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レインの書~取逃・2~

 どうしよう。

 アタシってこういった占いは信用していないのよね。

 しかも言っちゃ悪いけど、この人の見た目からなんかぼったくられそうなのよね。

 1回占うだけで数万ゴールドとか、あの水晶を何十万ゴールドで買えとか……。

 だから、こういうのは聞こえなかった振りをして素通りが一番なんだけど、思いっきり目が合っちゃっているからそれは出来ない。

 このまま無視して行ってしまうというのは気分的に何だか嫌だし。

 ん~どうにか逃げる方法はないか……あ、待てよ。

 見た目は占い師っぽいけど、それはアタシの勘違いでこのおばあちゃんは全く違う……。


「探し物なら、この水晶で見つけてあげましょうか?」


 ……占い師だ。

 これは間違いなく占い師ですわ。

 はぁ~仕方ないな~、ちょっとだけ相手をしよう。

 アタシは占い師の傍まで近づき。


「いくらで占ってくれるんですか?」


 まずは、声を低めに出してけん制。

 これで様子見をして、とんでもない値段を言い出したら怒ってこの場から去ろう。

 で、それが無理そうなら全速力で走って逃げよう。


「1回10ゴールドじゃ」


 10ゴールド……それは、安い……のかな。

 その辺りの相場がわからないけど、まぁそのくらいならいいか。

 ん~アタシの聞きたい事はデュラハンの居場所なんだけど、占いで聞いたところで仕方ないし、デュラハンの名前を出して余計な混乱を招く事もしたくない。

 だとすると、今知りたくて適当に聞ける事と言えば……。


「それじゃあ、宿屋って何処にありますか?」


 そう言うと占い師の動きがぴたりと止まり、アタシの顔をジッと見て来た。

 え? なに? なんなの? どうしてアッタシの顔を見るのよ。


「……お嬢さん、それは占いで聞く事じゃないじゃろ」


「……あっ」


 確かに占い師の言う通りだ。

 いくら適当に聞くとはいえ、何を聞いているんだよアタシ。


「ちなみに、宿屋はこの道を真っ直ぐ行って突き当りを左に曲がった所にあるぞ」


 教えてはくれるんだ。

 それはそれでありがたい。


「あっありがとうございます。えと、それじゃあ……明日の運勢を占ってもらえますか?」


 これならいいでしょう。

 当たり障りのない質問だしね。


「ふむ、明日の運勢じゃな? ゴホン……エマタセミヲイラミ! ヨウショイス! ヨウショイス!」


 占い師が訳の分からない呪文を唱えながら、台の上にある丸い水晶に手をかざした。

 そして、水晶が徐々に光り出した。


「おお」


 演出が凝っているわね。

 つい声が出ちゃったわ。


「カアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 占い師の叫びと共に光っていた水晶の光が収まっていく。

 終わったのかな?


「なるほどのぉ……占いの結果が出たのじゃ」


 はてさて、一体何を言われるのかな。

 信じてはいないけど、悪い結果が出ると流石に気分は良くない。

 いい結果でありますように。


「暗闇に注意、足元に注意、動物に注意、勘違いに注意、短気は損気と出ているのぉ」


「…………え? それだけですか?」


「そうじゃが?」


 そうじゃがって……。


「あの、何かアドバイスとかは……」


「ない。わしは水晶から見えた結果を教えるだけじゃ」


 ええ……何よそれ。

 普通占いってこうこうで運気が下がっているから注意しつつ、こうすれば運気が上がるとかあるものでしょ? これじゃあ、ただ単に注意喚起の箇条を言っているだけじゃないの。

 しかも最初の注意4つはともかく、最後は占いじゃない気がするし……やっぱりインチキ占い師だったわね。

 もういいや、これ以上関わらないでおこう。


「ソウデスカ、アリガトウゴザイマシタ」


「うむ。で、探し物の方はなんじゃ?」


「? 宿屋でしたら、先ほど教えて頂いたのでもう大丈夫です」


「そうではなく、なにやら物……いや、人探しをしている様に見えたんじゃがな」


 どうして、そこだけ占い師っぽく言い当てるんだろう。

 でも残念ですね、人じゃないのよ。

 アタシが探しているのはモンスターなんです。


「……心当たりが無いですね」


 まぁ人で探しているといえば、デュラハンが追ってると思われるオリバーだけど……もうこの人に聞く事はない。


「……そうかい。まあお嬢さんがそれで良ければいいんじゃがな。では、代金は20ゴールドじゃ」


 はっ? 20ゴールドですって。


「いや、さっき10ゴールドって言ったじゃないですか」


 何でシレっと2倍になっているのよ。


「宿屋の場所を聞いたじゃろが」


「え? はあ!? あれも占いに入っているの!?」


 嘘でしょ、道案内が占いって……。

 そうしたら宿屋の場所を知っている人は全員占い師じゃない。


「そうじゃ。ほれ、さっさとお代を出しな」


 はぁ~やっぱりぼったくりだった。

 もういいや……ごねたところで仕方がないし、さっさと払ってしまおう。

 その方が絶対いい。


「……はい、20ゴールド」


「まいど」


 嬉しそうにお金を受け取る占い師。

 なんか、どっと疲れたわ。

 さっさとジョシュアの所に戻って宿屋に行こう。

 そしてすぐにでも寝たい……。



「占い師?」


「そうなのよ。声を掛けられて仕方なく占ってもらったら、適当な事を言われただけでお金を取られたわ……はあ~……」


 合流したジョシュアに先ほど起きた事を話した。

 ジョシュアは休んだおかげか、すっかり元気になっている。

 これなら自力で歩いてくれそうだし、宿屋へ運ぶ必要はないわね。


「そんなに嫌だったのなら、今急いでいます~とか言って逃げたらよかったじゃん」


「……」


 そうか、その手があった。

 そんな事すら思いつかなかったんて……もしかしてアタシも相当疲れているのかしら。

 そう思いながら重い足取りで宿屋へと向かうのだった。

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