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アースの書~戦闘・1~

 ◇◆アース歴9年 6月22日◇◆


 アカニ村を出発して1週間。

 俺達3人は馬車を乗り継ぎ、砂の街【マレス】へと向かっていた。


「ぜぇ~ひィ~ぜぇ~ひィ~」


 俺の前を歩いているラティアがフラフラとしている。


「ぜぇ~ひぃ~ぜぇ~ひぃ~」


 俺の後ろを歩いているエイラも同じ様にフラフラとしている。

 この体でなければ、俺も2人の様にフラフラしていただろう。

 そう考えると暑さも寒さも感じないのは、この体の利点ともいえるだろう。


 現在、俺達は砂漠を歩いている。

 馬車は車輪が砂に埋まるという事で、マレスまで走ってはいない。

 話を聞くと砂漠に生息する大型のトカゲ、サンドリザードが引っ張って走るソリがここでの交通手段らしい。

 そのソリは3台あって、毎日マレスまで往復しているとの事。

 だが、タイミングが悪く1台目のソリはもう出発してしまった。

 しかも運の悪いことは重なるもので、2台目は板が破損し修理中。

 3台目は、ソリを引っ張るサンドリザードが逃げ出したので新たに捕まえるまで使えない。

 その為、待つ人も多くいつ俺達が乗れるのかわからない状態になってしまった。

 仕方なく一部の人達はマレスへ歩いて行く事になった。

 その一部に俺達も混じっているわけだ。


『ラティア、大丈夫か?』


「大……丈……夫……で……ス……ぜぇ~ひィ~ぜぇ~ひィ~」


 とてもそうには見えない。

 体力的な事も考え、最初俺がラティアを背負って砂漠を越えようとした。

 が、それは浅はかな考えだった。

 当然と言えば当然、俺の体は金属だ……だから太陽の熱でアッツアツの状態。

 ラティア曰、背中に乗った瞬間、鉄板の上に焼かれている肉の気分がわかったそうだ。


 ならばと俺の中へ入り、俺自身が歩いていく案をエイラは出した。

 が、これについては考えるまでもなく却下。

 俺の体はアッツアツの状態、なら体の中は外にいるよりも遥かに暑いに決まっている。

 それこそ、ラティアの命に関わる事だ。

 結局いい案が思いつかなかったので、ラティア自身が頑張って歩くしかなくなった。


『エイラ、大丈夫か?』


「大……ぢょ……夫……ぜぇ~ひぃ~ぜぇ~ひぃ~」


 こっちもそうには見えない。

 エイラの場合は姿を消し、空中を飛べば楽のはずなんだが……日焼けは嫌だ! という事で来ているローブを脱ごうとしなかった。

 そうなると人の目もあるので歩くしかない。

 砂に足を取られるせいなのか、普段から浮いているからなのか、エイラの体力もやばい事になっている。

 俺からすれば日焼けをしてでも楽な方を選ぶが……まぁこればかりは本人の考えだからどうしようもない。


『2人とも、もうちょいだがんばれ!』


「は~イ……」

「あ~い……」


 今の俺に出来る事は、こうして声を掛け励ますくらいしかない。



 そんなフラフラの2人を励まし数刻、やっとの思いでマレスに到着。

 魔術研究の施設について聞き込みをしたいが……。


「ぜぇ~……ひィ~……ぜぇ~……ひィ~……」


「ぜぇ~……ひぃ~……ぜぇ~……ひぃ~……」


 街に着いた途端に倒れたこの2人を連れて行くのは、あまりにも酷だよな。

 よし、だったら俺一人で聞き込みをしよう。


『2人は日陰で水分を取って休んでいてくれ、俺は魔術研究の施設について聞き込みをしてくるよ』


「ぜぇ~……ひィ~……え……? でモ……ぜぇ~……ひィ~……アース様ハ……声ガ……ぜぇ~……ひィ~……」


『大丈夫だよ、これを使うから』


 俺は買っておいた紙とペンを取り出した。

 ソフィーナさんと話した時に気が付いた方法。

 これなら声が出せなくても会話が出来る。

 どうして、もっと早く思いつかなかったのやら。


「ぜぇ~……ひィ~……なル……ぜぇ~……ひィ~……ほド……ぜぇ~……ひィ~……」


「アース~……ぜぇ~……ひぃ~……まかせたよ~……ぜぇ~……ひぃ~……」


 さて、そうと決まればまずはこの街に長く住んでいそうな人を探そう。

 えーと……あっ。


「らっしゃい、らっしゃいー」


 あの雑貨屋の男性は年配だな。

 まずは、あの人に聞いてみよう。


「へい、らっしゃい! 旦那、これとかお土産にどうですか?」


 傍によると、男性は手のひらサイズの木の人形を見せて来た。

 よくあるヘンテコな形をした土産物シリーズの一つだな。

 俺が欲しいのは土産物じゃなくて情報なんだよ。


『まずは場所を聞くか……【すみません、魔術研究の施設はどこですか?】っと……』


 文字を書いた紙を男性に見せた。


「え? なんで紙に……」


 男性は困惑している。

 俺もなにもしゃべらず、いきなり文字が書いた紙を見せてこられたら困惑するだろう。

 けど、今はこれしか方法が無いんだよ。


「ふむふむ……ん? あんた、魔術研究の施設に行くきかい!」


 男性は驚いているけど、どうしてだろう。


「やめておきな。今、魔術研究の施設は危険なんだ」


 危険?

 何かあったのだろうか。


『【それはどういう事ですか?】』


「1年ほど前に事故があったんだよ。魔晶石の実験に使っていたサソリ型モンスターが突然変異を起こして暴れたらしい。幸い、死人は出なかったがな……で、施設は今そいつの住処になっているわけだ」


 そんな事が起きていたのか。

 にしては、街は荒らされている感じがしないけど……。


『【この街に被害は出てなさそうですが】』


「ああ、よくわからんがそのモンスターは施設から外に出ようとしないんだ。帝国にも報告したんだが、ここは遠いし、閉じこもっている様なら急を要する物じゃないって判断されて後回しにされてしまったらしい」


 なるほど。

 帝国の判断……というよりは、相談を受けた奴の判断っぽいな。

 いるんだよなーこういう面倒くさがりの奴。

 あれ? こういう時の為にオーウェンの協会があるんじゃないのか?


『【どうして、オーウェンの協会に頼まないのですか? モンスター退治を引き受けてくれるはずですが……】』


「へぇ、そういった協会があったのかい。それは知らなかったな」


 オーウェン……もっと営業を頑張らないと駄目だぞ……。

 にしてもモンスターを使っての動物実験か。

 なら、オリバーはとっくの前に施設から出ているのは間違いないな。

 オリバーはそういった実験や研究を嫌っていたもの。

 仮に関わっていたとしても、オリバーが居れば即退治されてこんな事にはなっていない。

 とはいえ、一応この人にオリバーの事を聞いてみるとするか。


『【あの、その施設にオリバー・ジョサムがいたという話を聞いたのですが知っていますか?】』


「オリバー・ジョサム? あの英雄五星の? 悪いが、あの施設に居たって話は聞いた事が無いな」


 オリバーが居た事を知らないのか。

 アカニ村の話がガセだった可能性もあるが……んー話を聞いた以上、そのサソリ型モンスターを放ってはおけない。

 それに、もしかしたらオリバーの足取りが施設に残っているかもしれないしな。

 よし、さっそく明日にでも施設に行ってみよう。


 俺は男性から施設の場所を聞き、礼としてヘンテコな形の人形を買って日陰で待つ2人の元へと戻った。

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