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レインの書~盗賊・5~

 黒くて長い髪のモンスター、そして凹んだプレートアーマーを着た奴。

 宿屋で聞いた話と何一つ間違ってはいない……うん、間違ってはいない。

 ちゃんと詳しく聞かなかったアタシが悪い。

 はぁ~まったく紛らわしい奴らね。


「あいつがレ……ソフィーナが言っていたデュラハンか」


 ジョシュアが弓を手に取って戦闘態勢に入っている。

 デュラハンを直接見ていないから、こいつだと思っちゃうのも仕方がないよね。


「……そんなに警戒しなくてもいいわよ」


「え?」


「あれはデュラハンじゃない。あんなボロボロの奴じゃないから」


 よく見ると凹みの他に錆びている部分もある。

 かなり使い古したプレートアーマーのようね。


《あん? おい、今俺様の鎧がボロボロって言ったか?》


「そう言ったけど?」


《フン、わかってねぇな。これはな、歴戦の傷跡なんだよ! 言わば勲章だ、勲章!》


 そんなに胸を張られてもな。

 錆が見えている時点でそんな威厳なんて無いようなものじゃない。


「ねぇ本当にデュラハンじゃないの?」


 ええ……ジョシュアったら、この状況でもまだ疑うの?

 いくらデュラハンを見ていないからってあれは無いでしょう。


「アタシの言う事を信じないわけ?」


「だって、アイリスさんの件があるし」


「……」


 それを言われると何も言い返せない自分が悲しい。

 でも、こいつはデュラハンなんかじゃないのは間違いないもん!


《おい! こら! 俺様を無視してぺちゃくちゃとしゃべっているんじゃねぇ! 俺様を舐めているのか!? ――おめぇ等もてめぇ等だ! 何ぼさっとしていやがる! さっさとこいつ等の身ぐるみを剥ぎやがれ!!》


 こいつには記憶能力が無いのかな。

 待てって、あんたが止めたんでしょうが。


「え? でも、お頭がさっき……」


《早くしねぇか!》


 これは自分の気分次第でコロコロ意見が変わるタイプね。

 いるのよね~こういうめんどくさいタイプって……。


「へ、へい! なんだよ、まったく」

「お頭にも困ったもんだ」

「本当だよ」


 子分達が不満そうな顔をしつつ戦闘態勢に入った。

 こんなのでよくこいつに従っているわね。

 やっぱりあいつはデュラハンで子分達を洗脳している……?

 どうしよう、そう考えるとあいつがデュラハンじゃないって自信が無くなって来た。


「ソフィーナ! 来るよ!」


「っ!」


 今は他の事を考えている場合じゃない。

 あいつがどうであれ、今は戦闘に入っているのだから目の前の事を集中しないと。


「ジョン、6人の相手は出来る?」


「剣が2、短剣が3、斧が1。うん、ボク1人で十分だよ」


「了解。じゃあアタシは頭の方を叩く……わ!」


 背後をジョシュアに任せてアタシはボロアーマーに向かって走り出した。

 その行動が予想外だったのか、ボロアーマーは一瞬怯んだように見えたがすぐに毛玉モンスターの背後にまわった。


《っ黒毛! 火の魔法だ!》


「ギッ!」


 ボロアーマーの声に毛玉モンスターが両手を出し構えた。

 黒毛って、もう少しまともな名前を付けてあげなさいよ。

 ん~毛玉はモンスターだから本当は仕留めておきたい……でもそうしちゃうと、アルガムに対して帝国があれこれと言ってくる可能性がある。

 ただでさえアタシ達が勝手にやっている事だし、これ以上アルガムに迷惑をかけられない。


「仕方ない、かっ!」


 アタシは飛んで来た火の玉を避け、地面を思いっきり蹴って毛玉モンスターに向かって跳躍した。


「グギャ!!」


 そして、毛玉の横顔に蹴りを食らわせ――。


《っな!?》


 その勢いのまま、ボロアーマーの頭にメイスを叩きこんだ。


《――ブベラッ!!》


 変な断末魔をあげてボロアーマーが倒れ込む。

 手足がピクピクと動いていたが、やがて止まり動かなくなってしまった。

 気絶をしたふりをしているかもしれないから警戒しつつ、毛玉の方を確認。


「ウギギ?」


「っ!」


 毛玉はアタシに蹴られた左を擦りながら起き上がった。

 あの蹴りを食らっているのに平然と起き上がって来るとは相当強いモンスターのようね。

 なるほど、帝国兵がやられたのも納得だわ。

 これは手加減をすればアタシがやられ……。


「ウキャア! ウキャキャ!!」


 毛玉が急に踊り出した。

 一体何をしようとしているのかしら。


「キャハー!」


「えっ」


 毛玉が一声奇声をあげて、何処か走って行った。


「……逃げ……た?」


 なんで? どうして?

 本当に訳がわからない。


「えと……とりあえず、こいつの確認をしてみるか」


 アタシはボロアーマーに近づき、殴って大きな凹みが付いたアーメットを外した。

 中からは無精ひげを生やした中年の親父が鼻血を出し、白目を向いて気絶をしている。

 予想通りデュラハンじゃなかったわ。


「頭があるって事はデュラハンじゃなかったみたいだね」


 背後からジョシュアが近づいて来た。

 その後ろには、矢が刺さった盗賊6人が倒れている。

 ジョシュア特性麻痺矢を使ったとはいえ、ボロアーマーを含め実にあっけなさすぎる。

 こんな奴らに帝国兵が負けたって言うの? そこまで帝国兵のレベルが落ちたのかしら……。



 気絶したお頭、麻痺で動けない盗賊達をロープで木に結び付ける作業終了っと。

 後は周辺を捜索しに行ったジョシュアが戻ってくるのを待つだけね。


「戻ったよ」


 お、噂をすればなんとやら。

 ジョシュアが戻って来たわ。


「おかえり、どうだった?」


「近くに野営があってそこに盗った金品があったよ。で、周辺に仲間はなし。これで全員か、いても逃げていった感じかな」


 逃げた奴がいる可能性もあるか。

 まぁでも頭を潰したから大丈夫かな。


「わかったわ。こっちも、どうしてあいつ等がボロアーマーに従っていたのわかったわよ」


 アタシは手のひらサイズで文字が彫られた丸い水晶と、刻印が書かれている髪を取り出した。

 水晶はボロアーマーの体を調べたら出て来た物で、紙は毛玉のモンスターが逃げた方向に落ちていた。


「……ん? それって使役の刻印だよね」


「そう。ボロアーマーは術者で強い毛玉のモンスターを使役していた。それで手下は言う事を聞いていたわけ」


 昔はこの方法を使って、モンスターの軍を作ろうとした国もあったらしい。

 しかし、この使役の魔法には色々欠点があったせいで実現しなかった。

 使役できるのは1人につき1体が限界だから単純に人手不足。

 ボロアーマーの様に術者の意識が途切れると術が解けてしまう。

 だから、自分が寝る前には必ずモンスターも寝かせないといけない……などなど。


「なるほど、だからあの毛玉のモンスターは術が解けたから逃げて行ったわけだ。逆上して襲ってこなくてよかったね」


 まぁそうなったらそうなったで返り討ちにしてあげたけどね。


「さて、それじゃあ後の事はジムさんに任せてアカニ村へと向かうわよ」


 やっとこれで先に進めるわ。


「え? 歩くの!? アルガムに戻って馬車に乗ろうよ!」


「何言っているのよ。今アルガムに戻ったら意味ないでしょう」


「いやでもさ、馬車を使ってもあと1日はかかるよ!?」


「えっ」


 嘘、そんなに?

 馬車でも1日って……それじゃあ歩くとなると……やっぱり戻って馬車に……。


「……いやっ駄目よ、アタシ! ほらジョン行くよ!」


「えええ!! そんなー」


 アタシだって、そんなに歩きたくないわよ。

 でもこればかりはどうしようもない。

 はぁ~途中で馬車が通って、それに乗せてくれることを祈るしかないわね……。

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