(まぁ~しょうがないぢゃん。ここまで馬車が登ってこれるなんて知らなかったんだしさ。ほら、2人とも元気を出して!)
トボトボとヴァルガの町中を歩く俺達の耳元で、エイラの励ましの言葉をかけて来てくれた。
それはありがたいんだけど……やっぱり、頑張って登って来たのに馬車で簡単に来れましたっていうのは精神的に来るものがあるよな。
『……とはいえ、そうだよな……気落ちをしていてもいられないよな』
そう俺達は登山をしに来たわけじゃない。
ここに来た目的はオリバーの情報を得る事なんだ。
まぁここで情報を得られる保証はないんだが。
『ラティア、大丈夫か?』
「あっ……はイ……大丈夫でス……はあ~……」
弱々しい声で返事が返って来た。
全然大丈夫そうには思えないんだが……元気がないのも仕方ないか。
俺は精神的にダメージを負ったが、ラティアの場合はそれに加えて体の疲労も加わっているだろうしな。
んーだとすれば、ラティアを宿屋で休ませて聞き込みをした方がいいだろうが……でもなーそれはそれで問題があるんだよな。
「それじゃあ、行ってきます」
「今日は終わったら飲みに行こうぜ」
「いらっしゃい~この野菜は新鮮で安いよ~」
「きゃっはは~こっちこっち~」
「待て待て~わ~~!」
ヴァルガは今まで行ってきた何処の町より人でいっぱいだ。
炭鉱住宅や食料品店、雑貨屋に鍛冶屋、大小の酒場が至る所にある。
子供達も元気に走り回っていて、活気のある感じもするが……。
「ぐごーぐごー……むにゃむにゃ……」
「おじさん寝ているのか~? …………ちっしけてやがるな、この親父……」
半面、昼間から道端では酔っぱらいが寝ているし、スリもいる。
おまけに……。
「おい! てめぇ! 今なんて言った!?」
「その耳の穴詰まっているんじゃねぇか? そこに突っ立っていると邪魔んだよ、ボケ! と言ったんだよ!」
「はあ!? 誰に向かって言ってるのかわかってるのか!?」
「知らねぇよ!! やんのかコラァ!!」
「お、喧嘩だ喧嘩だ!」
「いいぞ! やれやれ!」
その横で別の酔っぱらいが喧嘩をしていて、野次馬も歓声を上げている。
これはこれで問題だけど、一番の問題なのは……。
「ひっひひ……では、こちらに……」
「……ああ」
なんか、明らかに怪しい人達が路地裏に入って行くのを見かけるんだよな。
……うーん、ヴァルガの裏の顔が見え見えっていうもどうなのよ。
あの門番達も帝国兵じゃなさそうだったし、関与していないからこうなってしまっているのだろうか。
あまりこういうのは言いたくないが、宿屋は安全でちゃんとした所を見極めないと駄目だ。
でないと、寝込みを襲われる可能性も十分考えられる。
ラティアの傍にはエイラがいるとはいえ、それで何かしらの問題が起きて大事になってしまうのもまずい。
この町に居る限り、出来るだけラティアと一緒に居る様にしよう。
『……よし……。ラティア、すまないが俺の中に居る状態から宿屋の場所を聞いてもらえるか?』
文字でも伝える事が出来るが、やはりそれだと手間がかかるんだよな。
「え? それは構いませんけド、オリバー様の情報を聞かなくていいのですカ?」
『別に急いでるわけでもないし、この町でオリバーの情報を確実に得られるわけでもない。なら、さっさと宿屋を決めて休息をした方がいいだろ』
「……わかりましタ」
よし、そうと決まれば宿屋探し開始だな。
しかし、ラティアの声は聞く人にとってとてもつらそうに聞こえるらしい。
「あノ……ちょっと、お聞きしたい事があるのですガ……」
「ん? 聞きたい事? ああ、病院ならこの先を……」
これで5人目。
聞きたい事があるというと、真っ先に病院の場所が出て来る。
おかげでヴァルガの病院はどこにあるのかを覚えてしまったぞ。
「ちっ違いまス……宿屋の場所をお聞きしたいのでス。あと、オリバー・ジョサム様について何か知りませんカ?」
宿屋の場所だけでいいと言ったのに、ラティアはついでですからとオリバーの事も聞いてくれていた。
そこまで気にしなくてもいいのに。
「オリバー・ジョサム? あの英雄五星の? んーすまないが俺は知らないな。けど、宿屋だったらわかるぞ、この道を真っ直ぐ進んだところにある。名前はボロボロだ」
「そうですカ。ありがとうございまス」
宿屋ボロボロか……名前の響き的になんか嫌だな。
他に聞いたのは、ミツ、サッギ、ボリョク、黄金亭。
全員が違うところを言うのは困ったな。
時間的にもそろそろ宿屋を決めないとまずいし……仕方ない、とりあえずこの5カ所を回ってみて良さそうなところ選ぶとしよう。
『ラティア、聞いた5カ所を回ってみようか』
「あ、はイ。わかりましタ」
じゃあ最初はボロボロに向かうか。
そう思い、歩き出そうとすると1人の男の老人が俺達に声を掛けて来た。
「君、オリバー様を探しているのかい?」
さっきの俺達の話を聞いていたのか。
聞くまでもない、次に出る言葉は間違いなく……。
「ワシは知っておるよ」
やっぱりな。
さっきもいたんだよな……教えてほしければ10万ゴールドを寄こせって奴が。
流石に10万ゴールドは払えないと言ったら5万になり1万になり5千になり、最終的には逆切れして去って行った。
ラティアはもしかしたら本当に知っているのかもと言っていたがそれはない。
案あ奴は金をうけとったら逃げるか、もしくは適当な事を言うだけに違いないのだから。
この爺さんもその類だろう。
「何故なら、ワシはオリバー様から商品の依頼を頼まれているからの」
……今度は依頼主設定か。
聞くまでもない、スルーしてさっさと宿屋に向かおう。
「嘘じゃないぞ。その証拠にさっき届いたのが……あったあった、ほれ」
そう言って老人がポケットから依頼書らしき紙を取り出して俺達に見せて来た。
こんな紙が証拠に……。
『――っ!!』
その依頼書を見た瞬間、俺は言葉を失った。
(こんな紙きれが証拠? ただ字が書いてあるだけぢゃん)
「確かに何かの依頼書みたいですけド。……? どうかしましたカ?」
『…………本物だ』
「(え?)」
共に旅をしたから俺にはわかる。
まねしようにもまねできない、ミミズがのたうち回ったかのような独特な字。
なのに、何故か読めてしまう謎過ぎる字。
これは間違いない! いや、間違えるはずがない!!
『この依頼書を送ったのは本物のオリバーだ!』