……真っ暗。
……ここは……どこだろう?
《―――!》
……意識がぼ~っする。
……なにも考えられない。
《―――っ!》
……遠くの方で何かが聞こえる。
《――ンっ!》
……これは……声?
……一体、誰の……。
「―インっ!」
……どこかで聞いた事があるような……。
「レインっ!」
……ああ、ジョシュアの声だ。
声の主がわかると同時に、アタシの意識も徐々に戻って来た。
「……ううっ」
ゆっくりと目を開けると、目の前には今にも泣きそうなジョシュアの顔があった。
どうしてそんな顔をしているのよ。
「レイン! あー良かった、目を覚ました。もう心配させないでよ」
今度は安堵した感じで笑顔になる。
「……アタシは一体……痛っ!」
横になっていた体を少し動かした瞬間、全身に痛みが走った。
「ああ、動いちゃ駄目だよ。見た感じ大きな怪我はしていないようだけど……どこが痛んだの?」
どこがって……。
「……体全部……」
何で全身がこんなにも痛いんだろう。
う~ん、完全に意識がはっきりしていないせいか今の状況がよくわからない。
「全身か……やっぱり病院に行った方が良さそうだな。ちょっと待ってね、今痛み止めの薬を出すから」
そう言ってジョシュアは道具袋の中を探り始めた。
ふと上を見上げると 天井高くにぽっかりと穴が空いている。
そこから光が差し込みアタシ達を照らしていた。
「……穴……?」
……そうか、アタシはあの穴から落ちたんだ。
それで気を失って――。
「――っ! ジョシュア! デュラハンはどこ!? あだだっ!」
体を起こそうとして、また全身に痛みが走る。
そうよ、思い出して来た。
アタシはデュラハンを倒そうとメイスを構えて飛びかかった。
そうしたらアタシとデュラハンの間にサソリの様な人型モンスターが降って来た。
そして、そのモンスターが床を叩いた瞬間アタシの脚元が崩れたんだ。
「だから、体を動かしちゃ駄目だって。とりあえず、デュラハンはここにはいないよ。レインが落ちて、ボクはその後を追いかけて穴に飛び込んだわけ」
という事は、アタシの足元だけが崩れたって事?
そんな事がある? だって、床が崩れ落ちるほどの衝撃なのよ。
おかしいわよ、普通なら床全部が崩れ落ちて……あっ! そうか、わかったわ!
「けど、上の方はなにやら騒がしいけどね……破壊音がしたと思ったら穴から光が入ってきたり、強い風が――」
「デュラハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!! よくもやってくれたわねぇ!!」
アタシは立ち上がり、穴に向かって大声をあげた。
床に細工をして、アタシだけを落とすようにしていたんだわ!
こんな罠なんて使わずに正々堂々と戦いなさいよ!
それでも騎士のモンスターなの!?
「ふぅ~ふぅ~……あいたたた……」
怒りで体中を傷めている事を忘れていた。
つい立ち上がって、大声まで出しちゃったよ。
そのせいで、さっきより体中が痛い。
「……レイン、お願いだから少しは安静にしてくれないかな?」
ジョシュアが呆れた目でアタシを見て来る。
おっしゃる通りです。
「はい、痛み止めだよ」
「……ごめん。ありがとう」
アタシはジョシュアから痛み止めの粉薬を受け取り座り込んだ。
そしてふと、マレスで出会ったインチキくさい占い師の言葉を思い出した。
《暗闇に注意、足元に注意、動物に注意、勘違いに注意、短気は損気と出ているのぉ》。
暗闇に注意、足元に注意、動物に注意は見事に的中したわね。
……まさか、あの占い師って本物だったのかしら。
◇◆アース歴9年 6月22日◇◆
アカニ村を出発して1週間。
アタシ達はデュラハンの後を追い、砂の街【マレス】へと向かっていた。
だけど……。
「ぜぇーひぃーぜぇーひぃー……」
ジョシュアがフラフラになりながら砂の上を歩いている。
色々な不運が重なり、マレスまでは徒歩で行く羽目になってしまったからだ。
アタシは暑さに強い方だが、ジョシュアは違う。
かなり暑さに弱い。
「ジョシュア~がんばって~」
「う……うん……ぜぇーひぃーぜぇーひぃー」
あれじゃあ、いつ倒れてもおかしくないわね。
倒れたジョシュアをアタシが担いで、この砂漠を渡るのはかなり厳しい。
ここは焦らず、ゆっくりと休みながら進む方がいいわね。
※
そうしてゆっくりと進んだ結果、マレスに着いたのは辺りが薄暗くなった頃だった。
そして、着いた早々ジョシュアはダウンしてしまった。
「ここまで頑張ったし、こうなっちゃうのも仕方ないわよね……」
近くにあった木の下までジョシュアを運び、そこで少し休ませる事にした。
アタシはその間にデュラハンの情報を集める事にした。
「ん~……さすがにこの時間帯だと人もいないし、お店も閉まっているな~」
少し歩いてみたけど、アカニ村の時と同じ状況だわ。
これだとデュラハンの情報を集めるのは難しいそうね。
仕方がない、情報収集は明日にして先に宿屋を探そう。
そう思った時に声を掛けられた。
「お嬢さん……何か探し物のかい?」
声を掛けられた方向を向くと、そこには真っ黒いローブを羽織って頭巾で顔を隠した人が居た。
声からして恐らく老婆だろう。
その老婆の前には台があり、台の上に丸い水晶を乗せている。
いかにも占い師ですって感じだ。
アタシはその姿を見て即思ってしまった。
すごくインチキ臭い……と。