アイリスさんとの連携により、アタシ達は簡単に船首へとたどりつける事が出来た。
さて、過去に軟体系モンスターをメイスで叩いてもあまりダメージを与えられなかった経験がある。
だからクラーケンの頭を叩いてもたいしたダメージにはならないだろう。
「……となれば」
アタシはクラーケンの右側に向かって跳躍をした。
狙いはクラーケンの目だ。
いくら軟体系モンスターとはいえ、目ばかりはどうしようもない。
アタシの思っていた事がアイリスさんにも通じたようで、クラーケンの左側へと跳躍をした。
左右に分かれたアタシ達にクラーケンは動揺したのか一瞬動きが固まる。
駄目だよ、敵が目の前にいるのに動きをとめちゃ!
アタシはクラーケンの右目にメイスを叩きこみ、アイリスさんは左目に剣を突き立てた。
「――っ!!」
流石のクラーケンも同時に両目を攻撃されてはたまったものじゃない。
痛みのせいでその場で暴れ狂い出した。
アタシとアイリスさんは巻き込まれない様、クラーケンから離れて距離を取った。
さて、クラーケンはどう動くかしら。
警戒しつつクラーケンの様子を見ていると……。
「よおおおおおおおおおおおおし! 後は俺様に任せろ!! 止めを刺してくれるわあああああああ!」
髭もじゃで右目に眼帯を付けた男が銛を両手に持ち、叫びながら暴れ狂うクラーケンへと突進していった。
「……えっ?」
いやいやいや! あの人何をしているのよ!!
止めようと動こうとした瞬間、隣にいたアイリスさんが男の後を追って走り出した。
と、次の瞬間。
「――うぼあっ!」
男は触手の1本に叩かれて、背後にいたアイリさんを巻き込みすっ飛んで行ってしまった。
2人は甲板を転がってマストに当たりようやく止まった。
「船長!! お客さん! 大丈夫ですかい!?」
それを見た乗組員たちが大急ぎで2人に駆け寄って来た。
2人の事が心配だけど、今はクラーケンを放っては置けない。
あの2人は乗組員達に任せて、アタシはこのままクラーケンを警戒していよう。
アタシはメイスを構え直し、クラーケンを睨みつけた。
「……」
しばらくすると、クラーケンの触手の動きが鈍くなりズルズルと海の中へと沈んでいった。
するとクラーケンの頭の方も一緒に海の中へと沈んでいった。
これは逃げて行ったと考えても……いや、油断をしちゃ駄目だ。
もしかしたら、船ごと海の中へと引き摺り込むために海に潜ったのかもしれない。
そんな事をして来れば海に飛び込むしかないわ。
けど、水中戦は圧倒的にアタシが不利。
どうかこのまま逃げて行ってくれますように……。
「…………」
静かだ。
これは安全になったからなのか、襲ってくる前の静けさなのだろうか。
警戒しつつ船の手すりに向かい、海面を覗き込んだ。
今のところクラーケンの姿は見えないわね。
アタシの動きを見て、他の乗組員達も同様に海面を覗き込みクラーケンの姿が無いか見回っている。
「……クラーケンの姿は見えません……」
「こっちも……」
乗組員達が大男の方をに向かって各自報告をしている。
一通り聞いた大男は少し沈黙をして口を開いた。
「…………奴は逃げたようだな……野郎ども! 危機は去ったぞ!!」
《わあああああああああああ!!》
乗組員達の歓声が響き渡る。
その歓声にアタシは戦闘態勢をといてメイスをしまった。
良かったわ、なんとかなって。
そう安堵していると大男がアタシの傍まで駆け寄って来た。
「お客さん! ありがとうございます! 本来なら船長からお礼を言うのが筋ですが、今は気絶しているので代わりに副船長の俺からお礼を言わせてください!」
そう言って大男は頭を下げた。
え? この人って副船長だったの?
てか、触手に吹っ飛ばされたのが船長だったの!?
だったら暴れているクラーケンに突撃なんてしないでよ……。
「えと、船長さんは大丈夫なんですか?」
「ああ、多少頭から血が出ていますが大丈夫ですよ! 心配しないでくだせぇ!」
船長の方を見ると乗組員が船長の頭に包帯を巻いていた。
……って、あれ? 船長の傍にアイリスさんの姿が見えないわね。
船長と一緒に吹っ飛ばされたのに……まさか!
「あの! アイリ……プレートアーマーを着た人はどうしたんですか!? 姿が見えないんですけど!」
「あの人ですかい? 船長を俺達に渡して船の中へと走って行きました」
「……へ? 走って?」
なら、たいした怪我は無かったようだけど……どうしてあの状況で船の中へと入っていったのかしら。
何かを見に行った? それとも何かを取りに行った? う~ん……わからない。
「よし! 野郎ども! 船の破損確認と片付けをするんだ!」
《おおう!》
副船長の号令で乗組員達が動き出した。
「あ、アタシも手伝いますよ」
今は1人でも多い方が良いだろうしね。
まぁアイリスさんの事は気になるけど、同じ船に乗っているんだ。
後で聞けばいいだけの話。
「いいんですかい? そりゃあ助かります。じゃあ甲板の上に散らばった物を他の奴と一緒に集めて下さいますか? 俺は船長を部屋のベッドに置いて来ますんで」
副船長は船長を軽々持ち上げて船の中へと入って行った。
じゃあアタシも言われた通り片づけをしますか。
しばらく破損した木片を集めていると、船の中からプレートアーマーを着た人が出て来た。
「あっアイリスさん!」
アタシは作業の手を止め、アイリスさんに駆け寄っていった。
「どこに来いっていたんですか、急に姿が見えな……」
アイリスさんのある個所を見た瞬間、アタシは言葉が詰まってしまいそこに目が釘付けとなってしまった。
その目線に何かを察した様で、アイリスさんはアーメットを撫ではじめた。
そして、ある場所でピタっと手が止まる。
手の止まった箇所は4日前に凹みを直したところ……恐らく船長を受け止めて、マストにぶつかった時だろう。
直したところが、前の時と同じように見事に凹んでしまっていたのだった。