体を襲う不愉快な揺れに眠りを妨げられ、俺は目覚めた。
ここはどこだ? どこかの屋敷の寝室か?
いや、床がガタガタと揺れている。
この揺れ方には覚えがある。バレン将軍の本陣車両だ。
ということは、ここは本陣車両?
「起きたか?」
穏やかな声が耳に届き、俺は頭を上げる。
窓の外は流れゆく森林の風景。そこに座っているのは黒い髪に白い肌。深紅の瞳を輝かせるヴァンパイア。
ボロボロの鎧を身を纏い、それもそれで儚く美しい。
「バレン将軍……」
「大丈夫か? 体に異変は?」
「いえ。特に……」
「そうか。よく頑張ったな」
「えぇ」
どうやら俺は魔力を使い果たして気絶したようだ。
しかし、バレン将軍がこんな笑顔を見せてくれるということは、気絶後も万事上手くいったのだろう。
そこまで察し、俺は短く質問した。
「終わったんですね?」
「あぁ、終わった」
バレン将軍も短く言葉を返すだけだ。
いや、ゆっくりと立ち上がり、俺の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
それには流石の俺も無邪気な笑顔を隠せない。
「話はアルメから聞いたぞ。フォルカーを将軍として、下級魔族を中心にした軍を作るそうだな。
しかもなにやら不可思議な武器を開発してそれを量産するとかしないとか?」
えっへっへ。鉄砲の件、ついにバレン将軍にばれちまったか。
あっ、そうだ! それよりアルメさんは?
「そうそう。アルメさんは? 無事ですか? 他のみんなは?」
いや、やっぱり確認しておかないと、安心できないよな。
「だいじょうぶだ。全員無事だ。あっと、フォルカーが予想以上に疲弊していて、他の車両で寝たきりになってたな。
タカーシより早く起きたらしいが」
「そうですか。それはよかった」
「うむ。あの勇者を相手にこの被害の少なさは奇跡といってもいい。皆よく頑張った」
……
「それで……その新しい武器とはあの棒のことだろ? どうやって使うんだ?」
「えへへ。それは内緒です」
「なんだそれは? 仮にも私はお前の上官だぞ?」
「え? それはどういうことですか?」
「お前たちのことを……いや、フォルカーも含めてしばらくうちで預かることになった。
私の軍で2、3年も訓練したら、フォルカーを将軍とした独立軍を設立する。それまでタカーシは私の部下だ。
だから教えろ。どういう武器なんだ?」
……
……
いや、なんか俺が気ぃ失っている間にいろいろと勝手に決まっててむかつくな。
意地悪してやろう。
「あはは! でも教えません!」
「くっそ。なんてやつだ」
「はい。僕は悪い子でしょう?」
「あぁ、悪い子だ。悪い子はしっかり教育せねばな。
覚悟しろよ? タカーシには我が軍で最もきつい訓練を施してやる」
「すんませんでしたぁ! 洗いざらい全部話すから許してください!」
こうして、俺の初陣は終わった。
第一部 終わり