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レインの書~巡り合い・4~

 アースもあんな感じで夜な夜な星空を眺めていたのよね。

 ……うん、ちょっとあの人に話し掛けてみようかな。

 おっと、念の為に仮面、仮面っと。


「これでよし」


 アタシはヤシイさんから買った白い仮面をつけフードを被り、プレートアーマーの人の傍へ近づいた。

 このプレートアーマーって、デュラハンやアイリスさんと同じタイプね。

 流行っているのかしら? まぁいいや。


「コホン……こんばんは」


 プレートアーマーの人がアタシの言葉に反応し、ゆっくりとこちらを向いた。


『――っ!』


 そして、アタシを見るなり驚いた様子で後ろに仰け反ってしまった。

 人を見るなり、その反応は失礼しちゃうわね! ……と、いつものアタシなら怒っていただろう。

 でも今のアタシの姿とこのかすれた声、おまけにこの夜中に話しかけられると話は別。

 同じ状況ならアアタシも間違いなく驚く。

 無意味な不安を与えない様に、優しく諭すような感じで……。


「あ~……驚かせちゃったみたいですみません。わけあってこんな姿をしているんです」


 そして、それとなく怪しい人物じゃないアピール。


『……』


 何故に無言。

 ちょっと、返事位返してもよくない?

 驚かせちゃった事は申しわけないけど、さっき謝ったじゃないのよ。


『……』


 少しの沈黙が流れると、いきなりプレートアーマーの人が地面に座り込んだ。

 そして、人差し指を土の地面に押し付け始めた。


「……?」


 この人は一体何がしたいのだろう?

 ……ポ……イ……ズ……? あ~なるほど、地面に文字を書いているのね。

 だったらアタシも見やすい様に座って、書きやすい様に蝋燭を地面に置いてっと。


 え~と、なになに……【ポイズンフロッグの毒で喉を傷めてしまいまして、すみませんが今は声が出せません】か。

 ありゃ、この人もアタシと同様にポイズンフロッグの毒にやられたのか。

 わかる! それすごくわかるよ!

 それで無言だったり、地面に文字を書いていたのね。


「それよくわかります。アタシもポイズンフロッグの毒で喉を傷めたんですよ。今はやっとここまで声が出せるようになったんです」


 こんなカスカス状態だけど。


『……』


 え~と、【それはお互い不運でしたね】か。

 本当にね……あんな所にポイズンフロッグが居るとは思わなかったし、踏んづけちゃうし。


「いやはや、本当ですね……」


 あっそうだ、薬は十分余っているしこの人にあげよう。

 道具袋の中に入れておいて良かったわ。


「あの、良かったらこの薬をどうぞ。よく効きますよ」


 効果は保証済み。

 ただし副作用がありますけどね。


『……!』


 【そんなの悪いですよ! 気にしないでください!】ですって?

 もう~そんな遠慮なんてしなくていいのに。

 喉の激痛はよくわかっているんだから。


「そう言わないでください。困ったときはお互い様ですから」


 アタシは虹色の薬が入った小袋をプレートアーマーの人に手渡した。

 少し悩み【わかりました。ありがとうございます】と書いてくれた。


「いえいえ」


 ちょっと強引過ぎたかもしれないけど、受け取ってもらえて良かったわ。


「ソフィーナ!」


 ん? 教会の方からアタシの名前を呼ぶ声が聞こえた。

 後ろを振りかえると、教会の入り口付近に誰か立っていた。




 ◇◆◇◆


 もう~ジョシュアがそんな顔をするから、色々思い出して喉が痛くなってきたわ。


「どうしたもこうしたもないよ! ……って、聞いているの!?」


「聞いているわよ」


 よくわからないけど、ジョシュアったら何やら興奮しているみたい。

 このまま外に居るのは迷惑になっちゃいそうだ。


「今は夜だから、教会の中で話しましょう」


 ジョシュアの背中を押し、無理やり教会の中へと入れた。


「で、何でジョンがここに居るのよ?」


 寝ていると思ったのに。


「なんか外で話声が聞こえるなと思って来てみたんだよ、そしたら…………あのプレートアーマーの人は誰なの?」


「誰と言われても……知らない人」


「はあ!? 何で知らない人と親しげに話していたのさ!」


「ん? そう見えた? ん~……どうしてだろう」


 自分でもよくわからないや。

 というか、あれは親しく話していたと言えるのだろうか。


「見えたよ! 本当に知らない人なの!? ボクに何か隠してない!?」


「本当だって、それに何も隠していないわよ!」


「それ本当でしょうね!? 嘘だったらボク泣いちゃうよ!」


 しつっこいわね。

 よし、こうなったら……。


「ねぇレイ――もがっ! ……すぴー……すぴー……」


 大口を開けているジョシュアの口に虹色の薬を押し込めた。

 毒じゃないし、健康な人が飲んで問題は無いでしょう。

 これで静かに……あ、しまった。

 副作用のすごい睡魔に襲われる事をあの人に言い忘れちゃってた。

 まぁいいか、どうせ今は夜なんだし。


「ふわあ~……」


 いい感じでアタシも眠くなってきたわ。

 さっさとジョシュアを部屋に戻して、自分の部屋で寝よ。




 ◇◆アース歴9年 6月15日◇◆


 早朝、ヤシイさんと別れを告げアタシとジョシュアは魔樹の跡地へと向かった。

 けど結果は空振り……跡地には枯れた魔樹以外は何もない。

 周辺を調べてみたけど、デュラハンどころか人が居た形跡なんて全くなかった。

 仕方がないのでアカニ村に戻り、昨日の集会の件も含め何か情報が得られないか村長さんのお宅を訪ねた。

 ノックをすると家の中から出て来たのは中年の男性、この人がアカニ村の村長さんか。


「突然すみません。ちょっと村長さんにお聞きしたい事があるんですが宜しいですか?」


 ただ、聞くとしても核心に迫る様な事を話のは止めよう。

 余計な不安を煽るだけだしね。


「はい、何でしょう?」


「プレートアーマーを着た人物、髪が薄紫色の女性、あと腰位まで伸びた黒髪の少女の3人をお見かけしませんでしたか?」


「ああ、その3人なら今朝ここに来ましたよ」


「「えっ!?」」


 待て、慌てるなアタシ。

 アルガムの件もあるんだし、冷静になるのよ。


「そのプレートアーマーを着た人物なんですけど、アーメットに凹みはありましたか? この辺りなんですけど」


 アタシはジョシュアの頭で、メイスで凹ませた場所に指をさした。


「ちょっと、人の頭に指をささないでよ……」


「はい、その辺りに少々凹みがありましたね」


 少々? 結構な大きさだと思うんだけど……まぁそこは人それぞれの捉え方か。

 それに村長さんの気遣いで、少々って言っている可能性もあるし。

 どっちにしろ、村長さんの家に来たのはデュラハンで間違いないわ。

 まさか人に扮して堂々と歩き回るとは、なんて奴だ。


「その人達は何をしにここへ来たのですか!?」


「えっ……えーと……あの人達に何か問題があったんでしょうか……」


 村長さんが困った顔をしている。

 しまった、つい前のめりになっちゃった。

 余計な不安を煽らない様にって思っていたのに、アタシの馬鹿!

 どうにかして穏誤魔化さないと。


「あー……その人達は別行動をしているボク達の仲間なんです。この辺りに居るという事を聞き、合流しようと思って来てみたんですけど……まさか、行き違いになっていたなんてーあっははは!」


 ジョシュアがとっさにフォローにまわってくれた。

 それはありがたいんだけど、デュラハンの仲間ってのはちょっと嫌だな。


「なるほど、そうでしたか。あの方達でしたらオリバー様を探している様で、砂の街【マレス】で魔術研究の施設にいたという話をしました。なのでマレスに向かったと思います」


 オリバーの爺さんを探しているですって?

 もしかして、爺さんの魔力を狙っているんじゃ……だとすれば、大変だわ!

 アタシ達も早く砂の街【マレス】に向かわないと!!

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