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レインの書~航海・1~

 ◇◆アース歴9年 7月19日◇◆


 アタシとジョシュアは俺様の船6代目号という変な名前の帆船に乗り、北の大陸の港町ザレスへと到着をした。


「お待たせしました! ザレスに到着です! 下船の際、お荷物のお忘れない様にお気を付けくださいね!」


 船長の声が船内に響き渡った。


「ほら、ザレスに着いたんだから船から降りるわよ」


 アタシは船酔いをして、2段ベッドの下でダウンをしているジョシュアに声を掛けた。


「……うう……」


 駄目だ、これは動けそうには無いわね。

 はぁ仕方がないか……ジョシュアを背負って下船するとしよう。


「ほら、アタシの背に乗って」


「……ええ……もう少し……待っ――」


「よいしょっと」


 アタシはジョシュアを背負うと急ぎ足で甲板へと向かった。

 ジョシュアには悪いけど、今は早く船から降りたいからだ。


「乗船ありがとうございましたー! またご利用宜しくお願いしまーす!」


「お願いしまーす!」


 甲板に出ると、頭に包帯を巻いた船長とオーウェンの様な大男が笑顔で見送ってくれた。

 いや~……もうこの船に乗る事は無いわ……本当に。

 とりあえず2人に愛想笑いを見せて船を降りた。


「……さて……」


 船を降りた早々辺りを見わたし、アタシは近くの路地裏へと入って行った。

 そこでジョシュアを下ろして物陰から俺様の船6代目号を見張り待つ事にした。


 ある人物が船から降りて来るのを……。




 ◇◆アース歴9年 7月17日◇◆


 今日はとても運が良かった。

 ヘイデンに着いたその日にザレスへと向かう船があったからだ。

 アタシ達はさっそく乗船券を買い港へと向かった。


「この船でいいの?」


「うん、この船だよ」


 俺様の船6代目号、大きな帆船だわ。

 にしても……気になるわ。

 乗船券の売り場で船の名前を聞いて、初代から5代目はどうなったのか聞いてみた。

 でも販売員は何も言わず……一体何があったのかしら。


「乗船ありがとうございまーす!!」


「あざーす!!」


 ガタイがよく髭もじゃで右目に眼帯を付けた男とオーウェンの様な大男の2人が俺様の船6代目号へと誘導していた。

 船へ案内よね? まるで客寄せみたいなんですけど。

 元気なのはいいとは思うけど、これはちょっと違う気がする。

 船の名前にこの船員……これじゃあ船長も同じような人かもね。

 不安を持ちつつもアタシ達は、俺様の船6代目号へと乗船をした。


「あら、思ったより船の中は綺麗に清掃されているわね」


 何となく汚れがあったり、どこか壊れてたりしてそうだったのに完全に杞憂だったわ。


「流石にそれは失礼だと思うよ……えーと……210番号は……あったあった」


 船内の通路を進み、210と数字の書かれた部屋の前でジョシュアが足を止めた。


「あ、部屋だったんだ」


 アタシはてっきり大部屋で雑魚寝をすると思っていたわ。

 だから、船に乗っている間も仮面を着けていないといけないと思っていた。

 これだったら部屋の中に居る時は仮面を外しても問題は無いわね。


「そうみたいだね(やった! 船旅の間はレインと2人っき――)…………っ!?」


 ジョシュアが扉を開け、部屋の中を覗いた瞬間固まってしまった。


「……?」


 何があるんだろうと、ショシュアのその後ろから部屋を覗いてみた。

 室内には左右に置かれた2段ベッドと荷物を入れる棚が置いてあった。


「…………なんだ、4人部屋だったのね」


 だとすると、アタシ達以外に後2人はこのへに入って来るのか。

 結局船に乗っている間も仮面を外せないわね。

 仕方がないとはいえ、ちょっとがっかりだわ。


「……ように……ませんように……」


「?」


 ジョシュアがブツブツと小声で何か言っている様な……。


「誰も来ませんように誰も来ませんように誰も来ませんように誰も来ませんように誰も来ませんように」


 なんか呪文のように同じ事を何回も言って祈っている……。

 どうやら、ジョシュアもアタシと同じような事を思っている様ね。

 でもだからと言って、そこまで必死になる事は無いと思うんだけどな。

 そんなジョシュアを無視して、アタシはベッドに腰を掛け部屋の窓から外を見た。

 と同時に船が動き出した。


「どうやら、出航したみたいね」


「誰も来ませんように誰も来ませんように誰も来ませんように誰も来ませんように誰も来ませんように」


 まだブツブツと唱えてるよ……。



 船が動き出してしばらくしても、この部屋に他の人が入ってくる気配がない。


「……これってボク達以外、この部屋に入って来る人はいなさそう?」


「……ぽいわね」


 どうやらジョシュアの祈りが届いたみたいだわ。


「――よっしゃああああああああああああああ!!」


 ジョシュアが両手を上げてめちゃくちゃ喜んでる。

 そこまでして仮面を外したかったのか……。



 俺様の船6代目号がヘイデンを出港してしばらくたった。

 今の所、船は順調に進んでいる。

 問題があるとすれば……。


「……うう……」


 さっきの大喜びはどこへやら……ジョシュアは船酔いのせいで2段ベッドの下の段で寝込んでいた。

 アタシは船酔いはしないタイプだからなんともないけど、ジョシュアは船には弱かったらしい。

 今まで見た事がないほど顔色が悪くて憔悴しきっている。


「……うう……ぎもじわるいよ……」


「……」


 果たしてジョシュアは約3日の航海を耐える事が出来るのかしら。

 それが一番の心配事だわ。

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