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レインの書~盗賊・1~

 さて、メイスも預けたし宿屋に向かいましょうか。

 え~と……確か店を出て西の方角にあったはず。

 にしても、アイリスさんがこの町に居たのには驚いたわね。

 恐らくアタシ達と同じ様に盗賊のせいでこの町に居るのかもしれない。


「……もしかして、アタシ達と同様にアカニ村の魔樹の跡地に行こうとしていたり……って、そんなわけないか」


 たまたま行く方向が同じだったってだけで、流石に目的地まで同じって事はないわよね。

 この辺りはアカニ村以外にも村や町はあるし。


「おっと」


 考え事をしていて宿屋を通り過ぎるところだった。

 ジョシュアはちゃんと部屋を取ってくれたかな。


「こんにち……は?」


 宿屋の中に入ると異様な光景が目に入って来た。


「お願いします! お願いします!」


 宿屋のカウンターの前で中年の男性が、ジョシュアに対して必死に頭を下げている。


「どうか! どうかお願い致します!」


 その男性の右横には中年の女性がいて、同じように頭を下げている。


「いい加減に止めて下さい! お願いしますから!」


 そしてジョシュアも2人に対して頭を下げている。

 なにこれ? 一体何があったというの?


「……」


 うん、これは関わるといけない気がする。

 そっと外に出て、どこかで時間を潰してから出直しを……。


「ジョシュア様! どうか、どうか盗賊を討伐してください!」


 ジョシュア……様? 盗賊を討伐……?

 ああ、どうしてこんな事になっていのかすぐにわかっちゃった。


「うう、どうしたら……あっ!」


「あっ」


 ジョシュア、そして男女と目が合ってしまった。

 あ~も~この状況もそうだけど、理由も理由だしこれは無視を出来ないわね。


「レイン! いい所に! 助けてぇ!!」


 ジョシュアがアタシに泣きついて来た。


「レイン……? ジョシュア様と一緒に居られるという事はレイン・ニコラス様ですか!」


 やっぱりそうだ。

 英雄五星の肩書きでこんな事が起きているんだ。

 多分だけどジョシュアが宿帳に名前を書いて、それを見た宿屋の従業員に英雄五星の? って聞かれたんだろう。

 それではい、そうですって答えた感じだろう。


「宿帳に名前を書いたら、宿屋の主人に英雄五星のジョシュア様ですかって聞かれたんだよ。それでボクがはい、そうですって言ったら……」


 おしい、宿屋の従業員じゃなくて主人だった。

 この感じだと隣の女性は女将さんかな。


「……それで、盗賊の討伐をお願いされてしまったわけね」


「そうなんだよー……」


 英雄五星。

 まったく……いらない肩書をつけられたものだわ。


「ジョシュア様だけではなく、レイン様もおられたとは! どうかお願い致します! 迷惑な盗賊を討伐してください!」


 困ったな、出来るだけ帝国と関わりたくないのに。

 見捨てる感じで嫌だけど、アタシ達の今の立場やオーウェンの協会の事を考えるとここは断らないと。


「えと……この件は帝国に報告をしていますよね。申し訳ないのですが帝国が動いている以上、別組織に与しているアタシ達は安易に動けません。なので帝国兵にお任せて頂きたいのですが……」


 ぐぅ心が痛い。


「そう、ですか」


 宿屋の主人と女将さんが落胆している。

 本当にすみません。


「はあー凹んだプレートアーマーを着けている奴はとても強いらしいから、討伐に来た帝国兵に強いお人が居るといいんだが……」


「んっ!?」


 今主人の口からとんでもない言葉が出て来た。

 凹んだプレートアーマーを着けている奴?

 それって、まさか……。


「そうね。数が居ても傍にいる黒くて長い髪のモンスターが多彩な魔法を使ってくるって話していましたし……」


「んんっ!?」


 女将さんの口からもとんでもない言葉が出て来た。

 黒くて長い髪のモンスターで多彩な魔法を使用する?

 それってあの使い魔のことじゃないの。


「レイン、2人の言っていた特徴って……」


 アタシ達が追っているデュラハンそのものだわ。


「うん、でも念の為……。あの~すみません、盗賊について1つ質問をしてもいいですか?」


 アイリスさんの件もあるからね。

 また間違えでしたじゃ駄目。


「はい、なんでしょうか?」


「その盗賊っていつ現れたんですか?」


 アタシがデュラハンと対面したのは6月11日。

 その盗賊が11日以前に出没していた場合は日にちが合わない。

 ただの他人の空似、アタシ達が追っているデュラハンじゃない。


「現れた日ですか? えーと、2日前の夜ですね。夜道で襲われた行商人がこの町に逃げて来たんですよ」


 2日前の夜か。

 それなら、人間の足では到底無理……なんだけどデュラハンは別。

 転移魔法を使用した可能性もあるし、使えなくてもデュラハンは愛馬として首なしの馬を使役している。

 あの使い魔も空中を飛べるるし、ラティアちゃんも転移魔法や首なしの馬に乗れば人の足の速度なんて関係ない。

 だから2日前の夜にこの辺りに居てもおかしくはない。


「昨日は町の自警団と駐屯していた帝国兵の数名が盗賊の討伐に向かったのですが……返り討ちにあいました。幸い死人は出ませんでしたが、大けがを負いましてね。それで残っていた帝国兵は援軍を呼びに今帝国へ向かっています」


 帝国兵が道を閉鎖していた理由はそれか。

 どうして盗賊如きで道を閉鎖しているのかちょっと疑問に思ったけれど、この話を聞いて納得したわ。

 そうしないと被害者が出るのは目に見えているもの。


「そんな盗賊がいつこの町を襲って来るかと思うと、不安で不安で……」


「……」


 女将さんの体が恐怖に震え、主人が無言のまま女将を自分の肩に寄せた。

 デュラハン、弱っていたのにたった1日で自警団と帝国兵を蹴散らすほど力が戻っているのか。

 これは今すぐにでも叩かないと駄目だわ。


「ジョシュア、今すぐ町長さんのお宅に向かいましょう」


 少しでも時間が惜しい。

 こうしている間にも力を取り戻しているだろうし。


「……うん、わかった」


「え? 本当ですか! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 主人と女将さんが抱き合って喜んでいる。

 はぁ~アタシは駄目駄目ね、デュラハンとか関係なしに最初からこうすれば良かった。

 とはいえ……待っていなさいよ、デュラハン。

 今日で決着をつけてやるんだから!

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