体程度は我々のみでいけるかと?」


 いや! この殺し屋野郎! どさくさに紛れて俺の自然同化魔法を侮辱しやがった!

 こんちくしょう! 俺たちは魔族だから、そういう言葉がむしろ誉め言葉になったりするんだけど、“前世で地球に生まれ育った俺”に関してのみ完全侮辱だろ!?

 あったまきた。いや、ガルト君に悪意がないのはわかってるけどあったまきた!

 ここは1つガルト君をたしなめておかな……


「うむ。ガルト? それはなかなかに面白いではないか。幹部と思われる敵兵が3体。

 俺とアルメ殿で1体ずつ。残りの1体をお前たちだけで仕留めてみろ」


 しかし俺がガルト君に説教しようとしたその瞬間にもバーダー教官が低い声でそう言い、俺は真面目な顔でうなずくことしかできん。

 まぁ、俺たちだってだてに日頃の訓練をしているわけではないからな。

 それじゃここはガルト君の提案通り、みんなで敵軍の幹部を1体仕留めてやろうじゃないか。


 ――って、その前に。


「でも、この戦力でこの方向に移動しているとなると……この敵部隊、このまま放っておくと、おそらく僕たちのはるか後方にいるはずのフォルカーさんたちのところまでたどり着きそうですよね。

 いや、それを狙っているのかも。フォルカーさんたちの居場所がバレたかな?

 ――となると、この後にも似たような規模の敵部隊が押し寄せてくる可能性が……。

 どう思います? バーダー教官?」


 ふと気になってみたことをバーダー教官に聞いてみる。


「大方その通りだろう。タカーシも大分戦場を読めるようになってきたな」

「じゃあここが敵の進軍経路になりそうですね。我々が波状攻撃の餌食になる前に、味方本陣に救援要請を出しておきましょう」

「うむ。そうするがいい」


 バーダー教官が俺の意見に同意してくれたので、俺は下級魔族たちに対して後退して待つように指示し、かつ、はるか後方にいる本陣にちょっとした援軍要請を出しておく。


 敵との距離がおよそ山3つ分に縮んだところで、こちらの存在に気付いた敵部隊が魔力の放出を始め、一呼吸遅れて俺たちの部隊も魔力の放出を始める。


「がるるるぅううるるるぅ……一点突破……一点突破……ぐるるううぅぅぅうるるるるぅ……」


 アルメさんに至っては、『話しかけてはいけないオーラ』とよくわからん四文字熟語を発していたので、そっとしておいてあげることにした。


「先に動きますよ! 突撃ぃーーッ!」


 そして後手に回るのが嫌だった俺は、こぶしを高く上げ大きく叫ぶ。

 俺の掛け声に合わせ、アルメさんが真っ先に動き出す。

 かつバーダー教官が鬼のように吠え――牛だけど鬼のように吠え、敵部隊へ向けて走り出した。

 俺たち子どもチームも遅れてなるものかと走り出し、すぐさま敵との交戦に入った。


 アルメさんが先頭を走っていた敵幹部の1体に狙いを定め、1対1の勝負を挑む。その隣を走っていたもう1体の敵幹部クラスの魔族には、バーダー教官の大きなこん棒が襲い掛かった。

 敵味方が入り乱れる中、幹部クラス同士の戦いが始まったのを確認し、そして俺たちは最後の1体に狙いを定める。


「なんだぁ? 俺の相手はガキどもかぁ? ちっ……」


 相手は上半身からおどろおどろしい触手を無数に生やしている化け物。全体的に紫っぽい体をしているのでなおのことおどろおどろしい感じだ。

 いや、俺たちも立派な化け物なんだけどさ。でもさすがにこんな気味の悪い生き物は見たことがない。

 しかも俺たちを『ガキども』と表現しただけあって、ガラの悪そうな雰囲気をぷんぷんと匂わせてやがる。

 どっちかっていうとうちの下級魔族たちのようなガラの悪さによく似て……いや、今はそんなことどうでもいいか……。


「なめないでくださいな!」


 敵の言葉にヘルちゃんが勇ましく答え、その間にも俺たちはその敵の周囲に展開する。

 どうせさ。その触手ってば、にょーんって伸びてくるんだろ? んでもってそれがお前の攻撃スタイルだろ?


 と思ったんだけど、案の定敵は触手を四方八方に伸ばしやがった。

 やっぱりな。


 じゃあこちらはそれを無難に防御だ。


「ふん! ふんふん!」


 敵が俺たちに伸ばした触手は数十。しかしながら、それらは全員に均等に触手を向けたので、1体あたりの触手数はおよそ10数本。

 俺はそれをバレン将軍モデルの剣でさばく。


 さばきながらふと意識を周囲に向けると、フライブ君はその攻撃を回避する方針で動き、ヘルちゃんは魔法防御、ガルト君は俺と同様に手に持ったナイフで触手をさばいていた。

 唯一、レベルの違いを見せつけられたのが王子な。


 あの仔馬野郎、触手攻撃をわざと受け――つまり全身を無数の触手にからめとられながら、そしてその触手に体を締め付けられながらも、「ふん。この程度か……」と短くつぶやき、んでもって体から発する膨大な防御用魔力のみで触手たちを引きちぎりやがった。


「ふっ。ただのガキではないな?」


 俺たちの対応を見た敵が不敵な笑みでそのようにつぶやき、しかしながらその瞳の奥からは余裕の色が消える。

 ならば今度はこちらの反撃――と俺が行動に移ろうとするわずかな間にもフライブ君が敵との接近戦に入り、ガルト君が敵の死角へと回る。

 同様にヘルちゃんも上位魔法を織り交ぜながらの雄たけびを始めた。


「おんどりゃーー! ぶっ殺ーす! 五臓六腑を綺麗に散らせながら死に絶えろーーッ!」


 うん。毎度おなじみの下品な掛け声とともにヘルちゃんが前線にと割り込み、3者による猛攻撃が開始された。

 そしてそれに乗り遅れた俺は、同様に一歩引いてフライブ君たちの戦いを観察していた王子のわきに移動することにした。


「王子?」

「ん? どうしたのじゃ?」


 いや、大したことじゃないんだけどさ。どうもこの敵の触手は1本1本にオート防御の機能があるっぽい。

 本人は大して動かず。しかしながら無数の触手が自在に動くことにより、奴はフライブ君たちの猛攻をさばいてやがる。

 結果、フライブ君たちはその敵に接近できずにいた。


 ということにうっすら気づいたので、王子に意見を求めてみようとしたんだ。


「あの触手さ。なんかこう……本人の意思とは関係なく動いているっぽい? どう思う?」

「そうじゃな。余もそのように考えておった。しかもじゃ。タカーシよ? ガルトを見よ。あやつの短剣で切り裂かれた『うにょうにょ』が再び生えてきておる」


 ん!? 確かに!

 じゃあなにか? 奴の触手は再生機能も備わっているってことか?


 まぁ、無限に再生し続けるわけじゃないだろうけど、それでも厄介だな。

 んじゃこういう時はとっておきの一発で、一気にとどめを刺したほうがいいのかもしれん。


「それじゃあいつを倒す方法は決まりだね。王子? 王子の一撃で触手ごとあいつの体を貫こう」

「うむ。わかった。それじゃ他の奴らに余の突撃経路を空けさせよ」

「そだね。みんなぁーー! 王子の一撃、いっくよ―――ッ!」

「わかった!」

「はいな!」

「承知いたしました!」


 んでここでちょっとした連係プレー。

 王子の一撃をもってすれば、おそらくそこらへんに伸びる触手を無視して敵の体を貫通することは可能だ。

 しかし、それだけじゃ芸がない。

 なので王子が突撃の準備に入っている間、俺を含めた他の4人はあえて敵との間合いを縮め、敵の注意と触手を今まで以上にそれぞれに向けるようにした。


「よし、行くぞ!」


 そして短い掛け声とともに、ミサイルクラスの一撃が空間を横切る。

 いや、たまたま俺のすぐ脇を王子が通過していったからそう思っただけなんだけど、あいかわらずのすげぇ突撃が敵に襲い掛かった。



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