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レインの書~看病・3~

 アイリスさんの容態も落ち付き、空いていた個室へと移された。

 それにしても、また病院の個室か。

 ついこの間、退院したところなのにな……まぁアタシ自身の事でもなければ、病院も違うんだけど気分的に戻ってきた感が強い。


「もう大丈夫そうだね。それじゃあ、俺は店に戻ります」


「あ、はい。色々とありがとうございました」


 この店員さんにはお世話になりっぱなしね。

 病院へと案内をしてくれたり、囮になってくれたり。

 おまけに病院の手続きには慣れているからと、アイリスさんの入院等の手続きまでしてもらった。

 正直、病院の手続きには慣れているという言葉に引っかかったけど……そこは聞かない事にした。

 さっきの不法侵入の件もあるし、これは聞いたらいけないと思ったからだ。


「いえいえ。では」


 店員さんが病室から出て行った。

 日が暮れ病院内は静かで、病室内はアイリスさんの寝息だけが聞こえる。

 にしても、寝顔のアイリスさんを見ているとなんかラティアちゃんに似ている気がするな。

 もしかしてラティアちゃんがアタシみたいに変装を……。


「……まさか……ね……そんな事があるわけないか」


 ラティアちゃんはデュラハンに操られ、連れて行かれた。

 そんな彼女が必要もない変装をしてこんな場所に居るわけがないわ。

 ……ラティアちゃんは無事かしら?

 あのデュラハンに変な事されてなければいいけど。

 もし傷物なんかにされていたら100回ブン殴っても許せないわ。

 おっと、デュラハンで思い出した。

 診察の為に脱がしたアイリスさんの鎧が雑に置かれているから、ちゃんと並べておかないと。

 戦士にとって大切なものだしね。

 とはいったものの、病院に防具立てなんてあるわけがないし……仕方がない、今は床に置いて明日にでも下に敷く物を買ってこよう。


「……あら? アーメットが無い」


 あっそうだ、アーメットはあのお店で外していたわ。

 で、その時に倒れてしまったからアーメットはお店の中に落ちているはず。

 ん~この時間に取りに行くのもな……まぁ明日はアタシとアイリスさんの荷物を取りに行かないといけないと思っていたし、その時で良いか。




 ◇◆アース歴9年 7月9日◇◆


 朝日の光が顔に当たり、アタシは目を覚ました。

 と同時に体のあちこちが痛む。


「…んん~……体が痛いわ……」


 この個室に簡易のベッドは無く、アタシは床で横になる羽目になった。

 野宿でベッド無しに慣れているとはいえ、堅い床に何も敷かずに寝るのは流石にきつい。


「……うウ…………え? ……あレ……ここハ……?」


 アイリスさんも目を覚ましたみたいだ。

 まだ顔が赤いけど、昨日よりは大分ましね。


「おはようございます。気分はどうですか?」


「……?」


 アイリスさんがアタシの声に反応してこっちを向いた。


「……え? ソフィーナ……さン……? ……え? ……ん?」


 どうやら混乱している感じだわ。

 それもそうよね、目が覚めたら知らない部屋で寝ていて、横には仮面を着けた奴がいるんだし。

 同じ状況ならアタシもこうなってしまうわ。

 1からちゃんと説明しないと。




「――という訳なんです」


 アタシはお店に倒れた後の事を簡単に説明した。

 庭に侵入した事は流石に言えないのでそこは省いて。


「……そうだっ……タンデ~スカ。ゴ迷惑ヲオカケシマ~シタ」


「いえ、気にしないで下さい」


 それにしても、相変わらずの独特な口調ね。

 出身が気になるけど、今はそんな事どうでもいいか。


「あの、アタシの荷物とアイリスさんの荷物を取りに行こうと思うのですが、どこの宿に泊まっているんですか?」


 今はこっちを聞くのが重要。


「エッ? イヤ、ソコマデゴ迷惑ヲオカケスルワケ~ニハ……」


「ですから気にしなくていいですから。教えてください」


「……サッギニ泊マッテイマ~ス」


 サッギ?

 あら、アタシが止まろうと思っていた宿だわ。

 となれば場所は占い師が知っているわね。


「わかりました。では、ちょっと行ってきますね」


 まずは占い師の家に向かいましょう。



「戻りました」


 占い師の家に戻ると、占い師は朝ご飯を済ませた後なのかお皿を洗っていた。

 そういえばアタシまだ朝ご飯食べてなかったな。


「ん? ああ、戻ってきたかい。事情は坊主から聞いておるよ、荷物を取りに来たのかい?」


 良かった、店員さんに頼んだことはちゃんと伝わっていたみたいね。


「はい、そうです。後、そのサッギの場所を教えてもらえますか?」


「サッギの場所を?」


「はい、アイリスさんがサッギに泊まっているそうなので荷物を取りに。それと、ついでにアタシもそのままサッギに泊まるつもりなので、何かあれば病院かサッギのどちらかに連絡をください」


「わかった。なら、サッギにはわたしが案内しよう。わたしから説明した方が、倒れたお嬢さんの部屋に入りやすいじゃろうしな」


「あっそうか……それは助かります! すぐ荷物を持ってきますね!」


 その辺りの事をよく考えていなかったわ。

 そうよね、アイリスさんの荷物を取りに来たから部屋に入れて下さいって言っても怪しまれてしまうだけだ。

 何でこんな単純な事にも気が付かなかったかな。

 アタシは急いで自分の荷物をバッグへ詰め込み、占い師と一緒にサッギへと向かった。


 サッギに到着すると、占い師のおかげで物事がスムーズに進んだ。

 アイリスさんの部屋へ入る事が出来、荷物を無事に回収。

 そのまま、アタシの部屋も用意してもらえる事になった。

 ただ、流石に今すぐに部屋には入れないので両肩に食い込んでいる荷物は一時的に病院へと持って行かないといけないけどね……こればかりは文句を言っても仕方ないか。

 占い師と別れ、アタシは重い荷物を持ち病院へと戻った。



「……はイ。わかりましタ」


 アイリスさんの個室前まで戻ると、中から話し声が聞こえた。

 誰か来ているのかしら?


「アイリスさん、話し声が聞こえたけど誰か来て……あれ、誰もいない」


 個室の中には上半身をおこしているアイリスさんが1人いるだけ。

 アイリスさんの独り言? それともアタシの空耳……?


「エッ……ソッソレハオカシイデスネー。アッモシカシタラ寝言ヲ言ッテシマッテイタノカモシレマセーン」


 何を言っているんだろう、この人は。


「寝言って……アイリスさんは思いっきり起きているじゃない」


 やっぱり、まだ調子が悪いようね。


「また熱が上がったんじゃないですか? ほら、ちゃんと横にならないと駄目ですよ」


 アタシはクソ重い荷物を下ろし、アイリスさんの傍まで足早に向かった。

 そして体を支えつつ横へとアイリスさんを倒した。


「スミマセ~ン」


「いえいえ」


 布団もちゃんとかけてっと……これでよし。


「……アノ……急ナ事デスケド、オ願イガアルノデスガイイデ~スカ?」


 お願い? なんだろう。


「はい、なんでしょうか?」


「ソノアーメットノ凹ミヲ治シタイノデ~ス」


「へ? アーメット?」


 アイリスさんの目線を追うと、床に横たわっている鎧の上にアーメットが乗っていた。

 あれ、おかしいな……確かに昨日は無かったのに。


「あの~アーメットって昨日は無かったんですが……」


「先ホド、店員サンが持ッテ来テクレタノデ~ス」


 あ~なるほど。

 アタシが出掛けている時に持って来てくれたのか。

 ……というか、アーメットの存在を完全に忘れていたわ。

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