アイリスさん、どう見ても熱があるわよね。
目も虚ろだし。
とはいえ、ちゃんと触って確認した方が良いか。
「――っちょっと失礼しますね!」
「ふエ……?」
アタシはアイリスさんの傍に駆け寄り、手をおでこに当ててみた。
うん……思った通りだ。
「かなり熱い。高熱がありますね」
恐らく38……もしかしたら40度はあるかもしれない。
「アイリスさん、よくそんな状態で普通に立っていられますね……」
こんな高熱を出していたら、立っていられるわけがない。
熱に強いタイプなのかな。
いや、それにしてもふらつく位はしそうで――。
「……へッ? それはどう――あふッ!!」
「アイリスさん!?」
って、言った傍からアイリスさんが倒れちゃったよ!
アタシが余計な事を言っちゃったせい!?
「お嬢さん! 大丈夫かい?」
「お客さん!」
占い師と店員さんがアイリスさんの傍に駆け寄ってきた。
なんかごめんなさい! この状況を作ったのはアタシのせいかもしれません!
「お客さん! しっかりしてください!」
「お嬢さんや!」
2人がアイリスさんに呼び掛けている。
そうだ、反省するのは後。
今はアイリスさんが最優先だ。
「アイリスさん! アイリスさん!」
アタシはアイリスさんの体を揺らしながら必死に呼びかけた。
「……だっ大丈夫……でス……」
いや、誰がどう見ても大丈夫じゃないよ。
意識が朦朧として来ているのか、アタシと目線が合わない。
これは駄目だ、病院に連れて行かないと。
「全然大丈夫じゃないですよ……これは危険だわ。あの、病院の場所を教えてください! アタシが病院まで運びます!」
アタシは急いでソフィーナさんを背負った。
……うっプレートアーマーを着ているとさすがに重いわね。
けど、そんな弱音は吐いちゃ駄目だ。
頑張って走って行かないと!
「ああ、病院ならこの店を出て……」
占い師が病院の場所を説明してくれようとしている。
大丈夫かな……初めて来た町だから、わかりやす場所にあればいいんだけど。
「ちょっと待った。この辺りはややこしいから俺が道案内をするよ」
おおっ! それは非常に助かる。
優しい人で良かった。
「ありがとうございます! アイリスさん、もう少しの辛抱ですからね!」
「こっちです!」
アタシと店員さんは店の外へと飛び出した。
「じゃあ俺について来て下さいね」
「はい!」
店員さんが走り出し、アタシはその後を追いかけた。
ややこしいって言っていたから見失わない様に気を付けないと。
路地を右に曲がり左に曲がり、穴の開いた壁を通り抜け……。
「……って! ここって人様の庭じゃないんですか!?」
穴を出た場所は手入がされた芝が広がっていた。
炭鉱の町にもこんな立派な庭に大きなお家があるんだ。
……これ、不法侵入になるんじゃ……?
「大丈夫です!」
大丈夫って……店員さんの知り合いの家なのかしら?
ハッ! まさか、店員さんのお家――。
「見つからなければ、何も問題はありませんから!」
「はい!?」
完全に赤の他人の家だった!
というか、見つからなければって見つかったらやばいって事!?
そんな所をを通らないでよ! こっちは病人を背負っているのよ!
「……ん? おい! そこのお前たち何をしている!!」
やばっ私兵らしき兵士に見つかっちゃった。
「チッ! ここを突っ切れば目の前が病院だっていうのに……よし、俺はあいつを引き付けますので、お客さんはその間に塀を超えて病院へ向かってください!」
塀を超えてって、ちょっと待って。
高さがアタシの身長の2倍くらいあるんですけど!
アタシ1人ならともかく、アイリスさんを背負っている状態であれを超えるのは無理があるわよ!
「……生きてまた会いましょう、ご武運を! おら、ノロマ! こっちだよ!」
「なっ! 馬鹿にしやがって!」
店員さんが兵士に挑発をして反対側へと走って行った。
生きて会いましょうって、一体何処の敷地に入り込んだ訳?
というか、この塀をどうやって登れば?
「…………いや、もうあれこれ考えても仕方ない。今はアイリスさんだ!」
流石に塀に穴を開けるわけにもいかない。
となれば、ジャンプで飛び越えるしかないわね。
着ている服の一部を破り、アイリスさんを落とさない様にアタシの体に結び固定をした。
そして塀に向かって勢いよく走り、手前で思いっ切りジャンプをした。
「――くっ!」
が、やはり人を背負っている状態だと塀の上までは届かない。
駄目だと思った瞬間、突風が吹きアタシの体が押し上げられた。
そのおかげで塀の上に手が届き、よじ登ることが出来た。
「よいしょっ! ……はあ~はあ~……助かった」
あのタイミングで突風が吹くなんて運が良いわね。
……あ、病院らしき建物が見える。
本当に目の前にあったのね。
アタシは塀から飛び降り、病院へと駆け込んだ。
(ふぅ~……まったく危ないな~。ラティを背負っているんだから気を付けてよね)
※
「ふむ……」
お医者さんがアイリスさんの体に聴診器をあて診察をしている。
幸いにも今日は他に患者はいなくて、すぐにアイリスさんを診てくれる事になった。
「……ん? ……これは……」
お医者さんが何かに気付き、アイリスさんの左腕を凝視し始めた。
そこには小さい赤い点が1つあるわね。
あの赤い点は一体なんだろう。
「なるほど……原因がわかりました」
「なんですか?」
「サソリノミというノミに刺されたせいです」
「サソリノミ……?」
って何だろう。
名前的にノミっぽいけど……ジョシュアなら知っているかしら。
「この辺りに生息している固有のノミです。毒素は弱くて刺されると痒み程度で済むのですが、体質によってはこの方の様に高熱が出てしまうんです。これなら、薬を投与すれば容体も落ち付きますよ」
そう言ってお医者さんはアイリスさんに注射を打ってくれた。
へぇ~そんなノミがいたのね。
アタシも刺されるとどうなるかわからないから、気を付けないといけないわ。
「それと疲労も溜まっているのも悪化の原因でしょうね……様子見もかねて5日ほど入院となりますが、宜しいですか?」
5日か。
ん~アタシが勝手に決めちゃってもいいのかな。
とはいえ、入院が必要と言われたからには仕方ないし……よし、決めた。
「わかりました。よろしくお願いします」
アタシの独断で申し訳ないけど、アイリスさんにはちゃんと体を治してもらおう。
で、入院中はアタシがアイリスさんの看病をしよっと。
ジョシュアや水晶待ちで1週間はこの町から出られないし、何だかアイリスさんを放ってはおけないしね。
「――お客さんは大丈夫ですか!?」
診察室にあの店員さんが入って来た。
どうやら無事に逃げ切れたようね。
丁度良かった、この人に事情を話して付き添いの事を占い師に伝えてもらおう。