まさか、こんな所でオリバーとの繋がりが出て来るとは思いもしなかった。
いやー俺の山勘が当たるとはな。
(アース様、それは本当ですカ?)
ラティアが老人に聞こえないような小声で聞いて来た。
まぁ信じられない気持ちもわかる。
『ああ、間違いない。このミミズがのたうち回ったかのような独特な字……これはオリバーにしか書けないんだ』
(はあ? こんな下手くそな字、見ながらなら書けるでしょう)
今度はエイラが小声で聞いて来た。
オリバーの字を知らなければそう思うわな。
『確かに見ながらなら同じように書ける。俺もやってみた事があるしな……けど、それだと字にはならず、ただただ乱れた線にしかならなかったんだ。つまり、文字として読めなかったんだよ』
あの時は他の3人も挑戦してみたけど、結果は同じだった。
あれは本当に不思議な出来事だった。
(なにそれ? 他人が書くと文字として読めないって? どういう事? わけがわかんないよ)
姿は見えなくてもエイラの混乱した様子が声でよくわかる。
その気持ちよくわかるぞ。
「……ふむ。この依頼書を見ても、まだワシを信じられないか?」
うーん……確かに依頼書は本物と考えていいだろう。
だが、この爺さん自身を信じていいのだろうか。
これは難しいところだな。
(えト……どうしましょウ)
ラティアも困惑している感じだし、答えを出さないとな。
依頼書は偽造ではないものの、盗んだ可能性も考えられる。
他には何かしらの罠の可能性もある。
しかし、どんな形にしろオリバーの情報が目の前にあるのも事実だ。
それを逃したくはない……ならば……。
『とりあえず、この爺さんの話を聞いてみようか。その内容で判断をしよう』
さあ、この爺さんは一体何を言って来るかな。
「(わかりましタ)いえ、信じまス。オリバー様の事を教えて頂けますカ?」
「初めからそうしてほしかったがな……まぁいい。オリバー様の事を教えてもいいが……2つ条件がある」
爺さんが依頼書をポケットにしまいながらボヤいている。
……条件ねぇ。
なんか急に胡散臭く感じて来たぞ。
その条件次第でこの場から逃げる方がいいかもな。
「条件、ですカ」
「そうだ。まず1つ目はワシの護衛をしてほしい。この先にある炭鉱の中から鉱石を採掘しに行きたいんだ」
は? どうして、そんな事をしないといけないんだ。
ここは炭鉱の町だから、鉱石くらい簡単に手に入るだろうに。
「えト、どうして鉱石を採りに行かれるのですカ? この町なら鉱石くらい普通に手に入れられると思うのですガ……」
ラティアも俺と同じ事を思っていたようだ。
「その鉱石はちょいと特殊でな。ぱっと見だと普通の石と見分けがつかんのだ……この町でも、ワシを含めて数人しかその区別が出来ん。で、最近は炭鉱内にロックワームが出没するようになってしまってな。だから、護衛をしてくれる人を探していたところだったんだ」
ロックワームか。
皮膚が岩みたいに堅くて大人の腕くらいのミミズ型のモンスター。だが、ロックワーム自体はそこまでは強くない。
とはいえモンスターには違いが無いから、爺さん1人だと危ないな。
「なるほド……もう1つの条件というのハ?」
「鉱石の加工した物をワシの代わりにオリバー様に届けてほしいんだ。最近、歳のせいか腰が痛くてな……丁度、届けるのが辛いと思っていたんだよ」
護衛に関したら危険があるからだとわかる。
しかし、その理由だけで俺達に届けるのを頼むのはおかしくないか。
「……え? 私がですカ!? ……あの~私が言うのもなんですけド、今日初めてあった人にそんな事を頼んでいいんですカ?」
「全然構わん、依頼書の物は区別しにくいというだけで珍しい物じゃないからな。売り飛ばそうとしても、どこも買い取ってもくれんわ」
珍しくもないか。
じゃあ、何でオリバーはそんな物を依頼したのだろう。
うーん……気にはなるが、そればかりはオリバー本人にしかわからない事か。
「仮に君が持ち逃げをしても、鉱石さえあれば簡単に作り直せるから痛くもかゆくも……あっそうなると、ワシが届けに行かないといけなくなるから痛いところはあるか……」
……聞いている限り、俺達を騙して爺さんが得する事は全くないな。
これは信用しても大丈夫そうだ。
『ラティア、爺さんの条件を飲む事にしよう』
「はイ。わかりまし――」
「デュラハン!?」
『――っ!?』
背後から女性の声が聞こえてきた。
この聞き覚えのある声、そしてデュラハンと叫ぶのは現状1人しかいない。
レインだ! レインの奴が俺達の後ろに居る!
『ラティア! 今すぐ俺の頭を外して自分の顔を見せるんだ! 早く!』
あいつは人の頭があるかどうかで判断しているみたいだからな。
なら、この方法が一番手っ取り早い。
また突進されたらたまったもんじゃないぞ。
「はイ! ――違いまス! 私はれっきとした人間でス!」
ラティアは声をあげつつ俺の頭を持ち上げて、自分の顔を見せた。
ごめんな……素顔を出したくないのに、こんな事をさせてしまって。
「……頭が……ある?」
ふぅ……声に落ち着きが戻った。
白の神殿の時の様に誤魔化せたみたいだな。
「ありまス! この通リ!」
ラティアが振り返ると、そこに居たのはレインではなかった。
そこに居たのは、フードを被り顔の上半分を覆ったアイマスク状の白い仮面をつけた女性。
『……ソフィーナさん?』
この格好をしているのは、彼女しかいない。
なんだ……びっくりさせないでくれよ、心臓が飛び出るかと思ったわ。
にしても、喉が治っているみたいで何よりだ。
本当の声はレインにそっくりなんだな。
レインかと思……って、ちょっと待てよ。
なんで、ソフィーナさんは俺を見て【デュラハン】って叫んだんだ?