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アースの書~修理・3~

 ―カーン、カーン


 作業場に金属を打つ音が鳴り響く。

 汗水流して作業している店主を俺はぼーっとしながら見ていた。

 こうして武器が作られるんだなーと勉強にはなるが……この光景をずっと見ているだけというのも実に辛い。


『……もう夕方か』


 窓から入る日の光がいつの間にか赤くなっている。

 1日がもうすぐ終わるか。


「おーい、ジェームスいるか?」


 店の方で男性の声がした。

 どうやらお客さんが来たようだ。


「今日は客が多いな、作業が進まん……よいしょっと」


 店主が作業を辞めて店の方へといった。

 にしても、レインが短時間で戻って来た時は一瞬焦ったなー。

 俺の正体に気付いたかと思った。

 でも、そんな事はなかったしそこで良い事も聞けた。

 レインは今、協会って所に所属していてそこから緊急招集の連絡が来て戻る事になったらしい。

 またいつ追いかけて来るかはわからないけど、しばらくの間は警戒しなくてすむ。

 そう思うだけで実に心が軽い。


「らっしゃい……お、町長じゃないか。まだ武具は全部仕上がってないんだが……」


「いや、もう武具を作る必要なくなったからそれを言いに来たんだ」


 必要が無くなった?

 もう帝国兵が来て盗賊を討伐したのだろうか。


「ん? どう事だ?」


「旅をしている剣士ソフィーナさんとジョンさんが盗賊を捕まえてくれたんだよ」


 なんと。

 帝国兵でも敵わなかった盗賊相手にたった2人で捕まえたのか。

 へぇーやっぱどの時代にも強者はいるもんだな。


「何だって! おいおい、それは本当の話か?」


「ああ、私も確認をしたから間違いない」


「そうか、わかった。解決して何よりだが、出来た分の武具はどうするよ?」


 俺の目の前にはざっと5人分の武具が並んでいる。

 こいつらが無駄にならなきゃいいが……じゃないと可哀想だ。

 俺の体が鎧になってしまったせいか、そんな風に思ってしまう。


「出来た分の請求書を頼む。物の方は倉庫に保管しておくから、明日に人を連れて取りに来るよ。今回みたいな事がいつ起きるかわからんしな……まあそういうのが起きないのが一番いいんだが」


 何だかんだ言いつつも、こいつ等が使われない方が平和って事になるか。

 ……処分されなかったけど、使われもしないかもしれない。

 うーん、実に複雑な気分だ。


「そうだな……わかった、請求書は明日取りに来た時に渡すよ」


「おう。また明日な」


「…………うーむ、今作っている奴は明日には間に合わないし……しょうがない省くか」


 店主が作業場に戻って来た。

 そして俺の方をじっと見て来る。


「となると、修理依頼のこいつをやっちまうかな」


 店主はそう言いながら俺を手に持ち、作業台に座りこんだ。

 やった、この時間からでも俺の修理に取り掛かってくれるのか。


 ―カーン、カーン


 俺の頭の中で金属を打つ音が鳴り響く。

 凹みを外側に叩き出す作業をしているみたいだが……感触はないものの、自分の頭の中を叩かれるっていい気分じゃない。

 早く終わってくれ。


「うーん……」


 店主が俺の頭を持ち上げ、あらゆる角度から見て来る。

 やっぱり、ジロジロ見られるのは恥ずかしい。


「ある程度凹みを戻したが、やっぱ凹んだ跡が残っちまうな」


 ええ、完全には無理なんですか。


「見た目もよくねぇし、溶かして再利用した方が……」


 はっ!?

 ちょっと、それだけはやめて下さい!!


「修理依頼の物だからそれは出来ねぇか。まっ時間はあるから、手は尽くして見るか」


 はあー……良かった。

 溶かされるなんて想像しただけでおっかないよ。




 ◇◆アース歴9年 6月14日◇◆


 早朝、店主は俺の頭を持って宿屋に来ていた。

 町長が来るとそっちの対応に追われるから、朝のうちに渡してしまおうという考えらしい。


「わざわざ届けて頂き、ありがとうございまス」


 ラティアが俺の頭を受け取り店長に頭を下げる。


「いや、こちらこそ朝からすまんな。色々と事情が変わっちまって……それに完全に修復できなかった」


 店主のプライドなのか、何だかんだ言いつつほぼ徹夜で俺の頭を直そうとしてくれた。

 でも、やはり限界がありどうしても凹みの跡を直しきれなかったらしい。

 一体どう残っているのか俺には見る手段が無いから何とも言えないが、頑張ってくれている姿を見ているので文句はない、むしろ感謝しているくらいだ。


「とんでもないです、綺麗になりましたヨ。あっ修理費はおいくらですカ?」


「そうだな、結局完全じゃねぇし……300ゴールドでどうだ?」


 おお、結構まけてくれた。

 大体500ゴールド位するのに。


「わかりましタ……はい、300ゴールドでス」


 ラティアは財布をとりだし、300ゴールドを店主に渡した。


「まいど。じゃあまたな」


「はい、ありがとうございましタ!」


 店主が宿屋から出て行った。

 それを見届けたラティアは、すぐさま2階にあがり自分が泊まっている部屋に入った。

 そして、俺の頭をベッドの上に置いた。

 いや、椅子に座らせてある俺の体……鎧の方に乗せてほしかったんだが、まぁいいか。


「アース様! かっこよくなりましたネ!」


『あ、ああ、ありがとう……』


 凹みを直しただけだから、かっこよくなったっておかしくないか?

 まぁそう言われて嫌な気分じゃないけども。


「かっこよく? 凹みは直ったけど他は同じぢゃんか」


 エイラの声がするが姿が見えない。

 宿屋の中でも姿を消しているのか。


「凹みが直ったからかっこいいんだヨ!」


 エイラの顔が見えないが、たぶんラティアは何を言っているんだろうと不思議そうな顔をしているだろう。

 俺も表情が変えられるのなら同じような顔になったと思う。

 おっと、今はそんな事よりも話事があったんだった。


『ラティア、盗賊の事なんだが……』


「あ、捕まったそうですネ。昨日はその話で持ち切りでしたヨ」


 あーそれはそうか。

 アルガムに直接関わっている事だからすぐ話が広まるわな。


「アカニ村に行く馬車もすぐ再開するそうですヨ」


 おお、馬車も再開するのか。


『それは良かった。いやはや、旅の剣士達には感謝しないといけないな』


「そうですネ~」


 一体どんな人なんだろう。

 名前からすると男女のようだけど……あ、男女と言えば。


『ラティア、レインに会ったか?』


「レイン様ですカ? いえ、会っていませんガ……えっ! もしかして、この町におられたんですカ!?」


 レインと会っていなかったか。

 良かった。


『ああ、昨日鍛冶屋に来たんだよ。でも、協会から緊急招集の連絡が来たから戻るって言っていたんだ』


「そうだったんですカ。オーウェン様の呼び出しでしたら戻らないとですものネ」


 ……ん? オーウェンからの呼び出し?


『えと……ラティア、それはどういう事だ? 協会とは一体……』


「あっそうか、アース様は知らないですよネ。えと、オーウェン様は帝国の手が届かない村や街がモンスターや物資不足で苦しんでいるのを見逃せなかったんでス。それで、帝国とは違う組織を立ち上げましてレイン様とジョシュア様はそこに所属しているんでス」


『あのオーウェンが組織を立ち上げただって!?』


 嘘だろ……あいつが組織を……? まるで想像がつかない。

 オーウェンがそこ所属しているの間違いじゃないのだろうか……いや、流石にそんな間違いはしないよな。

 復活してから俺の中で一番ショッキングな話だわ。

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