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レインの書~巡り合い・3~

 日も落ち、辺りがうす暗くなった頃にアカニ村に到着。

 魔樹の跡地に行きたい事を村長さんに話したいとヤシイさんに話したところ、ヤシイさんも村長さんに挨拶をしておきたいというので、そのまま馬車に乗せてもらう事になった。

 あとこの村には宿屋はないらしく、代わりに教会が旅人の休める所になっているらしい。


「人の姿は無いわね」


 村人はみんな家の中。

 この村に宿屋が無いのもわかる気がする。


「そうだね。とても静か……」


《本当だって! 俺はこの目で見たんだ! 信じてくれよ!!》

《しつこいわね! 酔っぱらいの話んて信じられるわけないでしょ! いい加減にしなさい!》


 1件の家の中から大声で叫ぶ男女の声が聞こえてくる。

 どうやら喧嘩をしているみたいだけど……やばそうなら止めに入った方がいいかしら。


《あ~も~! 物置の中で酔いを醒ましなさい!》

《そん場合じゃ――ちょっ! おい! 首根っこを掴むな! ――――!》


 ……静かになった。

 無事に納まった……って事で良いのかしら。

 ジョシュアも困惑した顔をしている。


「大丈夫デースよ。こコーノ夫婦はいつもこんな感じですカーラ」


 ヤシイさんがけたけたと笑っている。

 いつもこんな感じという割に、男の方はなんか切羽詰まっていた感じがしたのよね。

 アタシの勘違いだったらいいのだけれど……。


「着きマーシた。このイエーがアカニ村の村長さんのお宅デース」


 アヤシさんが赤い屋根の家の前で馬車を止め、馬車から降りた。


「じゃあ、ボクはヤシイさんと一緒に村長さんと話してくるね」


 ジョシュアも荷台をおり、ヤシイさんの後を追う。

 ヤシイさんは村長さんの家の扉をノックすると、中から若い女性が出てきた。

 ジョシュアとヤシイさんはその若い女性と言葉を交わし、馬車へ戻って来た。


「ただいま、魔樹の跡地は観光地だから自由に行っても良いって。それと、ボク達も教会で休んで構わないそうだよ」


 2人が馬車にのぼり、ヤシイさんが奥にあった大きくて立派な建物の方に向かって馬車を動かした。

 あの建物が教会なのかしら。


「そう、自由に入れるのは良かったわ」


 村によっては聖域だから立ち入り禁止! っていう所もあるものね。

 逆に言えばデュラハンも簡単には入れる……なら今すぐ跡地に行きたい気持ちだけれど、正直この体の状態だとまともにデュラハンと戦える気がしない。

 今は少しでも早く体を休めて、明日の朝一に跡地へ向かおう。


「ところで、あの女性が村長さんなの?」


「違いマース。村長さんの娘さんデース」


「村長さんは隣村の集会に行って今はいないんだってさ」


「そうだったんだ」


 隣村の集会か……デュラハン関係の可能性も十分に考えられるわ。

 跡地に何もなかった場合、村長さんの家へ行って確認してみよう。


「今日はここで1泊しマース」


 馬車が大きくて立派な建物の前で停車した。

 やっぱりこの建物が教会だったのか。


「へぇー立派な教会ですね」


 アタシとジョシュアは荷台から降り、ヤシイさんは教会の扉を開けてアタシ達に手招きをした。


「ドーゾ、お入りくださーイ」


 どうぞって……何自分の家に招待をする感じで言っているのかしら、この人は。


「デーハ、ワターシは馬を休ませてきマース。お2人は先に休んでいてくだサーイ」


 そう言ってヤシイさんはもう一度馬車に乗り、教会の裏側に向かって行った。

 なんでわざわざ降りたんだろう、どう考えても2度手間じゃない。

 まぁいいか……ヤシイさんにはヤシイさんの考えがあるんだろ。


「じゃあジョン、教会の中に入りましょうか」


「うん、わかっ……待てよ……1部屋しかなかったらヤシイさんとレインが同じ部屋になってしまうじゃないか。ボクが居るとはいえなんか嫌だな……よし」


「? 何ブツブツと言って……」


「レイン、部屋が空いていたら男女に別れようか」


 急に何を言い出すんだろう。

 今さらアタシはそんな事を気にしないのに。


「アタシは別に……」


「いいから! ほら、中に入るよ」


 ジョシュアが教会の中に入って行った。


「……?」


 よくわからない状態だけどアタシも教会の中に入り、ジョシュアが歩いて行った奥へと進んだ。

 するとドアの前にプレートが掛かっている4つの部屋と、外れている1部屋があった。

 どうやら他にも教会で休んでいる人が居るらしい。

 そう思うと、アタシ1人で1部屋を使うのは駄目な気がする。


「ねぇ本当にいいの?」


「いいの! 気にしないで!」


 ちょっと何ムキになっているのよ。

 人が居るっていうのに!


「し~! 声が大きい、この部屋に人が居るのよ」


「あっごめん」


 ジョシュアが慌てて口を塞ぐ。

 う~ん、これ以上言い合っても仕方ないか。

 何かあれば即移動すればいいだけだしね。


「わかった、それじゃあアタシはこの部屋を使うわ。お休み」


「うん。また明日ね」


 アタシはジョシュアと別の部屋に入り、明かりを付けた。

 うん、部屋はしっかりと清掃されているわね。


「これなら気兼ねなく寝れそうだわ」


 アタシは薄着になり、ベッドの中へ。

 明日は早起きをしてジョシュアを起こさないといけない。

 だから早く寝てしまおう。

 そう思いアタシは夢の中へ……。




「……眠れない」


 ……行けなかった。

 今日は昼まで寝たせいか、全く眠くない。


「う~ん…………お?」


 寝返りをうつと、窓の外に満天の星が見えた。


「綺麗ね……よし、星を見つつ夜風に当たろっと」


 さっそくアタシは外着に着替え、物音を立てない様、静かに教会の外へと出た。


「わあ……」


 見上げると満天の星。

 よくよく考えてみたら、ゆっくりと星空を見るのは子供以来かもしれない。

 野宿はするけどさっさと寝ちゃったり、見張りをしていても周辺や火に気がいっていて星なんて見ていなかった。


「……ん?」


 ふと右を向くと、教会から少し離れたところに誰か立っていた。

 月明かりでちゃんとは見えないけど、シルエット的にプレートアーマーを着ている感じが……。


「……えっ!? プレートアーマー!?」


 こんな夜中にプレートアーマーを着た人……到底、村人とは考えられない。

 だとすればデュラハン? いや、アイリスさんの件もあるから断定はできないか。

 そうだ、アーメットの凹み! 月明かりでも、あの大きな凹みは十分見える。


「……よし、さっそく」


 プレートアーマーの人に気付かれない様にそっと背後にまわり、アーメットの凹みを確認する。

 ……アーメットに凹みは……無し……という事は、デュラハンじゃないか。

 そうよね、デュラハンがこんな所でのんきに星なんて眺めていないわよね。


 でも、何故だろう。

 星空を見ているこの人と、生前のアースの姿が重なって見える……。

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